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20128/4

8・4【続・志村さんポストへの短いあや取り<ロンドン・オリンピックとメディア>】前川英樹

 

 

志村さんポストが好調だ・・・いや、志村さんが好調なのだ。

7.31【ソーシャル・オリンピックと言われるロンドン・オリンピック】は面白い。何が面白いかというと、いままでは情報の対象だった選手が情報主体になってしまったというところだ。志村さんは「選手のソーシャル・アクティビティのおかげで、グラウンドに立っている選手の視点で開会式を追体験できるのは、とても面白いメディア体験」と書いている。
何故こういうことが起こるのかといえば、「北京オリンピックのときには無かったiPadやまだ発売1年しか経っていなかったiPhoneが、視聴だけでなく情報発信にも使われる。そこにメディア変質のいちばんのポイントがある。」というのが志村さんの観察だ。確かに、インフラとデバイスの両方の使い勝手がもっと良くなるだろうから、こういう「情報化」はますます進むだろう。

また、「いまインターネットで『ロンドン・オリンピック』と検索すると、いちばん上位に来るのは、日本オリンピック委員会のページだ。英語でも同じ。BBCではなく、前述したオリンピックの公式ページにたどり着く。そして、どちらも動画も画像も配信されている。選手個人も画像や自分の調子をつぶやく。これは、この『多層な時間性』に生きる世の中を象徴している事象の一つであろう。」というところに志村さんは注目している。つまり「テレビのタイムラインと同じ時間性をインターネット・メディアが持つ」のが当たり前になってきたのだという。「こうしたことを考えると、テレビ局のツイッター連動やスマホ配信の取組は、ソーシャル時代のテレビメディアを考えるときに、本質的な問い掛けになっていない」のであって、では何が本質的な状況変化かといえば「テレビが進出しないまま、新たな領域が大きく拡大してしまった」ことなのだ、というのが志村さんのロンドン・オリンピックのメディア的評価なのである。

志村さんポストを読んでいただければ、こんな要約は不要なのだが、ちょっとだけコメントするために頭の整理をしてみたのだ。では、何をコメントしたいかといえば以下の点である。

1.  志村さんは「情報の出し手は、メディアと個人の2つに増えた」という視点で考察しているが、実は以前の志村さんポスト「テレビ三角論・5/17」 を巡る<あや取り・6/15> で書いたように、情報空間は①パーソナル(電話・メール、など)、②ソーシャル、③マス、という三層の情報空間が成立していると考えられる。したがって、「情報の出し手」としては志村さんの言うとおりメディア(この場合はマスメディア事業体の意味であろう)だけでなく個人が登場したのだが、発信された情報がどのような関係で消費あるいは再生産されているかという観点からの考察も必要であり、その場合の仮説としてこの「三層構造」を検証してみてはどうだろう。

2.  「テレビが進出しないまま、新たな領域が大きく拡大してしまった」ということの意味である。志村さんがこう書くのは「何故進出しなかったのか、もう手遅れだ」という意味なのか、あるいは「もともとテレビとは違う世界なのだから進出などあり得ない。いまさらツィッタ―やスマホに付き合ってみてもそんな姑息なやり方には何の意味もない」ということなのか。「テレビがなくなるわけではない」と志村さんは書くが、そのことと「進出しないままに拡大した領域」との関係はどうなのか。これは、志村さんに聞くことではなくテレビが自分で答えを出すしかないのだが、志村的「解」も聞いてみたい。これまでの志村メディア論から推測すれば、「(ソーシャルの登場により)テレビが持っていたメディアとしての時間性が相対化されるのは避けがたいのだから、その時間性の特性をコンテンツ(番組・作品)として提示して多様なデバイスに対応するべきだ」ということなのだろう。だが、前回の前川ポストは、まさにそれについてもう一歩の踏み込んで欲しいというリクエストだったのだ。

3.  「ロンドン・オリンピックはソーシャルメディアの五輪」という意見は、志村さんだけではなく、例えば中村伊知哉さんもそうだ。先日の民放連研究所の会合で、中村さんは「シドニー・オリンピックの時に“オリンピックのインターネット化”が始まると思ったけど、実現するには今度のロンドンまで16年かかりましたね・・・というか、16年かかればやっぱり実現するのだ、ということかなァ。」と発言していた。
そうだとすると、<16年>という時間をどう思えば良いのだろう。これは志村さんへの問いかけというより、メディアに関わる人たち(もちろん、あやブロメンバーも)が、<今>を起点に振り返った16年のメディア動向をどう評価・総括するのかを聞いてみたい気がする。
16年・・・ドッグイヤーという言葉も聞かれなくなり、マウスイヤーでさえ陳腐化しているときに、<16年>は大昔のように思われるだろうが、案外そうでないのかもとれない。人間の状況感覚なんてそんなものかもしれないという気がしないでもない。でも、生れた子供が16歳になるんだから、やっぱり結構な時間なんだよなァ・・・。

(シドニー・オリンピック絵葉書)

 

最後は取りとめのない話になってしまった。乞う、ご容赦。

追伸:
8/2の境さんポスト【スーパースターはもう生まれない(そして、それでいいかも)】もなかなか良い。
これについては“せんぱい日記”8月後半分で書こうかな。
それにしても暑い!・・・ですね。
みなさん、お元気で。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964 年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

 



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