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20144/23

文系男子の視点で考える「STAPとメディアな現象」中編~藤代裕之×河尻亨一

●おっさん、おばさんのお子さんとしての“おぼさん”

 

河尻 STAP研究の一連の騒動に関して、ここまで藤代さんとお話したことを(前篇)、もう少しメディアの話題として掘って行くと、やはりマスメディア(影響力デカいが遅い、内容的には広く浅く)とソーシャルメディア(早いし中身も濃い、が伝わる範囲狭い)の構図は見えてきますね。

 

「STAP」もこの両者を行き来しながら語られるうちに、果てしない物語になってしまったというか、のちのちまで語り継がれそうな社会現象になりました。

 

しかし、これ、必ずしも他人事ではないですよね? 科学コミュニティだけではなく、広報やマーケティングなどのメディアな文系ワークに携わる人たちにとっても、色々考えさせられるポイントが多い出来事ではないかと。後半はそこをメインにお話しましょう。

 

藤代 はい、ソーシャルメディアは早いし中身は濃いが狭いという指摘ですが、まとめサイトのおかげで、別の関心領域にある濃い情報も知る事が出来るようになりました。面白いもの、科学的な指摘、それらが混ざってまとめサイトから知る事ができる。

 

これは凄いことだと思います。ソーシャルメディアの生みに点在する情報をつないでいくメディア、これを私は前からミドルメディアとよんでいる訳ですが、ミドルメディアが関心領域をつなげている。

 

河尻 テレビの「ミドルメディア化」あるいは「ミドルコミュニティ化」はありうるんでしょうか? つまりマスでもなくソーシャルでも、ちょうど真ん中みたいなあり方。あるいはその両者が入り交じった中間メディアと言いますか。

 

藤代 マスメディアはミドルに行かないと思います。というよりもマスメディア的なるもの、といってよいかもしれませんね。実態として、新聞はおっさん化し、日中のテレビはおばさん化してますよね。

 

河尻 なるほど。「おっさん・おばさん」のほうの意味でのミドル…。藤代さんが強調する「おっさん・おばさん」というワードは必ずしも年齢の話でもないと思いますが、おっしゃることは感覚的にわかります。割烹着やリケジョといったトピック以外のSTAP関連の報道でも、その意味で象徴的だと思うことがありました。

 

「報道ステーション」で古舘さんが「パワーポイントを知らない」という趣旨の発言をして、ネットで話題になってましたね。私も人が常識と思ってることで知らないことはいっぱいあるので、それ自体をとやかく言うつもりはないのですが、有名キャスターにテレビでその発言をされてしまうと「そうなってきてるんだ…」と感じた。何かが露呈してしまったなと。

 

藤代 なるほど。ほう。その何かとはもう少し教えてください

 

河尻 あれ、なんとなくコメントしたわけではないですよね。番組上の構成とも絡んでいて、小保方さんが会見で「論文で取り違えた画像は、チームのミーティング用のパワポ資料からピックアップしたものだ」と言ったため、番組サイドはパワポと聞いて「?」となってしまう視聴者のために、その説明から入ろうとしたんだと思うんです。古舘さんの発言もその流れから出ています。

 

番組のスタッフはパワポ知ってる人多いと思うんですが、そういう方向に向けて番組作りをして、「わかる人にはわかるかもしれない」(古舘氏)とまで言われてしまうと、「この番組は一体誰に向けて話してるんだろう?」と。知ってる人のほうが特殊みたいな感じじゃないですか?

 

藤代 ふむふむ。STAPは分からないが、割烹着で頑張るリケジョは分かるだろうと。

 

河尻 そういった「おっさん・おばさん化」の兆候がけっこう目立つようになってる。そのOO化に対して違和感を抱いた人たちが、ソーシャルメディアやまとめ等でツッコミを入れる。「若手女性研究者の割烹着ユニークだね」的な視点で報道していると、論文や研究の不備がネットでどんどん指摘されて世の中がざわつく。

 

構図が似てますよね。メディア環境にある種の断層ができていて、何かの拍子にそこが動く。その動き方が大きいと騒動も大きくなる。

 

藤代 読者や視聴者の年齢が上がっているのに合わせて、ターゲットメディアになっている。まあ日本全体が高齢化しているから仕方がないのですが、最大公約数メディアと言うべきかもしれないですねえ。

 

河尻 まあ、私も男子というより、年齢的には既に申し分なくおっさんなんですが、情報環境下において「おっさん」と「非おっさん」の裂け目が大きくなっていくことには懸念も感じます。

 

とはいえ影響力の上ではマスメディアのほうが圧倒的です。ニコ生の小保方会見の視聴者が55万人でこれはスゴい数字だと思いますが、テレビの視聴率で言うと1%にも満たない。ものすごく小さな地層の上にめちゃくちゃデカい地層がのっかっており、かなりアンバランスな状況。なんだかコワい気もしますね。

 

 

●最大公約数な楽園メディアという幻想

 

藤代 おっさんというのは、最大公約数メディアの比喩でもあると思うんです。ソーシャルメディアには研究者もいれば、パワポを使いこなしているビジネスパーソンもいる。最大公約数に情報を合わせると、そりゃ突っ込まれますよね。

 

河尻 なるほど。「科学の楽園」的側面が言われたり、「若者を抜擢してチャンスを与える環境なんです」みたいに上層部は会見で強調してましたが、理研のSTAP細胞チームやその周りの人たちを見ていると、むしろおっさんパラダイスな香りも漂ってます。「リケジョ」なイメージでメディアに登場しましたけど、実際に脇を固めてるのはほぼ全員おっさん。調査委や弁護団なんかも含めて。おっさんという触媒がないと発現しない「ジョ」って一体なんなのか?

 

なんでそんなことを言うかというと、そういう一見エエかっこしいなロジックを駆使して、若年層から搾り取ろうとする輩が実際この世には多いからです。そういう人の特徴として、おいしいことがあれば乗っかってくるし、ヤバくなったらトンズラする。

 

藤代 あーなんかぼんやりと分かります。ニュース特に新聞記事は(ネットで出ているニュース記事も新聞がベースになっている)読者の中心が中高年なので、こっちはリアルオッサン化問題ですね。

 

ツイッターで知ったのですが、福島民報で、元毎日新聞社主筆が「菊池哲朗の世相診断」というコラムを書いているんですが、その内容がまさにオッサン。【小保方さんの騒ぎ】オヤジたちが情けない(4月16日)。呆れ返って、やることが詰まっているのに思わずSTAP細胞「論文不正は内輪の話」というオヤジが若者をダメにするという記事を書いてしまったのですが、以外に根強い考え方かもしれないなと思うんです。

 

まあ、理研は大きく扱われすぎたのが運のつきだったと思うんですよ。それもおっさん視点で。だから突っ込んでいるうちに、薮から蛇というか、大蛇が出た。河尻さんが①から⑤の視点(前篇)を提示してくれましたが、⑥日本社会のオッサン化という闇を壮大に照らしてしまったのかもしれない。

 

河尻 社会の闇照らし出す大蛇(笑)。マスメディアがさかんに取り上げるようになってからは、「おっさん・おばさん・おぼさん」の世界がどわーっと浮き上がってきましたね。なんとなく家族っぽいというか。プロの仕事として到底許されないことやっちゃったんだと言われても、「ウチの子が責められたら…」と思えば、さっきの元新聞社主筆みたいに守りたい気持ちにもなるのでは?

 

こういうデータ(新報道2001:「責任がもっとも重いのはだれ」アンケート。※サイエンスライターのツイートより)を見ても世間的にそうなんだと思うし、「割烹着」という家庭感漂うアイテムもそのラインにバッチリはまる。私の親も「小保方さんかわいそう」って言ってます。でも、ジャーナリストまでそこに乗っかっちゃうとマズいでしょう。「科学・倫理・組織」といった肝心の課題が埋没してしまう。

 

藤代 この問題を見てマスって何だろう、どこにあるんだろうと思ったんですよね。

 

河尻 うーん、「マス」自体の意味を問い始めると、たまねぎの皮剥きつづける感じにもなってしまいますからね。本当のマスってたぶんない気がするんです。

 

藤代 マスメディアがオッサン化、もしくは最大公約数化しているとして、それはマス=大衆と言えるんだろうか、とか。

 

河尻 そうなると大衆メディア論ではなく、マーケティングで考えたほうが答えが早いかもしれません。

 

マスメディアは欲望の発生マシーンとしての機能も大ですよね。広告だけじゃなく番組でも。テレビでうまそうなもん見ると食べたくなるし、スゴい家電が紹介されるとほしくなる、素敵な恋愛が描かれると憧れる。そのことでメディアは経済の歯車を回します。

 

しかし、実際には回りにくくなっているんですよね。欲望のあり方そのものが変化してきてるというか、「ほしい」というイメージをメディアで喚起することが年々難しくなってる。自分もわりとそうなのですが、年下の人たちと話すと顕著なこととして、「メディアがいいと言ってる」からではなく、「知り合いがいいと言ってる」からモノを買ったりイベントに参加したりします。

 

いま、毎週読書会やってるんですが、講師が薦めた本を「その場で、スマホで、amazonで買う」、といったことがその層ではわりと当たり前です。ほしいものがソーシャルメディアで見つかるようになってきている。10~30代の女性を対象にしたこういう調査もあるくらいで。で、そういう人たちと話していると、「STAP騒動とかあんまり興味ない」と言います。彼らにしてみれば、これはおっさんマターなのです。

 

モノにおいてもコトにおいても、消費のあり方自体にマス性が希薄になってますよね。もちろん商品によって全然違うところはあって、家庭用品とか飲料とかスマホとかダイエットとか、数千万人以上の生活に関係ある商材だとマスメディアのパワーはすさまじいんですが、そうでないものに関しては「脱広告」な傾向もある。

 

藤代 なるほど。

 

河尻 そういうこともあって、いまのマスメディアのメインの“お客さん像”は、ネットをあまり使わない人たちになるのでは? “最大公約数”をそこに求めざるをえませんよね。日本人全体の傾向として、世代が上のほうが人数多いし、お金持ってるし、ネットの利用率も低いわけですから、コンテンツもそっちに合わせたほうがビジネス的には合理的と言えます。

 

それが「おっさん・おばさん化」の正体なのかも。しかしメディアには公益性も求められるので、誰々向けをハッキリ謳うことはできない。

 

藤代 なるほど。マスメディアは表向き「自分たちはマスメディアですよ。読者や視聴者の声を反映しています」というタテマエを崩してはいないので、誰に向かって発信しているのか分からなくなっている。現実問題としてオッサン化していても、それを認めるとターゲットメディアになり、マスメディアの規模の広告費が入らない。だから、無理がある。広報もマスメディアに受けることを考えると無理がでるということかもしれません。

 

 

 

(プロフィール)

 

藤代裕之(ジャーナリスト)

 

広島大学卒。徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部准教授。関西大学総合情報学部特任教授。教育、研究活動を行う傍らジャーナリスト活動を行う。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。

 

河尻亨一(編集者)

 

早稲田大学卒、雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心に多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集を手がけ、多くの表現者にインタビューを行う。現在は編集執筆からイベント企画、ファシリテーション、企業のPRコンテンツの企画・アドバイスなども。東北芸工大客員教授。「都市人物研究」「ヒット分析論」を担当。

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