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20129/10

9・10【無数のスマホに記録される記憶:「時間」と「空間」のメディア論】志村一隆

 

 

スマホ写真家

 

アマナイメージズが出している雑誌「IMA」に、Thomas Demandというドイツ人のアーティストのインタビューが掲載されている。

『誰もが直感的に写真を見るようになり、<中略> 実際に現場にいる人物が発信するイメージが、強いインパクトを与えます。』

その場に居た人が興奮して撮影した写真が、メディアを通じ拡散する。今までは職業写真家の客観的な写真がマスメディアのトップを飾っていた。誰もが写真家である現代は、より直感的なイメージが社会で共有される、という指摘だ。
確かに「美味しい!」とか「夕焼けキレイ!」と盛り上がった瞬間に、我々は何故かスマホのカメラ機能をONにしている。そういった素人写真と、職業写真家が何時間もシャッターチャンスを待って撮影した作品とは何が違うのだろうか?表層的には何も違わないように思える。
違うのは、その写真に至る「物語」(河尻論的表現)であろう。写真を撮りたくてその空間に居た人と、そうじゃない人の違い。その物語に、人を惹き付ける「アウラ」はあるのだろうか。

 

無数のイメージとアウラ


対象や受け手との距離感が生む空間が「表現」であろう


去年、リアルとテレビの生中継について議論したとき、前川センパイからベンヤミンの「複製芸術(写真)にオリジナル作品の良さ(アウラ=aura)はあるのか?」という視点を提起して頂いた。(前川センパイ 2011/6/7「オリジナリティの“一点性”はやっぱり大事だと思うよ」
ベンヤミンは一点ものと複製可能なものについての違いを述べた。ロンドン五輪の開会式にいた数万人が記録したスマホ写真の1枚1枚は、「表現」された作品ではないだろう。しかし、その数万というスマホ写真の集合体には、「アウラ」があるのではないか。
そして、スマホの高機能化と数万のリアル性という時間が、それらのイメージのうち数%を作品に昇華していくのではないか。
InstagramやLine Cameraで、色調や構図を変えたり、スタンプや文字入れができる。スマホ写真家は、直感的に撮影した画像をそうした機能で調整する。それは受け手を意識し始めた結果だ。稲井論(8/24ソーシャルメディアを”考える”)の「知ると考える」を当てはまれば、撮影しアップすることを「考え」始めることになる。
こうした状態は、撮影者とリアル事象、受け手の3者に距離が生まれ、一定の空間(三角形)が成立したこといえる。「考える」とは対象と自分とで空間を形成することと言えまいか。。
「夕焼けキレイ」と思った瞬間に、地平線をまっすぐに切取るのか、少し斜めにするのか?スマホのレンズを空に合わせるのか?地上に合わせるのか?(それによって空の色が変わる)こうした無数の経験が技術を向上させる。
我々はこの10年、インターネットのオープンソース環境で、無数のエボリューションがイノベーションを興してきたのを目の当たりにしてきた。
それと同じく、「表現」分野のオープン・イノベーションが、次の10年で確実に起きるに違いない。

 

「河尻」さんと「やまもといちろう」さんの対談

9/5に下北沢で行われた河尻さんとやまもといちろうさんの対談はとても面白かった。(氏家さん、阿部さん、ウジさんも参加されていた)
やまもといちろうさんの表現手法の背後には、組合せ=編集があり、事件を興す側でなくその波に乗る、その伝え方(編集)を工夫しているという。
事件が収束した後で、記事を書くという距離感は、稲井論「考える」と通底するものがあるだろう。
冒頭で紹介した雑誌「IMA」に掲載されていたThomas Demandの作品は、福島原子力発電所のモニタールームを自分で再現し、それを撮影した写真だった。無表情な機器類は、省略技法(これも編集だ。俳句的?)が使われている。つまり、リアルの再現ではない距離感=空間=考える感がある。
件の後に発表されるThomas Demandの作品、やまもといちろうさんの手法は、どちらも編集概念(作業)を創作自体に取り入れている。

 

メディア:編集=距離=空間


「編集」が内在する「表現」は、自律的に受け手を探す

 

前回ポストで「伝達と表現」について述べた。スマホ写真を、直感的な「伝達」でなく「表現」とするには、対象との距離感や、リアルな場所(8/7 スマホのスクリーンをメディアとする時間と空間 参照)といった「空間」概念を取り込む必要があるだろう。
「考える」ことを「編集」と言い換えても良い。「誰もが写真家」時代の「表現」には、こうした「編集」概念がどしどし入ってくるだろう。
メディア(テレビや雑誌などのメディア自体と写真や映像も含め)がコモディティ化すれば、職業写真家やアーティストの差別化は、その背景(考え方、制作過程の公開もこうした範疇だろう)=物語にしか付加価値が無いからだ。
「表現」に「編集」概念が入り込んでくると、そうした作品は、調停役としてのメディア(テレビや雑誌、新聞というメディア)を必要としない。作品が受け手と出会うためのソーシャル・ネットワークが必要なだけだ。
あやぶろ議論では、時として暴走するソーシャルメディアを「調停」するために何が必要かという枠組みで考える視点がある。調停が、ソーシャル・ネットワークをソーシャルメディアとするという考えだ。
無数に記録されたスマホ情報の調停役=メディア的役割は必要だろう。
しかし、そうした第3者の「編集」を必要としない「表現」も増えるに違いない。「編集」概念で「表現」された作品が、ネットワーク上で、自分の受け手を探す。つまり、メディア機能は作品に昇華され、作品=「表現」は、メディアではなくネットワーク上を徘徊しながら、コミュニティを形成する。

 

スマホ時代のメディア論



スマホ領域のメディア論を新しく確立する必要がある

 

こうしたコミュニティ(小ネットワーク)と調停機能を持ったマスメディアが共存する、それがこれからのマスとソーシャルの情報空間の姿ではないだろうか。
「表現」が受け手を探す様子は、メディアの「時間」で受け手(視聴者)を探すだけでなく、同じ思考を自律的に「空間」で探す様子と表現できる。
こうして考えると、無数のスマホが普及する社会と個人の調停役として、メディアを考える背景には、テレビ論で求められた「時間」に加えて、「空間」をその視点に入れることが必要であることがわかるだろう。
湾岸戦争や9.11は、誰もが思い浮かべる1枚、ワンシーンがある。テレビや新聞といったマスメディアのおかげだ。しかし、オバマ大統領の就任演説(あやぶろ風には、ロンドン五輪開会式)を伝えるイメージは、その場の数万台のスマホ分だけある。これからは、イメージの集合体で、我々の共同体の記憶は紡がれていくのだろう。

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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