あやぶろ

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20145/2

BSデジタル黎明期余話(続編)

BSデジタル黎明期余話(1)より続き

*資生堂・大竹宣伝部長

初期のBS放送は全然コマーシャルが売れない。まあ、受信機がほとんど無いのだから当然であった。勢いどの民放局も出資企業に無理やりお願いしてコマーシャルを出してもらうか、地上波に頭を下げて「買って」もらい番組宣伝に使うかであった。見ていてやたらに番組宣伝が多かったのを覚えておいでの方も有ろう。
その中で敢然、革命的と言うか暴力的と言うか資生堂様が民放5局全局の土曜日午後11時から30分、まとめて買われた。
この時間はどの局を見てもハイビジョンにふさわしい美しい色彩の美しいモデルさんの資生堂のコマーシャルだけが流れたのだ。
当時の資生堂役員待遇宣伝部長・大竹和博さんの決断であった。
彼はBSの将来性や費用対効果の優位性を買ってくれた。
また彼なりにこれまでの広告のあり方、スポンサーと代理店と局の関係を変えたいという、本人の言によれば「ルネサンス」にトライしたのだ。
(今だから言うがこれには買ってもらった方の局の営業出身の社長などは「この買い方は如何なものか」と疑問を呈するほど、前例のないことであった)
大竹さんはこの他にもインターネットのホームページを積極的に使うなど、兎に角前向きであった。
広告界に影響の大きい資生堂、(しかも大竹さんは広告主協会の電波委員長でもあったので)BSを前向きに評価してくれたことは他のスポンサーへの影響もかなりあった。
しかし、大竹さんのこの決断には資生堂の社内にも広告界にも批判や抵抗も多かったに違いない。
これだけではない心労も大きかったのであろう、後に大竹さんは痛ましいことに突然死された。
彼は僕とは高校同級生で、良く食事も一緒にした。

今BS各局は見る人もスポンサーも増え、上場を果たした局も有る。
でも僕はこの隆盛も大竹さん抜きには考えられない。お通夜の光景が目に浮かんでしまうのだ。革命児は常に時代より早すぎる前を行って悲劇に会う。
改めて大竹君を忍びたい。

*受信機は100万円

2000年、開局当時の受信機は1インチ2万円、大画面で100万円であった。その上初期にはプラズマの大画面しか無かった。これでは売れない。(これより数年前NHKを中心にアナログハイビジョン放送を始めた頃には100キログラム、480万円の受信機しか無かったそうだから、100万円でも大変な進歩には違いないが)
しかし僕はBS-iの役員であったから家に受信機が無いというわけにはゆかない。NECのN支配人に無理やりお願いして御殿場の工場から直配で75万円でゆずってもらった。
有り難かったがしかしこの工場直配には参った。
本当にディスプレイ・チューナー・足などバラバラなまま、運送屋さんが玄関に置いて行ってしまわれたのだ。
2階に運んで組み立ててアンテナにつなぎ、双方向の為に電話線もつないで見られるようするのに3日はかかった。足腰も痛くなった。
Nさんに言うと「だってそれで良いって言ったジャン!」である。
このN支配人、業界では名物の超有能営業マンであった。
聞くところではお坊ちゃま育ちらしいがベネトンの派手なコートに赤いマフラーなどして赤坂見附を歩く時などは、一緒に見られると困るから離れて歩かなければならなかった。男同士で見ても色気がある不良ですぐに親しくなれる人柄である。
BSは勿論地上デジタルも合わせて全国の局のマスターやCMバンクやライブラリーなどNECが獲得した仕事はこのNさんと、前編で登場した藤江副社長のコンビの力が多大であった。

こうして我が家の家計を懸けて買った受信機だが当時は全然普及していないので「城所は部屋が狭いから大画面をベランダで傘さして見ているらしい」と仲間内で言われるほど貴重であった。
(この受信機は2005年ごろ壊れたがNECはすでに家電から撤退しておりN支配人が一生懸命修理屋さんを探してくれた。)

なお前回パナソニックの坂本さんと覚書を交わしたのを99年と書いたがこれは2001年の建国記念日の間違いでした。

このように記憶頼みの「余話」だが、「余話」と言うからには本史も必要。 NHKの竹中元局長あたりは8社会などの記録をお持ちではないかと思うが、このデジタル放送黎明期の出来事を纏めて下さると嬉しいのだが・・・。 (あくまで他力本願である)

 

元TBSテレビ特別顧問
2013年4月からTBSホールディングス顧問
TBSメディア総合研究所 上級フェロー
コンテンツのアジア展開に取り組み、BEAJ顧問。
「これからは日本経済のために尽くす」
骨髄異形成症候群で闘病中。

 

 

 

 

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