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20178/8

視聴者はユーザーとなり、放送はサービスとなる

このタイトル「視聴者はユーザーとなり、放送はサービスとなる」は、実は3年以上前にこのあやぶろで書いた内容です。
先日8月1日に、サッシャさんと寺岡歩美さんがMCのラジオ、J-WAVEの「STEP ONE」というワイド番組にちょっとだけ出演しました。番組の中のNews Picksと連携した企画「PICK ONE」という一つのコーナーのようなものです。時間は10分弱ですが、テレビの未来について話した中で、象徴的な言葉として出しました。今回は、そのJ-WAVEで話したこと元に考察を深めて見ました。

このPICK ONEという企画は、News Picksの「プロピッカー」である私が、News Picksでコメントした記事から一つを番組が選び、それについて番組で解説するというものです。

この日に選ばれた記事は、「ネットの人気動画が一気に見れるアプリ『ViMET』、運営元が総額7000万円を調達」です。

まず『ViMET』というアプリですが、これはネットに上げられた様々な動画の中から、面白いものを集めてきて、すぐにサクサク見られるというものです。動画のほとんどがYouTubeやTwitterなどにユーザーが投稿したもので、長さは数十秒から数分という片手間に気軽に見られるサイズの動画を、アルゴリズムに加え、時々は人力でも選んでいます。
実際に使ってみると分かりますが、ユーザーインタフェースが優秀で非常に使いやすいアプリです。とにかく快適に見られるので、特に見たい動画がなくても暇つぶしには便利です。

サービスが始まったのは2年前ですが、2017年6月で50万ダウンロードを突破しました。ベンチャーとしてはかなり勢いがあるサイトと注目されています。この『ViMET』を運営するEMET Creation 株式会社が、7000万円の第三者割当増資を実施したというニュースです。

ViMETで見られる動画のうち、かなりのものがテレビ番組の一部分です。一般のユーザーが、自分が面白いと思ったテレビ番組のその部分をYouTubeやTwitterにアップロードしているので、この行為自体が違法といえば違法です。しかし番組を丸ごとアップしている訳ではなく、テレビ局が被る損害はほとんどないといっていいでしょう。
逆にむしろこのViMETのようなアプリ、サービスはテレビの活性化に繋がるのです。
ViMETを使うことでテレビ離れしたユーザーが、もう一度テレビに戻ってくる、テレビ回帰の効果があるのです。

テレビ離れという言葉は、言われ始めてからかなりたちますが、今や、10代20代の若年層だけでなく、30〜40代の人もテレビを見なくなってきています。

このグラフはNHK放送文化研究所の調査ですが、テレビの行為者率の推移を1995年、2005年、2015年と10年おきに比較したものです。行為者率とは、1日に15分以上テレビを見た人の割合dす。男性の方が傾向が顕著なのですが、前の10年に比べると、10代から40代まで、この10年間でテレビを見た人の割合は急激に少なくなっています。
また10年前の10代は今の20代です。この世代を比べてみると、2005年に10代でテレビを見ていた人は、10年後には28ポイントも減少しています。2015年の10代は74%しかテレビを見ていないので、10年後の2025年も同じだけ減少すると仮定すると、2025年の20代で1日に15分以上テレビをみる人は半分以下になってしまいます。
昔と変わらずテレビを見てくれているのは、男性の60代、70代以上と、女性の50代、60代、70代以上の高齢者ばかりです。

なぜテレビはこうも見られなくなってきているのでしょうか。よく、テレビがつまらなくなったと言われます。これは間違いじゃありません。私がテレビの現場にいた2000年以前に比べると、番組の制作環境は大きく変わっています。放送に対するクレームはますます激しさを増し、何かあるとすぐに炎上するようになりました。現場の後輩に話を聞くと、とにかくミスをしないこと、問題を起こさないことのチェックに忙殺されて、面白いことを考える余裕なんかありませんよ、という答えが返ってきます。
昔のように番組づくりで冒険がしにくくなり、表現も制約が多くなったのは確かですが、テレビ離れの原因はそれだけではありません。一番大きいのは、テレビの他に面白いものが次々と現れていることです。昔は暇な時間は、テレビ放送やそれを録画したVTRを見るか、映画ビデオを見るか、ビデオゲームをするくらいしか日常的に楽しめるものはありませんでした。しかし今は、いつも肌身離さず持っているスマホひとつで、ゲームができ、動画が見られ、TwitterやFacebook、Instagram、LINEもでき、本も週刊誌も漫画も新聞も読めます。さらにネットに繋がるテレビが増えてきて、テレビ受像機でHuluやNetflix、Amazonビデオなどの動画配信が楽しめるようになってしまいました。これでは、もしテレビ番組が昔と変わらず面白かったとしても、相対的につまらなく感じてしまうのも無理ありません。

では面白い番組、感銘を受ける番組が全くなくなったのかというと、そんなことはありません。
毎日放送しているたくさんの番組の中には、面白いものもあります。むしろ視聴者の嗜好が多様化して、昔であれば多くの人が面白いと思ったものでも、人によっては面白いとは感じてくれなくなっているのではないでしょうか。
そうなると昔のようにテレビをつけっぱなしにして、ダラダラ見ることも少なくなるでしょう。当然、たまたま見ていて面白い番組を発見するチャンスもどんどん減ってしまいます。SNSで面白い番組の動画を探すのも面倒です。
しかし、ユーザーがテレビを見て「ここが面白い」という個所を切り出して、YoutubeやTwitterに上げている、しかもそれを勝手に集めてきてくれて次々に見せてくれるのはとても便利です。

前述したように、もちろんその動画は権利者の承諾を得ている訳ではないので違法です。それを見るアプリも、「グレー」といえば「グレー」です。
では視聴者がアップロードしたテレビ番組のごく一部分を片端から削除すればいいのでしょうか。そして、ViMETのようなサービスを潰してしまえばいいのでしょうか。私はそれは違うと思っています。
このように番組の一部分を切り出してリンクを貼れるようにして、ユーザーがSNSなどで話題にしやすくすること、つまり「コンテンツの小ピース化」は、本来テレビ局がユーザーとなった視聴者のためにやるべきサービスです。それを、視聴者がやってくれているわけです。つまり、視聴者自らが番組宣伝をしてくれているようなものです。SNSなどを頻繁に使うのはテレビ離れしてしまった若い人たちです。こうしたテレビ離れ層がテレビの短い動画を見て面白いと思えば、テレビ放送も見てくれるかもしれません。テレビに戻ってきてくれるかもしれません。ViMETにはテレビ回帰の力があるのです。

さらに、未来のテレビを考えるときには、「どうやってネットと寄り添っていくか」がとても大事です。ネットと寄り添うということは、「ネットを使うユーザーと寄り添う」ことです。
視聴者はユーザーとなり、ユーザーに寄り添うことは、テレビを放送と考えるのではなく、サービスと考えるべきです。「視聴者と考えずに、ユーザーと考える」、「放送ではなくサービスと考える」これをやった途端に、テレビ局のやるべきことは、全く変わってきます。単に、良い番組、面白い番組を作り、放送したらそれで終わりではなく、ユーザーがまずどうやって放送を楽しめるのか、放送後もどう楽しんでもらうのか、SNSのコミュニケーション空間でも、番組というコンテンツによって、いかにユーザー体験を豊かにしていくかを考えなければいけなくなります。

…と言われてもテレビのことしか知らないテレビの中の人は、ではどうすればいいんだと思うでしょう。実はとてもいい実例があります。ラジオです。ラジオではradikoという豊かなユーザー体験を提供するサービスができています。テレビはTVerという見逃し視聴サービスをやっていますが、ここで見られる番組はごく一部です。しかしラジオでは、radikoというサイトに行けば全局の全番組を、放送と同時聴取でも、過去の聴き逃しでもできます。
しかも、自分が気に入った番組の時間を指定したうえで、シェアすることもできます。「この番組でこの人がこんな面白いことを言ってるからその部分だけ聴いて!」とSNSでシェアできるのです。
テレビ局の仲間であるラジオ局が、そのような素晴らしいお手本を実現しているのですから、テレビも頑張ればいいと思うのですが、なかなかできません。TVerは画期的なサービスです。ここに来れば、いろんなテレビ局のドラマやバラエティーが見逃し視聴できるのですから。しかしこれに対してはあまり積極ではないテレビ局もあると聞きます。そうしたサービスは自分独自でやりたいという考えなのでしょう。ところがユーザーとなった視聴者から見ると、それは不便極まりないとこです。視聴者にとっては自分が見たい番組がどの局のものかなど、全く意識していません。ところがそれを見ようとすると、TVerになければ、それぞれの局のサイトに探しに行かなければなりません。面倒になると、違法動画サイトで見てしまうでしょう。その方がずっと簡単ですから。

radikoのように全局がまとまれば、ユーザーにとってこんなに便利なことはありません。ラジオができているのになぜテレビはできないのでしょうか。それは危機感が足りないからです。

これは、在京キー局5社のタイム収入とスポット収入の合計(いわゆるCM収入)と、全日視聴率の5社平均、視聴率1%あたりのCM収入の推移を、2005年を1としてどう変化したのかを表したものです。

テレビの視聴率は、2005年からずっと下がり続けています。オレンジ色がキー局5社の年度平均全日視聴率の合計値の変化です。それなのに、棒グラフのキー局5社のタイム収入とスポット収入の合計、いわゆるテレビ局のCM収入の変化を見ると、リーマンショックを受けた2009年を底に、その後はじわじわ上がってきていて、この数年は横ばいです。となると気になるのが、視聴率1%当りのCM収入はどうなっているのかですが、それがブルーのグラフです。視聴率の下落にもかかわらずどんどん上昇していて、かつてない高水準、つまりテレビCMの値段はもはやバブル状態にあると言えます。

なぜこんなバブルになっているのでしょうか。テレビ広告の価値が見直されたせいだとか、広告費は景気と連動しているからだとか言われています。いずれにしてもこの状態は、東京オリンピックが開かれる2020年までは続くと思われますが、そのあとは分かりません。景気の下落とともに、一気に暴落することも覚悟しておいた方がいいでしょう。
テレビに残された時間はあと3年しかありません。この3年の間に、テレビは将来どうやって生き残ればいいのか、どうやってユーザーとなってしまった視聴者に愛されるサービスに生まれ変わればいいのかを見つけなければなりません。

テレビのすぐ目の前の未来を考えた時、ViMETのような、テレビを材料にしてユーザーに遊んでもらえるサービスがどんどん出てきてもらった方が、テレビにとってはプラスになります。
どうやって素晴らしいユーザー体験を提供できるのか、その仕組みは、自分たちだけで考えてもできません。ネットの人たちと一緒にやらなければなりません。テレビは半世紀もの間、規制業種という恵まれた経営環境の中で、ビジネスモデルを極力変えずに外の世界をいかに排除するか、利益をいかに囲い込むかという生き方をしてきました。しかしこれからは、全く逆の発想が必要です。コンテンツを小ピース化しオープンにすることで、様々な外部のプレイヤーを巻き込んで、テレビをいかに楽しむかを一緒に開発していかなければなりません。
テレビの中しか知らない人はネットのことが全然わかりません。特に年齢が上の方々は、デジタルネイティブの世代の感覚を理解できていません。FacebookもTwitterもInstagramもLINEもやらない人が、テレビも含めたメディアの未来に対して正しい判断ができるはずがないでしょう。近未来のテレビがどっちの方に進むのかという重要な判断は、もう若い人に委ねるべきではないでしょうか。

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