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20127/31

7・31【ソーシャル・オリンピックと言われるロンドン・オリンピック】志村一隆

ロンドンオリンピックの屋外ビジョン

 

ロンドン・オリンピックは、ソーシャル・オリンピック

 

ロンドン・オリンピックはソーシャルメディアの五輪と言われる(らしい)。選手入場のときに、スマートフォンを掲げながら歩いているアスリートがたくさんいたのを見た人も多いだろう。あれは、そのままつぶやくのかな?と思って、自分でも名前を知っている有名な選手をちょっと調べてみたら、結構やっていた。
米国NBAのルブロン・ジェイムス選手や、ジャマイカのウサイン・ボルト選手、それにパラグアイのレリン・フランコ選手(ミス・ユニバース代表でもある)は、開会式の花火や選手同士のツーショットの画像をツイッターでバシバシあげている。
選手のソーシャル・アクティビティのおかげで、グラウンドに立っている選手の視点で開会式を追体験できるのは、とても面白いメディア体験だ。
選手だけでなく、開会式で演奏したポール・マッカトニー氏も、演奏したステージから画像をフェイスブック上に掲載した。そのコメントには、20時間後に「いいね!」が23,000件に達し、そのときまだ1分間に100件弱近いペースで増えていた。
今朝、NHKBSで見た自転車個人ロードレースで金メダルを撮ったカザフスタンのアレクサンドル・ビノクリフ選手は、レース直後につぶやいているし、銀メダルのウラン選手(コロンビア)は、メダルを掛けた画像をアップしている。優勝が期待されながら、負けてしまったイギリスのマーク・カヴェッシュ選手は、レースの始まる2時間前の画像をアップしている。
日本でも、サッカーの清武弘嗣選手も予選スペイン戦のあと、つぶやいている。女子サッカーの川澄選手はブログを毎日更新している。

(オリンピック選手がアップしたツイッター画像をまとめてみた。コチラ

 

出身国によって違うソーシャルメディアの利用

今朝調べたのは、ロンドンオリンピックサイトの選手紹介のページから適当に検索してみたのだが、ツイッターを利用している選手は北米、西欧の選手に多かった。そして、画像アプリは、ほぼインスタグラム(Instagram)を使っていた。
ロンドン・オリンピックは204ヶ国から選手が来ているが、旧ソ連圏、アジアや南米などの国々の選手を、検索してもなかなかでてこない。モバイルの回線インフラやスマホの値段など、国によってソーシャルメディアの利用度の違いが想像できる。
バスケットボールやテニスなどビッグビジネスになっているスポーツ種目や、レリン・フランコ選手のような美人アスリートは、プロモーションのようにソーシャルメディアを利用する。金メダリストでも、自転車のビノクリフ選手はフォロワーが2,700件しかないが、NBAのレブロン・ジェームス選手は550万件もフォロワーがいる。つぶやく回数も多いし、内容も面白い。

 

テレビのタイムラインと同じ時間性を持つ

こうした選手からのリアルタイム情報とテレビでの生中継をミックスしたメディア体験は、あやぶろで議論している「時間の多層性」を違った角度から考えさせてくれる。
我々情報の受け手は、メディアだけでなく選手個人からも情報を受け取る。情報の出し手は、メディアと個人の2つに増えた。テレビに映っている開会式から、そこに居る選手がツイッターで画像をアップロードすれば、それはテレビのタイムラインと同じ時間性をインターネット・メディアが持つことになる。
これは、インターネットが、「いつでも好きな時間に見てよい」という利便性の提供する役割から一歩進んだことを意味しないだろうか。つまり、メディアが刻む時間性だけでなく、メディアの被写体だった選手たち自らの時間性が発信され、情報の受け手と共有される。
ソーシャルなオリンピックと言われると、ついテレビ局のソーシャルな動きに注目してしまうが、その本当の意味は、マスメディアと個人メディアという「多層性」が世界的に認められた点にあると言えよう。

 

ロンドン・オリンピック公式サイト

我々はロンドン・オリンピックを見るのに、もちろんテレビで見ている。迫力ある映像だし、インタビューも楽しんでいる。オリンピックといえば、子供の頃からテレビで見ている。新聞で選手のコメントも読んだ。
いまインターネットで「ロンドン・オリンピック」と検索すると、いちばん上位に来るのは、日本オリンピック委員会のページだ。英語でも同じ。BBCではなく、前述したオリンピックの公式ページにたどり着く。そして、どちらも動画も画像も配信されている。選手個人も画像や自分の調子をつぶやく。
これは、この「多層な時間性」に生きる世の中を象徴している事象の一つであろう。

BBCは、24チャンネルで全競技を放送する

 

ソーシャル時代のテレビ局を考えるいいきっかけ

こうしたことを考えると、テレビ局のツイッター連動やスマホ配信の取組は、ソーシャル時代のテレビメディアを考えるときに、本質的な問い掛けになっていないことがわかるだろう。(もちろん、ネット配信が悪いと言っているわけではない)
問題は、テレビが被写体としている対象が、メディアとして新たな時間性を持ち始めている点にある。北京オリンピックのときには無かったiPadやまだ発売1年しか経っていなかったiPhoneが、視聴だけでなく情報発信にも使われる。そこにメディア変質のいちばんのポイントがある。
NBCのフェイスブックページは、20万人以上が「いいね!」を押している。前述したがレブロン・ジェームス選手のツイッターフォロワーは550万人、ボルト選手は60万件もいる。テレビメディアのページよりも人気があるのだ。選手のフォロワー数が増えて喜ぶのは、マスメディアでなくて、選手に多額の投資をする大手ブランドだ。大会主催団体のページには動画も画像もある。
そして、我々はテレビもソーシャルメディアも楽しむ。個人がソーシャルに発信するからといってテレビが無くなるわけではない。ただ、テレビが活躍する領域が狭まっているのだ。というよりも、テレビが進出しないまま、新たな領域が大きく拡大してしまったのだ。

 

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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