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20138/28

テレビの未来①…テレビは不便で時代遅れのサービスだ

「視聴者はユーザーとなった」というポストを以前書いた。この考え方をさらに進めると、「視聴者はユーザーとなり、テレビはサービスとなる」につながる。今のテレビ放送を“サービス”としてみると、ユーザーの目には「不便で時代遅れでダサいサービス」だと映る。テレビの未来を考える時に、この視点は決定的に重要になる。

上の一文は、本社であるTBSに提出した『テレビの未来はどこにあるのか』という提言の一部だ。この提言を執筆する過程で、取材やインタビューを重ね考察を深める程、テレビの未来は過去の延長線上には存在しないこと、そしてテレビの未来を明るいものにするためには、TBSというひとつの放送局だけでなくテレビ界全体が一気にジャンプする必要があることが見えてきた。

この提言をベースにしたポストを、『テレビの未来』シリーズとして“あやとりブログ”に公開する。公表が可能になったのは、壮大なテーマの提言執筆を依頼してくれたTBS本社の担当幹部がこの提言の本質を鋭く理解し、テレビ界全体が危機感を共有し、大胆な発想の転換をしなければならないことを敏感に感じ取ってくれたためだ。優れた人材が重要ポストにいてくれたことに感謝する。

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『提言 〜テレビの未来はどこにあるのか〜』の骨子は以下の通りだ。

テレビ局は、視聴者はユーザーになったことを念頭に置き、メディア企業からメディア・サービス企業に進化しなければならない。ユーザーファーストの理念のもと、全番組見逃し視聴サービスやメタデータ・プラットフォームなどの、これまでのテレビという概念を超える新サービスを打ち出し、それによって地上波テレビを再活性化させる。そして、インターネット企業を競争相手として、ユーザーに高いレベルのUX(ユーザーエクスペリエンス)を提供するために、サービスデザインという革新的アプローチで全体のサービスを精緻に結合する。さらに利益を内側に囲い込むのでなく、オープンプラットフォームによる共創という、これまでとは全く異なる発想で様々なプレーヤーを巻き込み、共栄していかなければならない。

これが提言のエッセンスだが、まずは、現状認識からスタートしよう。

「テレビの壁」の崩壊が始まっている

コンピュータとインターネット、それに新たなデバイスによるテクノロジー革命は、世界の在り方も変えてしまいつつある。
これまでの世界は、価値を生み出す源泉をできる限り内側に囲い込み、そのパワーで外側から利益を吸い上げるという形を基本としていた。それは国家も業界も企業も、そしてテレビも同じだった。しかしインターネットによって、内側と外側を分けていた壁は崩壊を始め、混沌としたものになってしまった。

ジャーナリストの佐々木俊尚氏は最新の著書『レイヤー化する世界』で、「コンピュータとインターネットによる第三の産業革命が進行していくと、ウチとソトという区分けは意味がありません。インターネットによってただひとつの<場>のようなものがつくられ、その<場>はインターネットに接続している限り全ての人びとに開放され、無限の広がりを持つからです。その<場>では、かつてウチだった人たちは優位性をなくし、ソトだった人たちは前より活躍できるようになります。強かったウチと、弱かったソトが、ガラガラポンと混ぜなおされるのがインターネットの<場>なのです。」と、現在の世界を表現している。
この「内側と外側の区分けは無意味になる」という概念は、テレビの未来を考察する上で、重要なカギになる。

テレビは放送免許による制約はあるものの、競争相手がごく少数に限定されるという極めて優遇された環境、言わば「テレビの壁」の内側にいることで、メディアの王者として君臨してきた。しかしインターネットとソーシャルメディアの爆発的普及と、デバイスの多様化と進化、それに通信速度の高速化によって、テレビの壁の外側でも、放送を脅かすような動画コンテンツの新たな流通経路が誕生し、急拡大している。

これまでもテレビの壁を乗り越えて内側に侵蝕しようとする試みは様々なされてきたが、テレビの強大な影響力でそれを排除してきた。
テレビ広告という極めて効率的で完成度の高いビジネスモデルを少しでも毀損するものは徹底的に排除するというのが、テレビ局経営者の重要な責務だったし、既得権益を囲い込んで守るというのが、とても正しい企業判断だった。

しかしテレビの外側に誕生した新たな領域は、テレビの壁に守られた内側の特権的領域とは関係なく、テレビ側のコントロールが効かない新たな市場として急速に成長している。
さらに、この外側で育ちつつある新たな領域は、インターネットの、いつでも、どこでも、だれにでも浸透してゆく特性で、テレビの壁を乗り越え通り抜け、内側に侵蝕している。

テレビ広告費はピーク時の2兆円から5年間で1割以上減少した。視聴率も、在京キー局の年度平均視聴率合計を見ると、7年間でプライムタイムが9.6%減った。減少率は実に−15.6%を超える。この減少率で換算すると、7年前の20%は16.8%に、15%は12.6%になる。何となく今の視聴率の実感と合うのではないだろうか。広告費の減少は底を打ったように見えるが、視聴率は低下を続けている。

半世紀以上もの間、テレビ業界を守ってきたテレビの壁が崩壊し始めているのだ。それを一気に加速させるのがスマートテレビだ。

スマートテレビは、テレビ放送からインターネットサイトへシームレスに移行できる。これは地上波放送がデジタル化(地デジ化)した際、コントローラーにBSボタンやCSボタンが装備され、結果、BS放送などの視聴が一気に拡大したのと同様だ。地上波テレビにとっては大きなマイナス効果となる。一方、地上波テレビのリアルタイム視聴と同期した新たなインターネットサービスが可能になる。既に、テレビとソーシャルメディアとを連動させたソーシャルテレビという視聴形態も普及しつつあり、リアルタイム視聴が促進されるプラス効果もある。

スマートテレビによる変化はテレビにとって、プラスもマイナスもあるが、この変化を止められない以上、マイナス面をだけを拒絶することはできない。しかもプラスのはずのソーシャルテレビで、新たな利益を生み出す方法は未だに見いだされていない。
それなら動かずに状況を見極め、冒険や実験は他局にまかせ、成功例だけを模倣するという選択肢もある。しかし先進的な局に追いつく間に、視聴者、ユーザー、株主からは見捨てられ、時代から取り残され淘汰されるだけだ。

シリーズ『テレビの未来』の第1回目は、現状認識だけで終わってしまった。次回の『テレビの未来』②は、冒頭に書いた、「テレビは不便で時代遅れのサービスになっている」ことについて述べる。

 

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表を経て2014年6月現職
テレビ局系関連企業2社の社長
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

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