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20131/19

1・19【EXPERIENCE体験】志村一隆

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Kindleで本棚が片付くと嬉しい

 

体験の拡張

中学で”experience”は「体験・経験」と習った。なにか山登りとか県大会とか、自分にとって結構大きなイベントに参加するイメージ。
その”experience”、メディア系の米国人が議論するときにしょっちゅう出てくる。”customer experience”とか。それを”expand”「拡張する」とか。
「体験を拡張する」ってなんだ?
日本語の語感と違う、何か重要なことを言ってそうだ。

Kindleの読書体験

それが、最近Kindleを買って、”experience”について「こーいうことかも」と思い当たった。
Kindleは本を買うのも読むのも楽しい。本を買うときに、読み終わったあとの置き場所を気にする必要がない(結構これが本買うときの重荷になっていた)。バンバン買える。
そして、Kndleは軽い。厚い本は家を出るとき「まぁいいか」とカバンから外してしまっていた。家にいるときしか読まないのでなかなか進まない。Kindle(他の電子書籍リーダーも)なら持ち歩けるので、ちょっとずつでも読める。寝ながらでも片手で読める。結果、たくさん読める。
そして、いちばんの楽しみは、無料本コーナーで昔の本に出会えたこと。たしかに、同じ本は家にもあるけれど、字は小さいしカビてるし、ということでなかなか読む気にならなかった。
デジタル無料本=青空文庫の存在は知っていた。しかし、パソコンやスマホでは全く読む気になれなかった。それがKindleではどんどんダウンロードして読んでしまう。この辺はスクリーンサイズの不思議だ。
全く知らなかった人を発見したり、教科書で習っただけの人の本が読めるのは、かなりいい。
「泉鏡花ってこんな文体だったの。真似てみよう」みたいは楽しみがたくさんある。
ということで、電子書籍は紙よりも読みやすい。
紙よりたくさん読んでます。これが”experience”の拡張ってことか。

 

電化experienceは人を興奮させる

考えてみれば、こうしたKindle体験って書籍(文章)の「初・電化」と言えないか。もしかして50年前、電気洗濯機、電気冷蔵庫、電気湯沸かし器、家庭に電化製品が持ち込まれたときの喜びと全く同じ「体験」なのかも。
「モノを冷やす」「お湯沸かす」「文章を読む」、目的は同じでも電化前後で、”experience”が違っている。「氷を買って箱に入れて」と「スイッチ入れて、はい自動」では、目的に達する手軽さが違う。
新たな“experience”は人の心を動かすらしい。Kindle買って本をバンバン買っちゃうように、電気冷蔵庫買ってから「とにかく何でも冷やしちゃう」的なことをした人もいたに違いない。
「電化」の力だ。

 

電化から電器へ

いまでも小さな電器屋さんの看板に「●●電化センター」という名前を見かけることがある。
これは、当時の電器屋さんが、「モノ=電器」を売っているのではなく「”experience”=電化」を売っていた証ではあろう。
生活を電化experienceで、人々を興奮させていたのだ。
それが、「電化の●●」「●●電化チェーン」はちょっと古臭いイメージになる。自分が電器屋さんを廻ってた20年前には既に古ぼけていた。
そして、ヤマダ電機、カトーデンキ、コジマデンキが成長する。
「電器」の時代だ。新たな”experience”がもたらされた後は、その改良が延々と続く。「氷から電気」に代わったあとは、「よく冷える」「省エネ」「スペースが広い」と電気機器の改良が行われ続ける。新たな”experience”って滅多に無い。

 

書籍の電化experience

生活が電化されたことをこのKindle experienceに当てはめると、書籍はいま「電子書籍化」=「電(書)化」の段階にいるのだろう。
読んで得られる感動・知識は一緒なのに、同じ本をKindleで買ってしまう。
SONY Readerを買ったときは、それほど読もうという気にならなかった。パソコンにつないでダウンロードするのが面倒だったのだ。それにWindowsにしか対応してなくて、買った本をReaderにダウンロードするのに実家に戻らなければならなかった。いまではAndroidアプリが出ていて、Nexus7でも読める。でも雑紙は自分のReaderでは読めない。Mac版に対応していないので、文芸春秋買ったのに読めない。
つまり、同じ電子書籍化でも、新たな”experience”になっていなければ、買う気にはならない。
コンテンツはキングだけど、いい”experience”が無ければ売れない。。。って、だんだん米国の議論に似てきたので、この辺でやめよう。
ただ、50年前氷屋さんは冷蔵庫メーカーにならなかった。それを考えると、この電子書籍ってなんだかとてもチャンスな匂いがする。

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
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