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20126/3

6・3せんぱい日記①【静嘉堂文庫 ボストン美術館 放送人グランプリそして、オウムとフクシマのことなど】前川英樹 

 

 

5/16(水)

「夢よりも深い覚醒へ-3.11後の哲学」(大澤真幸・岩波新書)を読む。
激しい知的刺激。
例えば、原子力を巡って<未来の他者>との間でいかにして合意を成立させるかというテーマは、思想的であり、かつ倫理的である。原子力とは現在を生きている人々が選択する問題だけではなく、その選択は<未来の他者>に深くかかわる問題なのだ。
それにしても、原子力の問題を一神教の論理と突き合わせて思考するというのは、中沢新一も「日本の大転換」でも示していて、つまりそれは「人間のあり方」をどこかで超えてしまっているところから来るのであろう。大澤真幸はキリスト教の内在の論理から原子力の乗り越えを見出そうとするが、中沢新一は一神教=資本主義=原子力という共通の論理構造から脱出することに基本的視座をおいている・・・ように僕には読めた。

「放送人の会」の放送人ブログをa-blogにする最終段階。僕でも、画像の取り込み、画像の空きスペースにテキストへの回り込み、リンクに張り込み、など簡単にできる。HPもそのシステムだったらずいぶん楽になる。

 

5/17(木)

午前中、二子玉川の静嘉堂文庫美術館。「東洋絵画の精華」展。
「平治物語絵巻 信西巻」、「四条河原遊楽図屏風」、尾形光琳「鵜舟図」、鈴木基一「雨中桜花紅楓図」、丸山応挙「江口君図」、渡辺崋山「遊漁図」、など。
この四条河原の情景は面白い。遊郭が島原に移転させられる前の様子を描いた、近世初期風俗画の傑作だそうだ。子細にみると実に色々に書き込まれていて、例えば、手前の方に見られるのは豪猪(やまあらし)の芸だという。

「四条河原遊楽図屏風」

一番観たかったのは、崋山の絵。江戸後期のインテリ武士で、蛮社の獄で蟄居、のちに自死した崋山という人に興味があった。同じ事件で逃げに逃げた高野長英を描いた吉村昭の小説(「長英営逃亡」だったっけ)も面白かった。遊漁は蟄居の身の思いを描いたとも言われている。


渡辺崋山「遊漁図」

 静嘉堂文庫は三菱二代目社長岩崎彌之助(彌太郎の弟)、四代目社長小彌太の親子が古美術・書籍を収集し、整理保存のために設立。関東大震災後の大正13年(1930年)現在の地(当時は北多摩郡砧村岡本)に移った。その後、岩崎家が全ての美術品を寄贈、昭和63年から公開、平成4年に美術館が新設。現在は公益財団として運営。
根津美術館もそうだが、当時の新興ブルジョワジーたちは財力だけでは一流の地位に立てないと思っていたのだろう。支配者になるには美を支配したいのだ、秀吉からヒットラーまで。

その後、渋谷に出て靴を買う。
夜、地デジに深くかかわった元官僚(後に次官)某氏とお台場局の某氏と新宿で会合。

 

5/18(金)

「政治と思想」(柄谷行人・平凡社ライブラリー)読む。柄谷氏本人も言っているが、世代論は僕も好まない。だが、同世代人であるが故の時代感覚は、直接こちらに刺さってくる。かれもまた「未来に対する倫理」について語っている。

福島第一原発4号機の現状(再度の地震対応など)について、アメリカの関係機関が憂慮しているという。原爆を落としたアメリカが原発の危険に警戒心が高く、落とされた日本がノー天気なのだ。

「あやブロ」の志村さんの「テレビ三角形論」は面白い。志村さんはどんどん技術論的切り口からコミュニケーション論に接近しているみたいに見える。
同じく「あやブロ」の稲井君のエセー「ホノルル発浮世絵は語る」は、なかなか奥行きがあってこれもいい。こんな感性と知識が仕事に活きると良かったのか、それとも仕事と関わらないから良いのか、本人はどう思っているのだろう。ともあれ、そういうことを書く場があることは良いことだ。

 

5/22(土)

午後、「放送人の会」総会と<放送人グランプリ>贈賞式。
この贈賞式は、他の表彰イベントに比べ、送る側と受け取る側の距離(人間的にも、物理的にも)が近くてとてもいい。この賞は、エントリーされた候補を審査するのではなく、会員が推薦した<人>について審査して決めるので、贈られる方はある日突然「表彰します」というお知らせが来る、それが面白いところだ。
その前に開かれた総会では、「放送人の会」も時代に見合った形にしようということで、法人化の検討と会則の見直しをすることになった。会則プロジェクトの担当になる。一言でいえばインターネット放送も放送だし、それをやる人も放送人ではないか、ということだ。ここが微妙なところなのだが、「時代に見合った」というと、会員の中には「私はもうそろそろ引いてもいいのか」という人も出るかもしれない。現在の活動を活性化しつつ状況の変化に対応するのは難しい。組織の拡張と求心力は相反しがちなのだ。
因みに、現在の活動は、放送人の証言、名作の舞台裏、人気番組メモリー、放送人の世界、ドキュメンタリーワールドなど、証言の収集保存や番組の文化財としての評価、それらについての大学等の関係機関との共同作業、視聴者・市民に公開しての鑑賞と討議、など。率直に言うが、他に誰ももやっていないなかなかいい仕事をしている、と思う。
終了後、幹事たちで二次回。

新しい靴で靴擦れ。靴擦れなんていつ以来かなぁ・・・。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964 年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

 

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