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20121/30

「“テレビCMは死んだか?”―カンヌ国際広告祭が国際クリエイティビティー・フェスタに変わった意味―」 前川英樹

『“テレビCMは死んだか?”
ネット業界の人々は死んだという。テレビ広告はデータ不在で、経験知しかない。面白かったかどうかが評価軸であり、それは制作費と相関しない。それに対してネットの世界は効果の測定が可能である。テレビCMの役割は終わった。これがネットの人々の見方である。
果たしてそうか。
ニーチェは・・・というのは憚られるが、ニーチェをちゃんと読んでないので・・・「神は死んだ」といった。しかし、それは「神が死んで、全てはニヒルだ」という意味ではない、と思う。神という絶対的存在に頼るのではなく、自らが強くなるべきだ、つまり超人になれ、そうニーチェは言ったのだろう。
(絶対的に強かった)テレビは、一度死んだと考えた方が良い。そこから、新しいテレビCMを作るということをポジティブに考えたい。カンヌの“The International Advertising Festival”が“The International Festival of Creativity”と名前が変わってAdvertisingという言葉がなくなったことは、一度テレビCMが死んだといわれたということだ。そこから、「じゃあ、テレビってなんだ?」と問い直すべきだ。この根源的問いこそが、テレビCMにとってのCREATIVITYだと、私は思う。』

のっけに一番の「肝」の台詞を出してしまうのはどんなものかと思うのだが、美味しいところは後からというテレビ的手法は、もうCMの世界では通用しないらしい。
第58回「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティー・フェスティバル」入賞作品上映会(1.28.横浜 情報文化センター)に行って来た。96本の入賞作品の上映と、フィルム部門日本代表審査員新妻英信さん(博報堂シニア・クリエイティブ・ディレクター)の解説で2時間半、なかなか面白かった。今回はレポーターだ。
冒頭の引用は、新妻さんが最後のまとめとして語った言葉だ。
ほとんど感動的だ。この言葉、この感性、この認識が、テレビ制作者からではなく、CM制作者から語られてしまったことにテレビ局の現場の頽廃を思い、些か寒い思いもしたのだが、それでもやはり「異議なし」と叫びたいところだった。

さて、新妻さんの解説の要点は以下の通りだ。
なお、96本の作品は言葉の問題(日本語スーパーは付いていても、それを読んでいては間に合わないものもある)と感性の相違で、全てなるほどと思ったわけではない。

[フェスタの概要]
カンヌ広告祭は1954年にアドシネとしてスタートし、1992年にフィルム部門以外にプレス&ポスター部門が設けられ、以後年々ジャンルが拡げられてきた。しかし、4~5年前まではアド≒TVCMというくらい、テレビは圧倒的だった。だが、いまやテレビCMは時代遅れで興味を惹きにくいものと見られるようになっている。広告においてもテレビ離れは顕著である。
とはいえ、広告において映像は最強のツールであり、テレビCMもその中にある。映像(動画)の強みは、①時間軸で制作されるためストーリを構成できる、②音楽、ナレーション、SE(音響効果)により表現が多様である、③テレビ、ウェッブ、街頭、アウトドア、など接点が多い、というところだろう。
今回のフィルム部門の参加作品は3,310作品だった。

[今回のフェスタに関するキーワード]
a.<0円/25億円>
これまでのテレビCMは、仮に25億円の予算があれば、制作費に1億+出稿(テレビ)に24憶という構図だった。しかし、①いまや一方では制作・出稿ともに0円という仕組みが成立し(GOOGLE)、②他方では、制作費25億、出稿0、という例(NIKE)もある。①は誰もが制作者(デジタル技術の成果)、誰もが発信者(例えば、Youtubeへアップロード)であることが可能になったためである。②はプロでしかできないやり方(クリエイティブにコストをかける)として巨額な制作費を投入し、これまたテレビではなくネットへ露出するやり方である。新妻さんは、アマチュアは一回だけは人を驚かすが、プロはそれを継続する能力を求められると、別の話題で発言)。
2010ワールドカップ大会の公式スポンサーの座をアディダスに奪われたNIKEは、25億を投入してこのCM(NIKE FOOT BALL)を制作した。ヒエラルキーのトップに立つための垂直的戦略といえる。それと対照的だったのはPUMAのCMで水平的でデモクラチックな発想だった(AFTER HOURS ATHLETE)。個人的には、こっちの方がクリエイティブだと思った。
[前川註:斜体部分は新妻さんからのご指摘を受けて訂正したものです。執筆の際の資料確認のミス及び会場でのメモ作成時の記憶違いでした。すでに読まれた方には大変申し訳ありません。新妻さんご指摘ありがとうございました。]
b.<オールド・スクール>
オーソドックスなテレビCMも健闘していた。
c.<検索されるCM>
何のCMか見終わってから「ああ、そうか」と分かるという作り方(TVCM型)ではなく、既にそれは承知されていて、その上で検索されるCMスタイルが増えている(HEINEKEN)。
d.<カンヌ文法を超えるもの>
カンヌ文法とは、テレビ的CM作法をいう(したがってbと通ずる)が、それをこえたところで発想され制作されたものが多くなった。
T-MOBILEシリーズなど、CMのコンテンツ化が例。また、UNICEF(テレビを消すと、そのスクリーンに日常の光景か反射する)やHONDA-JAZZ、など。

 

[日本代表審査員として]

審査は委員長1、委員21人。
3,300本をショートリストと呼ばれている300本に絞る。一作品見終わると2秒以内に、①受賞可能性あり、②ショートリスト対象、③それ以外、の三段階で評価する。
2秒で審査はきついが、考え過ぎるのは確かに良くない。
審査で日本のCMを見ると違和感がある。放送上の規制が多いこともあってだろう情報量が多すぎて、何を言っているかが分かりにくい。不利だ。その中で、日本の広告をなんとか評価させようと頑張った。

いきなり賞取りは大変だから、「ショートリストに乗ろう、世界のCMの300本に入ろう」というのが良いように思う。

銀賞=NTTドコモ(シロフォン)
銅賞=日本酒類(シャンパングラス)
九州新幹線(250Km)

[まとめ]
(そして、冒頭の[まとめ]が来る)

[質疑応答・・・新妻さんのコメント]

□  モノを売る広告と賞を取ってブランド力を上げるという広告があると思う。
□    賞を取るということなにか。
体操の内村航平選手が<×回宙返り△回捻り>をやって、あれは何の役に立つのといわれれば、「さてね」ということになる
けど、人間にあんなことが出来るなんてすごいなァと思うのと同じ。人間にはこんなオモシロイことが出来るんだということが
大事。
□    やはり、サイバー部門は元気だ。ネットテクノロジーを使って訴えることが説得力を持ってきている。
□    審査の時のランチはケータリング。ワインを飲んでた審査員もいた。

ぽくの若干の感想

  1.   NIKEとPUMAのCMの垂直的戦略と水平的アピール(デモクラティック)の話を聞きながら、「あやブロ」で河尻さんポストが言っていた「垂直的政治力学と水平的ネットワーク運動」という関係を思い出していた。
  2. それにしても、NIKEの25億は掛け過ぎのように思えたし、逆からいえばそんなにかかっているのだろうか、ギャラ部分なのかな、などとも考えた。
  3. NTTドコモのCMは初めて見たが、見た瞬間「アッ、日本的」と”切実に”感じた。美しいといえば美しい、透明感も素晴らしい。やはり、われわれはこの手で行くしかないのだろうか、という感じだった。これまた、河尻-前川往復ポストのクール・ジャパンをどう考えるかに繋がるだろう。
  4. 昨年日本のテレビCMで、九州新幹線と並んで評価された[東京ガスのお弁当シリーズ]は、やっぱり海外では分かられにくいのだろうか(出品されていたかどうかは知らない)。
  5. ウェッブを主たる対象としたCM(あるいは、ネットにアップロードされたCM)のクリエイティビティーを、テレビはもっと評価するべきだろう。クリエイティビティーはテレビの特権ではない。だからこそ、テレビのオリジナリティーが大事なのだ。
  6. テレビの若手の制作者たちは、自分はウェッブの世界抜きに生活が成立していないはずなのに、だからウェッブ広告に接しているはずなのに、そのことが仕事としてテレビに向き合う時には何の刺戟にもなっていないのだろうか。
  7. 総体的なコメントは、冒頭の新妻さんの「まとめ」に尽きる。
  8. 繰り返すが、テレビ業界より広告代理店業界の方が状況に敏感で危機感も強く、その分だけテレビメディアへの踏み込んだとらえ返しと、そこらおけるクリエイティビティーの再構築に意欲的である。それだけ、クライアント=世間との間に緊張関係があるのだろう。
  9. 「テレビとは何か」という根源的問いがクリエイティビティーの基本、というのは本当だ。まるで、角を曲がったら突然「60年代テレビ論」にぶつかったみたいな気分だ。それを理論としてではなく、新妻さんたちは行動として示すだろうか、あの時のテレビマンたちのように。
  10. テレビの現場は何をしてるんだ・・・。
    「テレビCMは復活したが、テレビは死んでいた」・・・なんてね。
    それともそれは「テレビ」ではなく、「テレビ局」か?

それにしても新妻さんいいナ、七分のパンツに赤いソックスって。でも、寒気団襲来の中で寒くないのかなァ・・・。
面白い話をありがとうございました。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール

1964年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳のある日突然メディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。
ホームゲレンデは戸隠。

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