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20126/14

6・15【続・イイ当たり!ウ~ン、ファールか!!・・・志村さん、お待たせしました。<三角論>+αのあやとりメモです】前川英樹

 

 

14.次の志村さんポスト「表現とお金―この世知辛い世の中―」で、志村さんは「ぼくのテレビジョン」(村木良彦)の中から「タレントのパーソナリティーと『広告』表現」の一節(ライブ公演の「オレタチハ金ヲ払ッテイルンダゾ」という声)を引きつつ、「お金を媒介にした等価交換、消費への自由な意思決定とその責任といった視点が感じられる」と語っている。
村木氏の文章の要点は「(そのライブの混乱の中で)せっかく垣間見えそうになった歌とは何か、あるいは舞台と観客のある関係へのスリリングな問題提起は流れ去ってしまった」というところにあるのだが、それはともかく、ぼくがハッとしたのは、何度も繰り返し読んでいる「ぼくのテレビジョン」で、ほとんど意識していなかった一章を志村さんが取り上げたことだった。つまり、皮膚感覚に近い読み方をしていた(そのようにしてしか読めなかった)本が、ただのテキストとして読まれているということに、思えばそれが当たり前でまっとうな読み方だということなのだが、そのことに些か戸惑っている自分を発見したのだった。テレビジョンは歴史になってしまったのだ…とも思ったのだった。

15.そのポストで志村さんはこうも書いている。「マスメディアがデジタルに拡大するときに、ソーシャルな方向性に行っても、それは量を拡大するアナログコンセプトの再生産にすぎない」と。これって「アナログコンセプトとは量的拡大のことだ」とい意味なのか、それとも「アナログコンセプトの再生産=量的拡大」という意味なのか。そして「『ウマい』芸を権威づけし再生産する」ことが「質的再生産」なのだろうか?それが「メディアとしての権威付けとなる」のだろうか。「権威付け」って?

16.志村さん、志村さんは自分の思っていることをいまの三倍くらいゆっくり丁寧に書くと良いと思うよ。そうすると、凄くシャープに感じていることが上手く伝わるように思うのだ。ぼくも二倍くらいにした方が良さそうだけどね。

17.その先に、村木さんの「テレビジョンによって何を表現するのかではなくてどのようなテレビジョンをつくるかへの質的変換」という指摘を踏まえて、「表現者には・・・『構想』力、つまり生きていく場をつくるのがまず最初なのであろう」という。そり通りだ。

18.思えば、村木さんが「どのようなテレビジョンをつくるか」といったのは、メディアとしてのテレビジョンそのものであり、その延長にテレビ局そのもの、そしてその具体的な「場」としてMXテレビの最初の構想があったのだった。現実はそうはならなかった。そのことを、村木さんはいつか書き記そうと思っていたのに、果たせなかった。残念。

19.「一つの番組がテレビとはいえないし、一つのチャンネルもそれだけではテレビとはいえなくなってくる。量的にも質的にも多層的であり複合的であること、<ひと>と<もの>の集合であること、私的空間ではなくパブリックな空間であること、<本来>は不特定の人間が自由に出入りするプラザの要素を含むこと、多目的にして無目的であること・・・・・・等々、テレビジョンと街のメディア性は多くの共通点を持つ。恐らく<有線テレビ>は、この二つのメディアの共通点をおさえることによって決定的に、且つほとんど無限に広がる可能性を持ちうるのではないかと思われる・・・・・。」
志村さんのおかげで、久々に「ぼくのテレビジョン」のページを繰っていてフト眼にとまった部分だ(P295)。これは、「メディアとしてのテレビジョンは、何よりも<時間>の中にひととものの多層、多重の<集合>をつつみながら<街>の構造をこじあけていくものです。ビデオカメラや有線テレビを含めて、次第に企業の枠がこわれはじめているいま、あらゆるジャンルの鋭く冷たい目と手がテレビジョンに注がれることが必要なのではないでしょうか」という本文のフレーズについての注として書かれている。
都市とメディアの関係は村木さんのテーマだった。1971年、40年前に書かれたものだ。有線テレビをインターネットに(ついでに、ビデオカメラをスマホに)置きかえれば、そのまま今に当てはまる。その先見性に脱帽する。

20.補足メモ(1)
さらに次の志村さんポスト[落合博満氏の解説]は面白かった。
去年の11月、<3.11の現地視察>の道中で、「志村さんって、どっか体育会系的なとこがあるけど、何かやってたの?」と聞いたら「野球です」という答えだった。「なるほどね、一番セカンド志村って感じ?」「そり通り」「県予選で良いとこまで行くけど、甲子園に行けなかった?」「ええ、まあ・・・」なんてやり取りだった。

21.補足メモ(2)
落合はキャラ的には好ききじゃないけど、野球観は超一流だと思う。もうちょっと愛嬌があればいいのに・・・もう少し年をとると野村みたいになるかなぁ・・・ならないな、多分。
テレビ中継とスタジアムとの違いというのは、テレビ中継であるが故の<表現>があるべきだとしても、やっぱり現場にf敵わない、というのがぼくの素朴な現場信仰だ。だから、現場解説とテレビ解説は違う。現場解説はぼくのための(つまり、志村さんのための)ものだからこそ、良いのだと思う。どうだろうか?

 □

 *    「ぼくのテレビジョン―あるいはテレビジョン自身のための広告―」)(村木良彦 田畑書店 1971)は絶版。古書店でも見つけるのは困難。全冊コピー本が手元にあります。ご希望の方は、前川またはTBSメディア総研・関根にご連絡ください。

*    村木良彦さんに関する記事は、TBSメディア総研HP「メディアノート・Maekawa Memo」に掲載している。是非、ご一読頂きたい。

■No.91(2008.2.1).「追悼 村木良彦さんのこと」
 “ラディカルということは、物事をその根本から捉えるということである”(マルクス「ヘーゲル法 哲学批判・序説」
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media080201.html

■No.92(2.15).「もう一度、村木良彦さんのこと」-<エレクトロニクス・コピー・メディア>と<私>
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media080215.html

■No93.(3.1)「村木良彦氏の<テレビ論>についてのノート・補論」-テレビジョンの可能性と不可能性
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media080301.html

■No119(2009.4.1).テレビ的行為とは何か-放送人の世界・村木良彦-]
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media090401.html

■No120(4.15).テレビジョンの構造転換-補・村木良彦のテレビ論について
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media090415.html
*    また「お前はただの現在にすぎない」の復刊についても、同じく「メディアノート」を参照されたい。

■No.108(2008.10.15).記録の意味-「お前はただの現在に過ぎない」文庫版再刊について
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media081015.html

■No.109(11.1)私的解読・・・「存在論的・テレビ的」]続・「お前はただの現在に過ぎない」文庫版について
http://www.tbs.co.jp/mri/media/media081101.html

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964 年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

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