あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

201312/24

ヤンキーテレビ

 

志村1

 

 

ローカルの現実

 

東北地方のローカルテレビ局に勤める先輩が日本橋人形町を訪ねてきた。
「田舎はさぁ、道歩いてて『おっ、こんな店できたの』的な、そんな発見なんてないわけさ。」
「車で職場と家の往復だけしてると、もう文化的刺激に触れることが無いのよ。」
「週末も『どこ行くっかねぇ』とか言って、大体行き尽くしてるんだよね。」
「いまさ、リスクが少しでもあったら企画はGOしないね。」
「結局、テレビなんてさ、文化的なものじゃないのよ。」
そんなことを言いながら、カフェ三日月座で煮出しミルクティーを奢ってくれる。

 

 

 

日本人の琴線=ヤンキー

 

あやぶろナイト2について原稿を書こうとしていて、とある方が「テレビ業界の人は、斎藤環氏の『世界が土曜の夜の夢なら』が必読書」とツイートしてるのを見つけた。
あやぶろナイト2で、誰かがテレビ局は国道16号線沿いのヤンキーに向けて番組を作ればいいんだっ!的なことも言ってたし、興味を持ったので読んでみた。
セッションで語られたのは、田舎はやることないから、テレビも競争力あるじゃないかってくらいの意味だったろう。ソーシャルゲームは地方のキャバクラの姉さんとトラックの運転手の兄ちゃんがプレイしてる、というイメージ?ちょっと古いか。
ただ、この本のテーマは、ヤンキーはどんな人たちなのかを紹介するというより、日本人の琴線とはなにか?ってとこにある。
大衆の人気を集めて成功した人々。彼らの共通項には、母性、気合、上下関係などがあるという。その成功譚は、少年期の反抗、家族愛が現在進行形で語られる。
原理原則を重視するのと違い、成功するために自説も曲げる。そんな柔軟性。己を空っぽにし、いま=現実との関係性を重視する。
要はポピュリスト生成のレシピ?
日本人全員がヤンキーってことでもなく、ヤンキーそのものを分析するのでもない。
そんなヤンキー論。とても面白かった。だが、これをテレビにどう活かせばいいんだろうか。

 

志村2

 

 

 

ヤンキーイノベーション

 

日本人はヤンキーだ、だからテレビもヤンキーに合わせたら視聴率アップだ!と短絡するとなんだか面白くない。
自分がピクンと反応したのは、ヤンキーの生き方が、非連続な「いま」の積み重ねである点。これはこのあやぶろで必ず立ち返る「お前はただの現在にすぎない」に通じる。(参照:河尻さんの「僕らはただのなうにすぎない?」)
つまり、テレビこそがヤンキーなんだろうか?
だとしたら、テレビは非連続な「いま」の積み重ねの延長線にある。成功の後追いをしていたら、テレビはテレビでなくなってしまうだろう。
ヤンキーを追いかけるんじゃなく、ヤンキーになることがテレビのヤンキー論に対する答えではなかろうか。
矢沢永吉のキャロルが一瞬でリーゼントをカッコよく変えたように、ヤンキーとは元来イノベーションなんじゃないか。つまり、日本人がヤンキーなのではなく、ヤンキーなことが好きなのが日本人なんだろう。
島国がガラパゴス文化を生み、土着で変化の少ない点ばかりに焦点があたる。
しかし、島国だからこそ過去の因習や廻りの慣習に囚われず勝手なことができると考えてもいい。
ヤンキーなテレビ。平成の傾奇モノ。
それが、テレビの使命ではないか。

 

 

 

オマケ:

 

ヤンキーそのものについての分析は、『世界が土曜の夜の夢なら』で度々言及されている速水健朗氏の『ケータイ小説的。”再ヤンキー化”時代の少女たち』に詳しい。
トークセッションにあったヤンキーがどんな人たちなのかってことを知りたい人には、速水氏の本のほうがいいかもしれない。
その速水氏の本に、ヤンキーな人々がもつ『東京に行かない』感覚や『電車に乗らない』感覚が紹介されてる。
これは新谷周平氏の論文「ストリートダンスと地元つながり」からの引用。新谷氏の論文は『若者の労働と生活世界-彼らはどんな現実を生きているか』に入ってるらしいが、まだ届いてないので未読。

あやぶろナイト2のやりとりはSEKINE SadayoshiさんがTwilogにまとめてくれてる。
コチラ

 

 

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
[amazon_image id=”4022733489″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]明日のテレビ チャンネルが消える日 (朝日新書)[/amazon_image][amazon_image id=”4492761934″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]ネットテレビの衝撃 ―20XX年のコンテンツビジネス[/amazon_image]

 

 

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る