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20144/22

文系男子の視点で考える「STAPとメディアな現象」前編〜藤代裕之×河尻亨一

 

 

STAP騒動で見えたマスメディアの「おっさん性」とマス組織の「曖昧さ」

 

河尻 今日、藤代さんと考えてみたいのは、STAP現象に関する一連の疑惑はなぜここまでの騒動になってしまったのか? ということです。科学の関係者だけでなく、広く世間の人たちの心をザワザワさせる何かがありますよね。

 

科学コミュニティの中には、専門外の人が発言することに抵抗感がある方も多いと思うのですが、これはすでに社会全体を巻き込む現象にもなっているため、文系メディアやジャーナリズムの側からも捉えて記録しておく必要があると考えます。藤代さんは、かなり早い段階からSTAPの報道に関して色々言及されてましたよね?

 

藤代 はい。理研が発表した直後から興味を持っていました。ノーベル賞級と言われた研究成果のことは正直文系の私には分かりませんでした。ただ、割烹着や黄色い壁、デートといったこれまでにないキーワードが「ノーベル賞級」といわれる研究発表で出て来たことに興味を持ちました。

 

そこでヤフー個人の記事に書いたのが「『デート』『ファッション好き』革命的研究者の紹介に見る根深い新聞のおっさん思考」です。

 

河尻 秀逸なタイトルですね(笑)。「おっさんな思考と嗜好」は読み解きのキーワードなんだと、これを読んで気づかされました。確かに科学的成果というよりも、研究者個人の趣味や人柄にフォーカスする報道が多いし、そっちのほうが目立ってしまう。それにしてもあの割烹着や研究室の話はどこから出て来たんでしょう? 「中日新聞」が理研広報の仕掛けであると報じ、広報サイドはそれを否定していますが。

 

藤代 検証サイト「GOHOO」にも記事が出ていましたね。「割烹着とピンク実験室「理研広報の演出」は誤報

 

マスメディアが研究成果以外に食いついたことにネット上では批判が出ていましたが、割烹着の写真を撮らせ、研究に関係ないデートといったプライベートの質問を認めたのは事実で、この時は理研広報がメディア受けしそうなエピソードをアピールし、ニュース性を高めようとしたのではないかと疑問を持ちました。

 

なので、「STAP細胞研究の小保方晴子博士が「研究活動に支障が出ている」と報道機関にお願い」という記事で、マスメディアの報道姿勢を問いつつ、理研広報への疑問を書いたわけです。

 

河尻 藤代さんのこの記事は読んでました。さっきのもそうですけど、かなりバズってますね。

 

藤代 もちろん理研のホームページにある発表資料を見て、「60秒でわかるプレスリリース」などで理研広報が分かりやすく研究成果を伝えようとしていることは分かりました。

 

一方で、さっきも言ったようにちょっとオカシイなって思ったんですよ、直感みたいなものです。割烹着着せて、デートの話ししたら、そりゃああいう報道になる。で、報道されたら自粛してくださいとか都合がよ過ぎないかと。

 

河尻 なるほど。理研広報の動きに関して何かつかめましたか?

 

藤代 独自の取材はしていませんが、その後の報道を見ていると「広報は関与していない」「知らなかった」と主張しているようですね。

 

河尻 この「知らない」というのは実はくせ者でもあって、関与していないということの中身は「積極的に企画・演出はしていない」ということですよね。

 

しかし、広報の仕事の中には通常、ブランドのイメージコントロール、つまり「どういう情報を出して、どういう情報は出すべきではない」というジャッジまで含まれますから、「取材のセッティングをしただけで、中身は知りませんでした」というのであれば、ちょっと不可解な面はあると思います。こういったところが、一般企業と違う独特さでもあるんですが。

 

藤代 研究成果のリリースの主語は理研で、新聞各社も「理研が」と書いているんです。河尻さんのご指摘通りで。

 

河尻 「主語」は大事ですね。成功による利益を受けるのも、失敗の責任を取るのも「主語」です。

 

藤代 通常の組織の場合、広報担当が、組織名で行われた広報活動を「知らなかった」と言うことはあり得ないし、そんな広報はダメだし、仕事してないってことです。ネガティブな反応も含めて想定して、マスメディア対策するのが広報の仕事ですから。

 

大学や研究機関の場合は、通常の組織と違って研究者が単独でマスメディアの取材を受けることがあります。ただ、今回は主語は理研ですから言い逃れは出来ないはずですが、どうも理研からは通常の組織では想定できない反応が出て来ている。

 

河尻 STAPの一連の話は、色んな部分からこの「曖昧さ」が噴出してますね。そのことが、みんなの好奇心をかき立て、不信感を拡大することにつながっていると思います。いいほうにも悪いほうにも想像がたくましくなり、それをソーシャルメディアにも書き込んでしまう。

 

その意味では広報も“楽園”なんですかね? 僕がおったまげたのは、調査委員会の最終報告があったその日(4月1日)に、Twitterの公式アカウントで「お花見のご案内(一般開放)」をさらっとリリースしていたこと。情報発信がなんか事務的なんですね。他人事みたいというか。

 

kawajiri

 

大きな組織ですし全国各地に施設を持ってるわけですから、様々なセクションから色んな情報が上がってくるのは理解できますけど、なにも世間の関心が最終報告に向いている日に、しかもその件での資料へのリンクを貼ったその次に、オフィシャルでそれをつぶやかなくても。自分がアカウントの運用担当ならできませんね、コワくて…。

 

そういったささいな事柄からも、「曖昧さ」が見えます。バラバラのものを強引にひとつの主語でくくることからくる不可解さ。「ガバナンス」云々が言われるのもそこでしょう。自然界の出来事を合理的・有機的に解明しようとしている人たちの集団なのに、人間界での動き方がどうも合理的・有機的でないように見えてしまう。

 

藤代 いきなり結論めいたことを言うのですがSTAP騒動が大きくなった要因は2つ。小保方さんというタレント性を持つ研究者の存在、もうひとつが理研の組織ガバナンスの曖昧さ。そして、これらが混同されたまま、騒ぎが大きくなっていったのだと思います。

 

河尻 出会ってはいけない“二人”みたいなことですね。

 

藤代 ですね。ある意味奇跡のコラボレーション。それが直感的なおかしさの要因なのかもしれませんね。

 

河尻 そのジャーナリストな直感が的を射ていた…。

 

藤代 繰り返しになりますが、デートとかお風呂とか研究者にしゃべらせて、プライバシー大丈夫か? 変な人が来たらどうするんだろうと思ったのです。

 

河尻 変な人。ようするに科学的成果に対する真っ当な好奇心を持つ人、つまり本来“お客さん”になってほしい人たちとは違う人たちがやってきて、店を荒らして帰るということでしょうけど、その通りになってしまいましたね、ある意味。

 

藤代 ですね。広報は周知も大事ですが守りの広報も重要です。変な方向に報道が行きそうなら、適切に修正するのも大きな役割です。研究機関の中では理研広報はしっかりしている方だと聞いた事があるので、驚きました。

 

 

STAP物語」は初期化し分裂を繰り返す?

 

 

河尻 それにしても、問題が複雑ですよね、これ。いったんここまで騒動が広まると、広報対応云々では対処できないフェーズに突入してしまう。一連のSTAP現象騒動に関して、自分は大きく以下5つの論点に整理できると思ってます。

 

①  科学的成果に関すること(ex:「STAP細胞は本当にあるの?」といった事柄)

 

② 科学者のモラルや研究作法、論文作成に関すること(ex:論文の疑義や研究ノート。あるいは先端バイオ研究の特殊性など)

 

③ 組織と国家制度に関すること、あるいはお金の問題(ex:人事・採用面。もしくは理研という組織の性格や歴史的側面、日本の高等教育のシステム、日本の科学戦略、特定国立研究開発法人指定など)

 

④ 組織や研究サイドの広報・PR姿勢やメディアの報道、ソーシャルメディアでの情報発信に関すること(ex:当初のiPSとの比較リリース、割烹着やカラフルな研究室、ネット上での疑義追求、科学コミュニティや一般ユーザーの反応など)

 

⑤  人と物語に関すること(ex:関係者個々の人間的ストーリーと人々の受け取り方)

 

これをごっちゃに論じるからややこしくなってる面はあるのでは? 調査委やオーサーの記者会見でも、レイヤーが異なるはずのこの5つがごっちゃに質問されるので、何が問題なのかが見えにくい。

 

藤代 なるほど。

 

河尻 現状、②はほぼ結論出ましたね。科学論文として到底ダメなレベルだったと。①に関しては、ひとまずは理研サイドで「仮説に戻して再検証する」方向のようですが、そのやり方や是非をめぐっては科学コミュニティでも意見が割れているようですし、STAP現象そのものに対する根本的疑念も強い。

 

しかし、我々はここに関しては正直「わからない」立場ですから、③~⑤を中心に考えて行くことになります。①②が大事なのは当然とはいえ、③~⑤からも社会の色んなことが浮き上がってくる気がしていて、それでSTAPから目が離せないんですね。

 

藤代 なるほど。私は①と②についてはハッキリしていると考えています。論文に不備があったのは小保方さんも認めているし、博士論文には剽窃(コピペ)も指摘されています。仮説で良いなら「宇宙人がいる」も研究成果になります。

 

研究者を記者と置き換えてみたらどうでしょうか。ジャーナリズムの世界でも写真の切り貼りやコピペは信頼を失う重大な行為とされています。有名な「K.Y」事件を思い出してください。当初は朝日新聞のカメラマンが西表島のサンゴに落書きがあることを発見したスクープ報道でしたが、地元の指摘などから捏造だったことが明らかになります。

 

もしかしたら、サンゴを傷つけるマナーの悪いダイバーはいたのかもしれません。「記事に掲載した写真は不備だったが、200回は傷ついたサンゴを見た」と言ったらどうでしょうか。ジャーナリズムの世界では、笑いものになるでしょう。ジャーナリズムの基本を守らない記事は誰も信用しないのです。STAP細胞の騒動はこれと同じ構造です。

 

STAP細胞があるかないかは、引き続き研究すればよく、論文が適切な手法で書かれていなかった現時点でSTAP細胞発見の話はナシです。

 

河尻 おっしゃる通りです。「コピペはダメ」は科学の世界じゃなくても常識ですが、人によってはそうじゃないんでしょうかね? 自分なんかですと、「人さまの書いたものを、その注釈抜きに自分が書いた」ことにすることへのタブー感は絶対的なんですけど、そうじゃなくなってきてるんでしょうか。

 

藤代 アマチュアだからじゃないでしょうか。プロはやりませんよね。プロのコピーライターが誰かのコピーをパクったらどうですか?

 

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