スカパーのインドネシアでの放送はクールジャパンを具現化できるか?
ちょっと間が開いてしまいましたが、1月30日、スカパーの記者会見に行ってきました。2月からインドネシアでチャンネルを開設し、日本のコンテンツを放送するというのです。
記者会見といっても、正直数十名が集まる程度と思って油断してギリギリに行ったら、200名は軽くいそうな会場が満員でおしあいへしあいでした。あいてる席がわずかにあって案内してもらえましたが、こんなに大勢集まるとは。
来賓として総務省や官公庁のお歴々がスピーチをする仰々しさで、鳴り物入りのプロジェクトなのだと伝わってきました。認識が浅かったです。もっとちゃんと身構えて臨むべきでした。
さてそこで発表された詳しい内容はこちらからリリースを読んでもらえればわかります。またチャンネル名のWAKUWAKU JAPANの特設サイトもできています。
簡単に概要を説明すると、2月22日から、インドネシアの衛星放送サービスINDOVISIONとOKEVISIONで、24時間365日放送するチャンネル”WAKUWAKU JAPAN”をスタートします。そこで放送されるのは、日本の民放各局とNHKの番組。また日本映画も放送するようです。民放にはローカル局も含まれます。そしてJリーグの試合。
会見では“オールジャパン”という言葉が何度もいろんな人の口から出ました。日本のコンテンツをネットワークの壁を越えて総合的に放送するチャンネルをアジアに展開しよう、オールジャパンで取り組めるプラットフォームこそがスカパーなのだ、そんな考え方なのだと思います。政府側から頼まれて着手したのではなく、二年半前から独自に検討を進めてきたスカパーの動きが、政府側のクールジャパンの具体化とタイミングが合ったようです。番組のローカライズ、字幕や吹替えの作業は政府の助成金が活用されたとのこと。
コンテンツを海外に売り込むべきだ、ということはこの十年ぐらい言われてきました。個別な動きはいろいろあったのだと思いますが、ぐいっと大きな動きはこれが初めてではないでしょうか。とくに“放送”の形で具現化するのは重要だと思います。
テレビっ子世代は、子供の頃アメリカ製TVドラマをたくさん観たと思います。昭和40年代ぐらいまでは、毎日どこかで放送していたんじゃないでしょうか。『ローハイド』『名犬ラッシー』『大草原の小さな家』『奥様は魔女』『ララミー牧場』・・・パッと思い出したものを書き並べるだけでもきりがなくなりそうです。こうした日々視聴する映像コンテンツから、アメリカの文化を知ったのだと思います。コカコーラとかウィスキーとか、ハンバーガーやジーンズに自然になじんで、また欲しいと思うようになりました。ぼくの世代だとティーンエイジャーの頃に雑誌『POPEYE』が登場してさらに多様なアメリカの若者文化を注入されました。
すでに言われているように、韓国がドラマを通じた文化浸透戦略をこの十年展開し、いつの間にかアジアでいちばんイケてる国になってしまいました。ベトナムの若者は韓国のファッションブランドがカッコいいと感じてるそうです。我々が子供の頃アメリカのドラマを観てジーンズを履きたいと思ったように、東南アジアでは日本ではなく韓国のブランドが選ばれる。
映像コンテンツを海外に売ることは、映像業界だけでなく日本というブランド全体を売っていくために重要だ。なのに、それができてなかった。個別の取組み、ひとつひとつの作品やひとつひとつの企業の動きになってしまっていた。
2009年に『おくりびと』と『つみきのいえ』がアメリカのアカデミー賞をW受賞したことがありました。ぼくはその時、『つみきのいえ』を製作したロボットにいたので、海外セールスに対応しようとしました。ところが、世界中からメールが殺到し、「うちの国で配給するなら私がいちばんだ」と言ってくる。でも結局、誰に頼めばいいかわからない。痛感したのですが、突然たったひとつの作品だけを海外に売ろうとしてもダメで、常日ごろから展開したい相手国との関係を開拓して維持しておく必要があったのです。
この時、政府筋の力を借りられないかとあちこちの省庁に行ったのですが、それぞれで相談にのってはくれるものの、まとまった明確な動きはありませんでした。そのうち政権交替があり、もやもやして終わってしまったのです。
アカデミー賞W受賞から5年。コンテンツ産業の海外進出はもっと動いてよかったと思います。正直、その後の成果はあまりなかったのではないでしょうか。
この度のスカパーのインドネシア進出は、ようやっと、という気がします。何しろチャンネルを起ち上げるのですから、本腰を入れないわけにはいかないでしょう。他の国での展開もやっていくようなので、どんどん増やして欲しいと思います。
それと、今回の発表で面白そうな企画がありました。インドネシアのユースチームの若いサッカー選手たちが、ガンバ大阪のユースを目指して頑張る姿をドキュメンタリ番組にするそうです。これをインドネシアのディレクターが制作するのだと。素晴らしいことだと思います。
インドネシア進出、とは言え、相手に一方的に日本のコンテンツを見せるのではなく、一緒に新たな番組作りをしていく。文化と文化の融合から、それまでどこにもなかったコンテンツが生まれる可能性があります。それにそういう姿勢を持つチャンネルの方が、受け入れられやすいのではないでしょうか。
日本からの輸出というだけでなく、渾然一体となって新しい文化を生み出す。コンテンツ産業の海外展開は、そんな“交流”でもあって欲しいと思います。
この企画にパナソニックが提供としてつくのも大きな意義がありそうです。CM枠がどうのだけでなく、日本とインドネシアの掛け橋のようなこの企画全体をスポンサードすることで、グローバルな提供価値が出てくるでしょう。放送における広告の新しいシステムにもなるかもしれません。
ということで、なるほど鳴り物入りの記者発表をやるのもよくわかる、スカパーの海外進出でした。
境 治 プロフィール
フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、映像製作会社ロボット経営企画室長・広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長を経て再びフリーランスに。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
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