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7・30【「走馬灯株式会社」の時間】志村一隆

 

 

 

多層な視点と時間を提示する作品
先日TBSのドラマNEO「走馬灯株式会社」を見ていたら、松本莉緒が出ていて「モテキ」を思い出してしまった。
「走馬灯株式会社」の面白いところは、表現の「視点」を意識させてくれる点だ。
ドラマの映像は、演技を収める第三者の視点と登場人物の視点が錯綜する。そのたびに、作品を見ている受け手は、登場人物になった感覚に陥る。つまり、テレビ映像の中に飛び込んでしまう感じになる。それも、複数の登場人物の視点で映像が作られていて、そのたびに複数の視点から物語に参加することになる。
また、あやぶろで議論している時間論でこの仕掛けを解くと、この作品は、物語のリアルタイムと登場人物の過去の時間が詰め込まれ、さらに作品を見るテレビ視聴としてのリアルタイム、という3層の時間で成り立っている。
視聴者が過ごしているリアルタイムの時間性のなかに、2つの時間軸が組み込まれることで、世間には多様な時間があることを思い起こさせてくれる。

 

物語への参加を促す視点
「走馬灯株式会社」を構成する多層な視点や時間は、リアルな世間の多層性を提示するだけでなく、カメラの視点を利用したその描き方で、受け手を物語に参加させる。物語に引きずり込む手法は、また受け手がリアルな生活もまた多様的なことを思い出すのに充分な効果だ。
作品を見た後、自分だったらどうだろうと考えてしまう時間が続く。こうした作品がソーシャル性を持つ作品と言えるではないだろうか。
いや、テレビ以外にスマホやタブレット、そしてソーシャルメディアが普及し、前川センパイの言う「多層な時間性」を実感するいまこそ、こうした「視点」と「時間」にこだわる作品の存在意義は増している。

 

ソーシャル時代に必要なテレビドラマの時間性
ソーシャルメディアでは、個人のタイムラインごとに、情報の伝達スピードや内容が違う。モバイル機器がメディア接触デバイスとなれば、接触環境も会議中や電車の中などそのときで違う。(6/21ポスト テレビが「時間」を取り戻すにはを参照)
そして、タイムラインを他人と比較できず、デバイスに孤独に接触するのが普通になればなるほど、個人は他人との違いを意識しなくなるだろう。
しかし、リアルな世間の広さを、知れば知るほど謙虚になるのと同じように、なにかで他者の視点や時間を知らなければ、社会に参加できないだろう。テレビは、そうした多様な視点を時間編成に詰め込んで、我々に提示してきてくれたのだが、我々がそのテレビを見るのに家に居なければならないのは、ちょっと現代(東京だけかもしれないが)の時間感覚からズレている。
つまり、テレビは今までの「時間」感覚を、その総体や編成で表現するのではなく、作品ごとに埋め込まなければ、我々に伝わらない。あるいは、時間を刻むその社会的使命を果たすには、番組が独自の時間性を持つ必要があると言い換えてもよい。受け手が、番組を個々のモバイル機器で視聴することをイメージすれば、そうした時間の伝え方も重要なのではないか。
そういう意味で、「走馬灯株式会社」は、マルチスクリーンな時代を意識した作品と位置づけられるだろう。
ちなみに、前回紹介した「主に泣いてます」は、マンガ版にあったページをめくる時間性をカットの繋ぎ方で映像化している。また、テレビ朝日の「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、そうした時間性は感じられないが、この3作品のなかで一番こなれていて面白い。

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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