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201112/12

ソーシャルメディアの雄=クレイ・シャーキーの災難(でもないか)…

2007年、私が留学していたNYU大学院ティッシュ芸術学部ITP学科には、今をときめくスターが2人いた。2年後の2009年にフォースクエアを創業する現CEOのデニス・クロウリーとソーシャルメディアの雄=クレイ・シャーキー教授である。
クレイ・シャーキーは2007年「Here Comes Everybody」を出版(邦訳タイトルは「みんな集まれ!」)。「ソーシャルメディア時代」の到来を鮮やかに予言し、注目を浴びた。

スクリーンショット 2014-09-22 12.10.38クレイ・シャーキー(47)

 今更ではあるが、「ソーシャルメディアの時代」とは、個人一人ひとりが発信手段を持ち、拡散させることができる時代である。今までとは異なる新たな表現方法が現れるのは、ある意味当然のことだ。しかし、今回起こった事件はちょっぴり後味の悪いものだった。
2011年10月、NYU大学院ジャーナリズム学部の名物教授ジェイ・ローゼンは、大学の事務局から、『NYU大学院志望の「ルーカス」という青年が、授業参観を希望している』という連絡を受けた。それはクレイ・シャーキーをゲストスピーカーに招く「デジタル・シンキング」という授業で、事前にホームページで予告されていたもの。ローゼン教授は快く了承した。

10月17日、授業当日。教室には「ルーカス」の姿があった。ローゼン教授は「ルーカス」を他の学生に紹介し、講義は始まった。ゲストのクレイ・シャーキーは少し遅れて登場。いつものあの独特の早口と毒舌で、授業は盛り上がりをみせた…。
なぜ、盛り上がったとわかるのか?
それは、授業から10日後の10月27日に、突然その授業の模様がユーチューブにアップされたからである。
http://www.youtube.com/user/veritasvisuals?feature=watch#p/u/3/qBFOmUXR080

動画には
「(左派メディアの)NYタイムズは如何にオバマを応援したか?」
というサブタイトルがつけられ、我らがクレイ・シャーキーは「NYタイムズのコンサルタント」として、その戦略を得意そうにべらべら語ったという体になっている。
動画の中で、クレイ・シャーキーは(いつもの毒舌で)こう言う。
●「(伝統的に民主党支持の)NYタイムズにとって、前回の大統領予備選挙でヒラリー・クリントン候補を差し置いて、当初当選する可能性が1%もなかったオバマ候補を支持するという選択肢はなかった。だから、まずは『オバマ・ガール』という“現象”という形から、取り上げたのだ」
●「『Occupy Wall Street』運動を成功させるためには、最初からNYタイムズのようなマスメディアが取り上げてはうまくいかない」
●「私たちは1%のニュース大好きのエリートだ!」
(これは、『Occupy Wall Street』のスローガン『私たちは99%だ』をもじった洒落でもあるのだが)

この他にも、共和党の大統領候補を切って捨てる発言もあり、クレイを知っているものからすれば、「あ〜いつものクレイ節か」と感じるに過ぎないが、このVTRの編集だと
「あの、学費の高いNYUの金持ちのリベラル気取りが、いい気になりやがって・・・」
というネガティブな印象を強く与える作りになっている。
しかも、この発言が行なわれた場所は、大学院の授業という極めて限られた20〜30人くらいの空間だったのである。ただ一人のstranger を除けば・・・
このVTRを公開したのはジェームズ・オキーフ(27)という「隠し撮り」を売りにしている“お騒がせ保守活動家”である。2011年2月には、リベラル寄りで有名な「ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)」という地味な公共ラジオ局の幹部に、イスラム系の団体を装って500万ドルの献金をほのめかして昼飯を食べ、保守系キリスト教徒に批判的な発言を「隠し撮り」し、ユーチューブに公開。NPR幹部2人が辞職する騒ぎとなっている。
http://www.youtube.com/user/veritasvisuals?feature=watch#p/u/16/xd9OYJMX9t4

スクリーンショット 2014-09-22 12.13.26ジェームズ・オキーフ(27)

「ルーカス」がオキーフ本人だったのか?それとも「ルーカス」がオキーフに隠し撮りビデオを提供したのか?それは、よくわかっていない。
ただ、明らかなことは、このような「隠し撮り⇒公開」が当たり前になってしまったら、閉ざされた空間でのみ許される「本音」の言葉が使えなくなるということだ。
ソーシャルメディアの普及で可能になった「個人の情報発信」と「拡散」が、「五人組」のような「相互監視制度」になってしまっては、元も子もない。
ソーシャルメディアのルールを作らなければ、レッセ・フェールでは「明るい未来」にはつながらないということを痛感させる事件だった。

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  • 山脇伸介
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