あやぶろ

多彩な書き手が、テレビ論、メディア論をつなぎます。

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20148/28

ずっと八月で有ればよい

八月、終戦の月である。
8月6日、8月9日、8月15日を中心に、戦争を振り返り犠牲者(天皇を筆頭にした政治・軍事・メディア・教育者など指導層を除く全国民であるが)を悼み、 不戦を誓ったり国の今後の在り方を論じたりする月である。
私も15日に或る集会に参加したが、今年は暑かったし酷い災害も有り、戦争の問題と並んで自然との向き合い方も考えさせられた八月だった。

その中で僕に刃を突き付け自問を繰り返させるテレビ番組が有った。
一つはBS-TBS17日21時からの「そしてメディアは日本を戦争に導いた」である。
もう一つはTBSテレビ25日21時の特別ドラマ「遠い約束 星になった子供たち」である。

「メディアは日本を戦争に導いた」の番組は戦前戦中終戦翌日に新聞・ラジオがどう振る舞ったかを、詳しく検証した。
最初杉尾キャスターは大筋「権力の締め付けによってメディアは戦争に加担せざるを得なくなったのではないか」と言うスタンスで、治安維持法をはじめとする弾圧法を列挙していた。
しかしゲストの作家の半藤一利氏と保坂正康氏は「国家全体の空気の中でメディアは率先して国民を戦争に導き煽動した」と言う主張に力点を置いていた。 画面に映し出される当時の新聞紙面などを見ていると、嫌々戦争に加担させられたというよりは、大いに率先して戦争を煽ったことが判る。
「神国日本・鬼畜米英」とか「欲しがりません勝つまでは」とか「一億総玉砕」とかいう言葉を国民が知ったのは、そして流布したのはメディアを通じてであったろう。もちろんその背景に国家権力特に国家元首であり大元帥である明治憲法天皇制を中心とした軍と政治、司法の圧力が有ることはその通りだが、それだけではない。

まあこの事は過去の事であるから詳しくは触れない。
番組の隠れた本当の主題は「今のメディアは大丈夫か」と言う点である。半藤氏も保坂氏も「メディアはもっと勉強してほしい」と言う柔らかい表現ではあるが、「君たち、危ないのではないかい?」と言っているのである。
流石に杉尾君も「大丈夫です」と断言はできず、今動いている機密保持法や集団的自衛権は危険の始まりである、と言っていた。
この番組の「今のメディアは大丈夫か?」と言う問いかけは、現在は勿論最近までメディアに関わったもの者すべてに突き付けられた問いかけである。

僕は新聞もテレビも、もちろんネットも全然大丈夫ではないと思っている。
日本だけでなく、エジプト・タイ・シリア・イラクなどで起こっていることは、今の時代にネットも含めたメディアがいかに付和雷同であるかを示している。
又、外国は知らないが日本では記者(またはメディアに関わる者全体が)明らかに勉強が足りない。 世界情勢から経済・天候不順から女性や幼児に対する犯罪の増加から科学の変化から、何から何まで我々は勉強しなくてはいけない。
半藤さんが番組で言ったように、「権力者の方がずっと勉強している」なら、それだけでも今のメディアが大丈夫とは言えないのではないだろうか。

さて僕の悲観論ばかり言っても仕方ないからこの問題は番組を見た人皆が考えて欲しいし、見ていない人はヴィデオでも探して見て考えて欲しい。

もう一つの番組は「遠い約束 星になった子供たち」だ。 淡々とした演出で、力んだところがなく、「ずっと山場」のドラマだが、淡々と戦争の実相を見せた。
僕はずっと泣きながら見ていた。まあ年取ると涙もろいのも事実だが、「浮浪児」や「靴磨きの少年」や「鐘の鳴る丘・孤児院」が沢山ある時代に育ったから、光景の一つ一つが涙を誘うのである。
NHKラジオでは相当長い間「尋ね人の時間」と言うのも有った。 松山ケンイチ君は最初相当ぎごちないが、次第に子供たちの名演に共鳴していって、終わりには大変役によく合っていた。この変化は土井ディレクターの演出の妙だと思う。
直接声高に戦争を批判するセリフはほとんどない(内野老人が「俺たちは日本と言う国に捨てられたんだよ」とボソッと言っただけ。)が、見終わって涙をふくと「やっぱり戦争は酷い悲劇だなあ」としみじみ思わされる。
中国の家庭にもらわれた子だけでも何とか生き延びたのがわずかな救いであった。
この番組も見た人は考え、見なかった人はヴィデオを探して欲しい。

今年のドラマではピカイチ、何かの賞を絶対に取らせたい。 と言うわけでもちろん他にも終戦企画はあったと思うが、テレビが国民、視聴者に深くものを考えさせることが有るとすれば、八月がずっと続いて(水害は除いて)こういう番組が週一度くらい放送されれば、メディアの責任の一端は果たせるのになー、と思ってしまった、この八月でありました。

 

元TBSテレビ特別顧問
2013年4月からTBSホールディングス顧問
TBSメディア総合研究所 上級フェロー
コンテンツのアジア展開に取り組み、BEAJ顧問。
「これからは日本経済のために尽くす」
骨髄異形成症候群で闘病中。

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