あやぶろ

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20145/12

すごい記事が書かれた・・・テレビの未来はこっちだ

つい最近、2本の記事が出された。この記事はテレビの未来にとって極めて重要だ。お書きになったのは、ITビジネスアナリストの大元隆志さん、その記事はこれだ。

キーマンに訊く。日本テレビはなぜ動画配信に挑むのか?(前編)
http://www.assioma.jp/?p=7342

キーマンに訊く。日本テレビはなぜ動画配信に挑むのか?(後編)
http://www.assioma.jp/?p=7352

両方とも、日テレのHulu買収について、日テレの編成局メディアデザインセンター メディアマネジメント部担当副部長の太田正仁さんにインタビューした記事だ。

この記事は、前編と後編ではかなり違った印象だ。

前編で注目すべき点は、まずこれ。
『コンテンツが多様化する時代ですから、視聴者が見たい時に、見たい場所で、見たいデバイスで見る方法を提供することが、テレビ局としての「サービス」になると考えています』
というコメントだ。

これからのテレビにとって絶対にはずせないのは、いつでもどこでも視聴だ。太田さんはそれをサービスとして提供すべきと考えている。いつでもどこでも視聴の重要性や、テレビはサービスだというキーワードについては、私もあやとりブログや講演で強調してきたことだ。それを同じことをテレビの中の人から聞けて、大変心強くうれしく感じた。

しかしこの前編では、思わず「エッ?」と聞き直してしまうような内容もあった。
例えば

『日本は高齢化が進むと考えられていますから「視聴率は微増するであろう」というのがテレビ業界の認識なんです。』
と太田さんは述べられている。しかし今50代、60代の人たちがそれぞれ60代、70代になったときに、テレビの視聴時間をかなり増やさないと「視聴率の微増」は起きないのだが、そんなことが現実的なのであろうか。

また、『地上波の収益はここ数年安定的に伸びています』と言っているが、電通の日本の広告費というというデータでは、安定的に伸びているというより、なんとか下げ止まっているという表現の方が正しいのではないか。

これについては先日もあやとりブログの記事で書いた。
http://ayablog.jp/archives/25324
もちろんテレビ全体ではなく、このところ好調が続く日テレの収入ならば話は別だが。

もう一つ、こんな発言が気にかかった。
『イギリスではテレビ局一社だけで展開するサービスに人が集まり、ビジネスになっている。日本のテレビ局のビジネスモデルはアメリカよりイギリスに近いですから、それを聞いて、これは将来的な柱に成りうるなと感じたんです。』

 

実はこのあやとりブログではこれまでに何度も書いて来たが、私はテレビの未来は全局全番組見逃し視聴サービスにあると確信している。このサービスの大事なところは、全局が同一のプラットフォームで展開することだ。1局だけでは、既存のインターネット・サービスに対抗できる程の、つまりビジネスとして成功できる程のユーザーは集まらない。だからこれからテレビがインターネットを利用したサービスに進出するなら、全局が足並みをそろえるのが何より重要だ。
しかし、太田さんのこの発言は「日テレは1社だけでやる」と宣言しているように聞こえたのだ。

以上のような部分が気にかかり、日テレはずいぶん考え方を後退させたなと感じたのも事実だ。
ところが後編になると前編で感じた疑問点が、一気に解消された。

まず日テレ一社だけでやっていくつもりか、それでインパクトのあるサービスが提供できるか、多くのユーザーを集められるかという疑問だが、これについては以下のコメントで安心したし、そこまではっきり見切っているその理解の深さに驚いた。長い引用だが紹介する。

『アグリゲータのビジネスモデルですから他局さんの存在は非常に有難いですし。逆に将来的には各局で使える共通のプラットフォームにしたい、と考えているくらいです』

『インターネットに出た途端に、テレビ局同士の戦いから、今までと違う人達と戦わないといけなくなるんですよね。そういう人達と限られたパイを奪い合うわけですから、集客装置という土俵づくりは、テレビ局同士手を取り合うべきだと思うんです。ただ、最初から各局集まって「さあ、土俵をつくりましょう」といっても、これまでなかなかうまくいかなかったので、まずは身軽な形で成功事例をとっととつくって、それに乗っていただけるなら大いに歓迎します、というように考えています』

正直、これを読んだとき感動に近いくらいのうれしさを感じた。私はこれまで、テレビの未来を模索し、おそらくこれしかないというものを見出せたと思っている。

テレビの未来④:[いつでも視聴]×[どこでも視聴]の衝撃・後編
http://ayablog.jp/archives/23681
テレビ局がまとまれば、広告費+販促費を狙える!?
http://ayablog.jp/archives/24635
一つのテレビ局の力は全然大したことないことを、もう理解しよう
http://ayablog.jp/archives/25090
メディアの違いは希薄になり、あらゆるコンテンツは混沌の中に
http://ayablog.jp/archives/25113

ただそれを実現するには、発想の大転換が必要だが、それを邪魔するのが、テレビの半世紀以上にもわたる成功体験だ。テレビはあまりにも効率的(=儲かる)で完成度の高いビジネスモデルのために、利益は全て囲い込み他と共有など一切せず、何をするにも独力でやるというやり方が、遺伝子に刷り込まれている。特に視聴率という完全に限られたパイを取り合う熾烈な競争を続けて来たキー局各社が、足並みを揃えてビジネスに臨むなど、本能的に拒絶反応してしまう人の方が多い。それは私自身、とてもよくわかっている。だからテレビ業界の保守層からの反発を覚悟しつつ、サインを発信して来た。

今回、大元さんのこの記事で、初めて自分と同じ方向を見ていてそれをはっきりと公に表明する人に出会った。実はこの方向を見据えている人は、テレビの世界の中にも数は少ないがいる。それは若い人に限らない。私よりずっと年上のはるかに影響力のある人の中にもいる。そういう人たちがその考え方をもっと表明できるような環境を作ることが大切だと思う。この記事はそれを大いに後押ししてくれる。テレビは今、イノベーションを起こそうとしている。テレビの歴史が変わろうとしている。そんな時代に生きていることが、ひたすら面白いし、これからもっと面白くなることがわかっている。

 

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表取締役社長を経て
2014年6月現職(テレビ局系関連企業2社の社長)
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

 

 

 

 

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