あやぶろ

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20145/24

アミ焼きにされる民主主義

世界の政治史の上に大変化が起きていることにお気づきの方も多いと思う。
「ネット社会」が生んでいる民主主義の危機である。
「ネット時代」と言う新しい時代に即した政治体制は何なのか?
答えがないままに、多くの国で議会制民主主義が崩れ去り、内戦状態に陥ったり軍事独裁が敷かれたり帰属の変更が起きたりしている。
民主主義はネット時代という網の上で焼かれて危機に瀕しており、この波はいずれ中国を含むアジアや南米やヨーロッパに広がり、日本・アメリカ・イギリスにも波及してくる恐れがあると僕は思う。

ネットの普及が政治体制に与えた顕著な影響は何か?
一つには無署名の、発信者が特定できない「国民大衆」に発言の「場」をつくったことである。
ネット上では誰でも発言できるが、発言の内容は短い「いいね」とか「僕も賛成」とか「反対」とか「殺せ」とか「出て行け」とか、単純粗暴なものばかりである。
重厚な思考の積み重ねや「一寸待ってよく考えよう」と言う内容は見向かれていない。
僕はネットは「場」を与えているが文化と呼べるような「内容」は作ってもいないし与えてもいないと思う。
紙文化は2000年または3000年に亘って失敗を繰り返しながらも一応「議会制民主主義」という落ち着いた政治体制に行きついた。
この制度は直接民主主義の衆愚政治を一定程度食い止めながら、選挙権という 「資格」を特定できる国民が支えてきた。
どの国の選挙でも不正や欠陥が有るとはいうものの、一応「国民の中の出来るだけ沢山の人」が「責任」を持って国の進路について参加できる仕組みである。

しかし今「無署名不特定」の正体不明の発言者が政治を動かし始めている。
「無署名不特定」は「無責任」でもあり一部の者の影の「独裁・勝手な国家運営」でもある。外部からのコントロールであるかもしれない。

エジプト・チュニス・シリア等の「アラブの春」とは一体何だったのか?
タイやウクライナ・クリミアで起きていることは何なのか?
いずれも曲がりなりにも選挙で選ばれたり長期にわたってほぼ安定的に統治を行ってきた政権を、デモであったり反乱であったりネットでの発信であったり 「直接的民主主義」によって打倒した。
勿論政権側の汚職や利益独占や腐敗が打倒されるきっかけになっているわけだが、事の本質は「では打倒の手段や打倒した後の政権がどうなるか」である。
エジプトでもチュニスでもタイでもウクライナでも反乱にネット発信が大きな役割を果たした事は事実である。

しかしこの「直接民主主義」は実はネットを利用できるエリート層や都市労働者、学生らは参加できるが、貧困者や地方の市民や農民は参加できていない。
また外国からの干渉や見えない参加も疑われる。
そしてギリシャ時代以来「直接民主主義」は「衆愚政治」である。
又は中国の文化大革命のように一部の支配者による大衆の煽動、見かけ上の政治参加に過ぎない。

エジプトもタイも結局軍事独裁に陥った。
ウクライナやクリミヤやシリアはアメリカとロシアが自分の都合のよい所だけ支持する干渉そのものであり、結局無政府状態または内戦状態に陥っている。

オバマ政権に至ってはエジプトでもシリアでもウクライナでも「直接民主主義」なら何でもせっかちに支持するという愚を犯して右往左往している。
しかしこれはオバマ氏が無能であるだけではなく、新しい時代の大衆の政治への参加の仕方が見えていないからである。

ネット社会が新しい時代を作り出しているのは確かである。
しかし政治制度に関してはこの新しい時代にどういう制度があるのかまだ誰も分からない。(僕は議会制民主主義の信奉者であるが)
だから今のような混乱は世界中に飛び火するであろう。
当面私たちは煽動や外国干渉が感じられたら一歩踏みとどまって自分で考えてみようと言うしか無い。

(ネット時代の「衆愚政治」の下地作りにテレビが果たした「一億総白痴化」については、自分も参加してきただけに簡単には書けない。 しかし当然指摘されるから、言い訳めいているが、認識しているということだけ取り敢えず言っておきたい。)

 

元TBSテレビ特別顧問
2013年4月からTBSホールディングス顧問
TBSメディア総合研究所 上級フェロー
コンテンツのアジア展開に取り組み、BEAJ顧問。
「これからは日本経済のために尽くす」
骨髄異形成症候群で闘病中。

 

 

 

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