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20141/29

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点②

●僕達は、誰かのつくった制度に支配されている。
さて、前回はメディアを作る側がパースペクティブを持つことの重要性について指摘しました。と言っても、メディアを作る側という存在は具体的にはひとりの人間です。制作現場だけなく、編成も営業も広報のひとりひとりが『日本という社会がどうなればいいと考えているか
という展望−パースペクティブを持てばテレビ、新聞といったメディアは変わるのかもし
れませんが、そんなことはまずあり得ません。
人の有り様は、その個人が属する環境によって大きく影響されます。

 

「廊下を走ってはいけません」という課題に対して、「みんなが気をつければいいと思います」という回答は何の実効性もありません。
「パースペクティブを持てばいいと思います。」も同じです。
かつては強烈な個人が組織に居場所を確保できていたようですが、それはもう30年くらい前で、中学、高校生だった頃の私にそんなメディアの風景の一部を見せてくれた放送作家であった景山民夫氏も、そこに紹介されていた河田町や麹町の綺羅星、あるいは怪人のようなテレビマン達もいません。
彼らが生息し同じような武勇を発揮できる環境、制度がおそらく、もうないのです。
水清ければ魚棲まずと言うように。

 

岩田

 

人の行動は制度(institution)に大きく影響されます(この考えを経済学的に示してダグラス・ノース氏はノーベル賞をとった)。制度はインセンティブを生み出す仕組みでもあるので、メディアの現状は、それに関わる人が合理的選択をしてきた結果なのです。結果の集積である現状に対して、多くの人がなんかダメな印象や危機感を持ってしまうのは、現在の我々が制度をつくった過去に負けちゃっているってことなのでしょう。
見方を変えれば、この状況を解決する処方箋のひとつは、メディアの送り手が、『日本という社会がどうなればいいと考えているか』を示せる環境を制度として作ることだと言えます。

 

とはいえ、制度を真正面から考えると、組織デザイン、人事制度のデザインのど真ん中であり、一朝一夕に変えられるのか?という難易度の高い話になってきます。
もちろん、従来の番組単位、記事単位、書籍単位で制度をつくること程度ではパワー不足を否めません。小手先の動きで終始する可能性が高いと考えられます。継続する仕組みではないからです。

 

 

 

●事業デザインが制度に穴をあける
では、どうにもならないことなのかというと、そんなことはないだろうなぁと私は思います。突破口はおそらく事業デザインにあります。

 

イトーヨーカドーにとってセブン−イレブン、NTTにとってのドコモのような事例があります。セブン−イレブンもドコモも親会社からすると、当初は、社員が出向、転籍を嫌がる僻地のような扱いでした。
でもいまは、実質的に逆転して親を背負うほどになっています。

 

主流ではなく、端っこで生じた事業からイノベーションが生じているこうした事例は、強い成功体験を持つ場所からはイノベーションが生まれるにくいことと同時に、規模が小さくとも独立した新しい場所が、新しいイノベーションに適していることを示していると考えられます。

 

同じように、近未来の大黒柱となる何かは、現在のメディアにとっての僻地のような場所にあって不思議ではありません。
とすれば、メディアでも、新たな場所を出島のような感じで、大きすぎない規模の事業としてつくり、実行することが有効ではないでしょうか。
これも評価の仕組み次第なので、うっかりすると、その事業が土地開発とかカジノ開発とか実績のあるベンチャー投資(もう単語として語義矛盾ですね)になってしまったらなんだかなぁではありますし、そんなことに力を入れることはメディアが自らの存在価値をそんなものだと公に示すことでしょう。

 

さらに、そんなことしていると、amazonやセブン−イレブンがビックデータをもとにつくった”あなたが見たいこんな番組”、“この番組を見た人はこんな番組に興味がありますという番組”というのが現実に出てくるのではないでしょうか。
(実際にアマゾンは、そこを狙っているようですし。)

 

それなりに儲かるような気もします。でもそれはもう麻薬でしょう。すでに行われている、過去の視聴率の実績から番組企画を評価することは、企画を萎縮させ、番組から可能性の芽を摘んでいると思います。
私はこんな所に、知的なものは生まれないと思いますし、顧客との関係性が耕されないという気がするのです。データは仮説を検証するための道具でしかないですから。

 

では、どんな事業デザインが望まれるか?日本テレビのドラマで全スポンサーがCMを見合わせている事態も踏まえつつ考えたいと思います。

 
(つづく)

 

 

 

 

 

岩田崇/ iwata Takashiプロフィール
1973年名古屋で生まれる。が、箱庭的風土に疑問を感じて上京。早稲田大学大学卒、広告業界でマーケティングプランナーとして販促企画から企業のネット コミュニケーション戦略の策定・実施を手がける。仕事を通じて、政治分野へのマーケティングとコミュニケーションの応用が今後の日本社会に必要と考え、慶 應義塾大学大学院 政策・メディア研究科に入学。
修士研究では、政治学の曽根教授、行政改革の上山教授に学び、合意形成に繋がる議論の場がない日本政治の機能を補う仕組みとして、オンライン政策ファシリ テーター:『ポリネコ』を開発、特許化。また研究とは別の発明として、企業と社会のつながり視覚化する方法を開発し特許化。
フジテレビ『コンパス』、朝日新聞『オルタナティブニッポン』では、既存メディアとソーシャルメディアの組み合わせによるコンテンツを企画開発、新潟市では公共交通の再構築にも携わる。
現在は、メディア環境の変化を踏まえ、合意形成コミュニケーションメディアとしての『ポリネコ』の実用化、新しいニュース、討論番組の開発などに取り組む。
「Challengingな仕事、大好物です。」 twitter:iwatatakashi

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