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20193/1

ついにネット広告費がテレビに並んだ

毎年恒例の電通の『日本の広告費』が発表された。ポイントは…

  • 景気拡大にも関わらずテレビ広告費が減少した
  • インターネット広告費が増加しテレビ広告費とほぼ並び、2019年はテレビ広告費を超えることが確実となった
  • 新たに「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」がインターネット広告費に加えられた 

    …の3点だ。

まずテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネット、衛星メディアの広告費の2005年からの経年変化を見てみる。

景気拡大にもかかわらず2年連続でテレビ広告費が減少

2月の月例経済報告では、景気は「緩やかに回復している」と判断された。2012年12月に始まった景気拡大は、6年4ヵ月となり、戦後最長となった可能性が強い。
一方、テレビ広告費は2008年のリーマンショック後の落ち込みから景気拡大に沿って増加してきたが、2017年に減少し2018年はさらに下げ幅を広げた。
景気は拡大しているのにテレビ広告費の減少傾向がさらに顕著になった。

「あやぶろ」ではテレビ視聴率の下落とテレビ離れ減少については何度もポストを掲載してきたが、視聴率はこの12年間、下がり続けている。それにテレビ離れ減少も確実に進んでいる。そのような環境でテレビ広告費が下がらないほうがおかしいのだが、2010年以降もじわじわと増えていった。
これによって根拠のない自信をテレビ業界が持ってしまったのではないだろうか。他のマスメディアの広告費の下落は、メディアとしてのパワーの低下、つまり広告媒体価値の低下が原因だが、テレビだけは違うという楽観的な見方がまだテレビ業界には残っている。確かにテレビ広告のリーチのパワーはインターネットも含め他のメディアを今でも圧倒している。だからまだ大丈夫、そんなに焦らなくてもいいという感覚が今でも業界内では多数を占めているのではないか。もしくはこのままではいずれは危ないと頭ではわかっていても、そこまで切迫した危機感を、テレビ局経営者たちは持てないでいるのではないだろうか。

このままでは茹でガエルになる。テレビ広告の価値を高めるような様々な施策を積極的に打つべきだ、しかももっと早く。具体的な方法もすでにわかっているはずだ。各局はそのような努力をしていないわけではない。録画視聴率の導入が行われたり、世帯視聴率でなく個人視聴率をKPIにしたりするなどの動きはある。しかしこれでは遅い。

それが2018年の広告費に現れている。

今年、2019年にネット広告はテレビを超える

テレビ広告費は1兆7848億円と前年より330億円減少した。一方、インターネット広告費は1兆7589億円と前年より2495億円増加した。テレビとインターネットの差は、わずか259億円だ。ネット広告費はテレビ広告費の98.5%と肉薄している。

インターネット広告費の増加の勢いを考慮すると、今年2019年にはインターネットがテレビを逆転するのは明らかだ。といっても驚くことではない。私だけでなく多くの方が、ネットとテレビの逆転は2020年には起きるだろう、もしかすると2019年に逆転するかもしれないと以前から見ていたのだから。

そもそも広告分野でのネットとテレビの勢いの差は明白だ。

下のグラフは、4マスとインターネットの広告費を2005年を1として、その後の変化を示したものだ。

一目瞭然だ。ネット広告の市場規模はこの12年間で4.5倍以上に大きくなっている。ところがテレビは2005年以降ずっと水面下に沈んだまま、一度も1を超えていない。BS放送やCS放送などの衛星メディアは、広告費の額は少ないものの拡大を続けてきたが、ついに2018年は減少に転じた。

新聞は滅亡するメディアになるのか

それにしても新聞と雑誌の下落は激しい。0.5以下、つまり半分以下に減ってしまっている。雑誌の廃刊は相変わらず続き、新聞の購読数の減少も加速している。
新聞と雑誌の衰退は、21年間の変化を見るとさらにはっきりわかる。
インターネット広告費が登場した1996年からの広告費の変化だ。

インターネットが誕生し、そこに広告が掲載されるようになっても当初の数年間は、新聞も雑誌もそれほど危機感は持たなかったろう。しかし気づけばもはや、新聞・雑誌には広告媒体としてのパワーは無くなっている。規模としては、新聞はまだ衛星メディアやラジオ、雑誌より大きいが、将来についてはもっとも望みが見えないメディアになってしまっているのではないだろうか。

博報堂のメディア定点調査のメディア接触時間によれば、1日に15分以上新聞を読む世代は、男性も女性も50代以上だけだ。新聞離れはテレビ離れよりはるかに激しい。新聞のビジネスはサブスクリプション、つまり定期購読が基本だ。購読者がいればお金は入ってくる。しかしその購読者は極端に高齢者に偏っている。40代以下が新たに新聞を購読してくれない限り、時間の経過とともに新聞の購読者は減っていく。新たなビジネスモデルの開発は新聞にとって待ったなしの課題だ。

ジャーナリズムにおいて新聞が果たしている役割が重要なのは当然だ。しかしだからといって、経営努力はしなくていいというものでもない。アメリカのニューヨークタイムズも日経新聞も経営環境の変化に対応し、新たなビジネスモデルを成功させつつある。あと10年も経てばはっきりするだろう。10年後、朝日、毎日、読売で残っているのはどこだろう。新聞社は超優良不動産を所持している。各都道府県の県庁所在地の中心に社屋を持っている。地方新聞も同様だ。だからメディア企業としての存続は諦め、不動産業のついでに新聞も出すというのなら規模は小さくなるだろうが生き残れるかもしれない。しかしジャーナリズムを担うメディア企業としてそれでいいのか。今後、新聞に見切りをつけた記者が続々と流出していくだろう。だがその人材を受け入れるだけのメディア企業としての力が、まだネットにはないことが問題だ。今のネットメディア企業には、十分な数の記者を抱えるだけのマネタイズができていない。ジャーナリストという存在がなくなるのが早いか、新たなビジネスモデルが開発されるのは早いか、新聞に課せられた課題は重い。

ようやく統計に加わった4マスのデジタル広告

さて日本の広告費2018では、新たに「マスコミ4媒体由来のデジタル広告費」582億円が加わった。インターネット広告費の増加が大きかったのはこれによるものでもある。とは言っても、インターネット広告費全体の1兆7589億円に占めるマスコミ4媒体由来のデジタル広告費は3.3%に過ぎない。
この582億円の内訳を見てみる。単位は億円だ。

電通によれば…
マスコミ四媒体由来のデジタル広告費とは、マスコミ四媒体事業社などが主体となって提供するインターネット・メディア・サービスにおける広告費のこと。これらのデジタル広告費はマスコミ四媒体広告費には含まれない。なお、テレビメディアデジタルの内訳である「テレビメディア関連動画広告」は、キャッチアップサービスなどインターネット動画配信における広告費のことを指す。
…とのことだ。

雑誌は4マスの中ではもっとも早くネット進出をしていたので、デジタル広告の金額も大きい337億円となっている。また本体の雑誌広告は1841億円なので、デジタル広告は本体の18.3%と2割近くまで育っている。

下に、各デジタル広告費が本体の何%なのかを示した。

テレビのデジタル広告は105億円、そのうち見逃しサービスなどの動画広告は101億円となっている。見逃しサービスは始まって間もないので、まだ本体に対する割合は0.5%でしかない。しかしサービスの対象となる番組数も増えているのと、そう遠くないうちに始まる同時配信サービスによって、テレビメディアデジタル広告費は今後、飛躍的に拡大していくだろう。

インターネット広告費がテレビ広告費の98.5%に迫り、4マス由来のネット広告費がインターネット広告費に加えられるなど、2018年の日本の広告費は、大きな時代の変わり目を感じさせるものとなった。

 

氏家夏彦

メディア・コンサルタント
あやぶろ編集長、GALAC副編集長、NewsPicksプロピッカー、
元電通総研フェロー、元TBSメディア総研社長、
元TBSコンテンツ事業局長、元TBS経営企画局長
仕事は nujiie89@gmail.com

 

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