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20128/1

8・1【メディアの時間性と番組(=コンテンツ)の時間構造・・・志村さんポストの短いあや取り】前川英樹

 

今回(7/30)の志村さんポストは簡潔で、凄くいい。いつもと違う?・・・ハハハ(笑)、失礼。
といって、感心して同意しただけではあや取りにならない。だから?志村メディア論がその先に行くために、一つだけリクエストしよう。

志村さんはこう書く。
「テレビは今までの『時間』感覚を、その総体や編成で表現するのではなく、作品ごとに埋め込まなければ、我々に伝わらない。あるいは、時間を刻むその社会的使命を果たすには、番組が独自の時間性を持つ必要があると言い換えてもよい。受け手が、番組を個々のモバイル機器で視聴することをイメージすれば、そうした時間の伝え方も重要なのではないか。」と。

もともとフローをベースにしたテレビ番組は、時間が多重に構成されているドラマは余り得意ではなかった(はずた)。映画のように省略と飛躍で客の想像力を引き出すモンタージュ的な手法より、もっとベタな方法(連続、持続)をベースにして成立してきた。それは、光学的と電子的という媒体の違いでもあり、あるいは閉鎖空間と開放空間という視聴条件の違いでもある。論理的メディアと感性的メディアの相違ということもあるだろうか。

だが、デジタル技術はテレビにも自由な時間構成を取り込むことを方法として可能にした。
だから漸く、「受け手が、番組を個々のモバイル機器で視聴することをイメージすれば、そうした時間の伝え方も重要なのではないか。」「ソーシャルメディアでは、個人のタイムラインごとに、情報の伝達スピードや内容が違う。モバイル機器がメディア接触デバイスとなれば、接触環境も会議中や電車の中などそのときで違う。」という状況に見合ったドラマとして、「物語への参加を促す視点」が成立したのだ。このような時間の多重性(番組独自の時間性)が表現されることは大事なことなのである。それが、例えば「走馬灯株式会社」のような番組なのだろう、「走馬灯株式会社」をまだ見ていないけどもちろん、この原作をテレビドラマ化しようという状況感覚が先行する)。

しかし、そのことと「テレビは今までの『時間』感覚を、その総体や編成で表現するのではなく、作品ごとに埋め込まなければ、我々に伝わらない。」ということは同じだろうか。「作品ごとに埋め込まれる時間性」つまり表現論としての時間性と、メディアとしてのテレビが社会的に機能してきた時間性は相互に深く関わりながら置き変わったり代替されたりすることはない。それを論点として成立させるためには、ソーシャルメディアが多様なデバイスで情報(テレビ情報も含めて)交換が可能になったことによって不要とされるはずの、<テレビの「総体や編成で表現する」こと>に立ち返らざるを得ないのだ。

ソーシャルメディアの登場が提起した重要な問題は、非テレビ的時間=時間の多層性そのものであって、番組あるいは作品というコンテンツの時間構成の問題ではない。もちろん、それはそれで重要だということは既に書いた。
「『空間を埋めるコンテンツ』も『自らの価値』も、リアルタイム性あるいは時間の記録性と相反しない。つまり、それぞれのメディアがそれぞれの時間性をどれほど有効に機能させるか、という問題であって、当然テレビにとってもそうなのだ。」(7・9【メディアと時間についての断章と最近のいくつかのポストについて一言】)と書いたとおりである。
だから、志村メディア論にはそこをもう一歩踏み込んでほしいのだ。そして、その対極として、例えばソーシャルメディアの時間性は、ネット上を流れるコンテンツの時間性と同一のものとして示されるのだろうか、そうだとするとソーシャルメディアの時間性とは何であろうか、という問いが設定可能であると思うのだがどうなのだろう。

そして、もう一つ。
視聴者・ユーザの時間(生活行為としてのリアルタイムと体験として蓄積された時間感覚の二重性)と制作者の時間感覚(番組が内包する時間構造をどう表現するかということと制作者の時代感覚の二重性)が、夫々にどう出会うかという更なる関係性は、<ドラマもドキュメンタリーである>という点でとても大事なポイントだと思うのだが、どうだろう。

…と、ここまで書いて氏家管理人に送ったら、もう次の志村さんポストがアップされていて、更に境さんポストまで来ているという。次々とあやとりに迫られて“せんぱい”として忙しい8月が始まった。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964 年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

 

 

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  1. 2014年 3月 22日
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