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20143/19

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点③前半

2014年の論点-3(前半)メディアにとっての『出口』の重要性-1

 

 

今回の要点とこれまでのあらすじ
こんにちは。勝手にシリーズ化しているメディアの未来、これからを考えるコラムの3回目です。
今回は、パースペクティブには『出口』がないといけないということをお話します。
少々間が開いたので、これまでの”あらすじ”を振り返りますよ。

 

第1回(http://ayablog.jp/archives/24840)では、漠然とある閉塞感を前にして、小手先の工夫程度(テレビとスマホでの二画面視聴とかね)では、テレビはもちろん、メディアに新しい未来はきっと来なくて、それよりも「日本という社会がどうなればいいか」を考えること、そこから発想しないとダメという話をしました。
第2回(http://ayablog.jp/archives/24902)では、「日本という社会がどうなればいいか」というパースペクティブ発想を個人で持っていても、その具現化は難しいこと。制度設計、環境のデザインが必要だけど、ハードルが高いので、事業をつくることが有効だろう。という話をしました。
パースペクティブとは、「日本という社会がどうなればいいか」で、その実現方法には、制度よりも事業がハードル低く実現性が高いという流れです。

 

 

外堀から事業デザインを考える
はい。で、第3回ではこの事業について考察します。
今回の第3回の投稿までの間に、ソニー、任天堂の経営の苦境がニュースとして伝えられ、東京都知事選があり、3・11から3年目が巡ってきました。

 

前回の末尾で、事業デザインについてお話すると書きましたが、事業デザインの中身の話に入る前に外堀から考えていこうと思います。
なぜなら、事業デザインの中身を考えるには、順番としてパースペクティブだけでは不十分で、その『出口』まで考えておく必要があるのではないかと私は考えているからです。
『出口』のない事業デザインは、どんなに立派なパースペクティブをもっていても、日々のオペレーションに振り回されると思いませんか。

 

スクリーンショット 2014-07-05 22.55.38

 

 

丁度、ニュースにもなっていたソニーと任天堂を見てみましょう。

 

まずはソニーから、
会社設立の目的

一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想
工場の建設
一、日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動
一、戦時中、各方面に非常に進歩したる技術の国民生活内への即事応用
一、諸大学、研究所等の研究成果のうち、最も国民生活に応用価値を有する優秀なるも
のの迅速なる製品、商品化
一、無線通信機類の日常生活への浸透化、並びに家庭電化の促進
一、戦災通信網の復旧作業に対する積極的参加、並びに必要なる技術の提供
一、新時代にふさわしき優秀ラヂオセットの製作・普及、並びにラヂオサービスの徹底化
一、国民科学知識の実際的啓蒙活動

 

この設立書を読んだことがある方も多いと思います。昭和21年(1946年)ソニーの創業者である井深大氏による起草です。
起草した時代の日本の社会状況を踏まえながら、未来の日本を考えている優れたパースペクティブであると言えます。
特にユニークなのは、
・技術者視点であり、つくる人が主役という考えか方
・日本再建、文化向上、技術の生活への即時応用、国民の啓蒙という大義を掲げている
こと

この二点だと思います。
前者は、ソニーが成功を重ねる中で失われていきます。本社6階にあった参謀本部のような部署が力を持つことで技術者が中心に居られなくなります。

 

後者にある、日本再建という大義から昭和20年代の日本の生活環境を見ますと、人が住んでいるバラック小屋は都市部でいくらでもあり、一般的な家屋でもトイレをはじめとする水回りに不便が多いなど、「日本という社会がどうなればいいか」なんて考える前に、日々の生活の中には、物理的になんとかしたい貧乏があふれていたわけです。高度経済成長を経て80年代前半までにそうした貧乏な環境は日本中で徐々に解消されていきます。このあたりで、ソニーはさらに技術を起点としながら、文化の向上や国民の啓蒙に注力する道があったはずですが、エレクトロニクスを中心とした発想から生活家電以外の『出口』を見つけられなかったようです。
私見ですが、ソニーには家電から発想を敷衍して、家電が配置される居住環境、すなわち家、そして、家の集合体としての街を運営するコミュニケーションに『出口』が見つけられたと考えています。
中身はあんまりなかったと記憶していましたが、12年前のBRUTUSでは、「2001.3.15号特集“ソニーが家をつくったよ”」と特集もありました。
なぜこんなことを憶えているかというと、2000年くらいに企業分析をしておりまして、ソニーは家電ではなく、日本の生活環境を変えるなんらかのインフラ会社にならないと新しい成長期はないなぁという結論に至っていたからです。
もう一点付記になりますが、、50年代に盛田昭夫氏はソニーに金融機関が欲しいと考え、現在、ある程度現実のものとなっています。しかし、それらの金融会社は、日本の生活環境を変えるほどにはなっていないと私は思います。

 

 

蛇足のように見えていつか本筋に繋がります
蛇足ですが、日本の家は断熱などのエネルギー効率面、空間容積などのスペックの割に高額で、ハウスメーカーが市場を主導しているなど日本独自の要素が多い(面白い、変とも言いますが)市場です。人口減少と高齢化のトレンドが当面は不可避で、子育てをはじめ、食べて寝る以外の機能を備えた居住環境が求められていますが、住宅商品の多くは既成概念に縛られています。
また個々人が好き勝手に住宅商品を購入することに起因する住宅街並みの統一性のなさ(それによる街の価値の低下)は、識者がかねてから指摘しています。
こうした問題には、行政の機能を補完するコミュニケーションを新たなにつくることで解決の糸口が見えてきます。
最近はマイホーム信仰も薄れつつありますが、日本の住宅は消費税がかかるので、この点から不動産ではなく消費財扱いと言えまして、老齢に達した頃はおおよその価値がなくなるように法律で決められている消費財=住宅商品の購入で人生を左右されるのはアホらしいという提起はもっと出てきてもいいと思います。
以前、デンマークのある家庭を訪問した際に聞いたのですが、マンションのスケルトンは100年以上前のもので、内装だけ変えて住んでいました。日本のように建て替えを前提としているとお金のまわりはよく見え経済も活性化しているように見えますが、なかなか社会資本、即ちストック形成になりません。割を食うのは、おそらく会社員として働き何十年後かに取り壊される家にローンを組む国民です。住宅政策だけ見ますと日本は、売上だけ上げて留保金が増えない企業のようです。
住宅の長寿命化と街づくりのルールをセットにして、住宅に消費財ではくストックの性質を持たせお金がかからないようにして、その分を教育や健康などの分野も回すという選択肢をつくる可能性もあります。こういう発想は異分野からの挑戦がないとまず出てきません。

 

力のある技術や商品は、最近の自動車自動運転装置や発電方法などを見ての通り、政策分野に関わってきます。会社設立の目的を徹底的につきつめて行けば、技術から、教育政策や住宅政策などの社会制度を変えてゆく『出口』もあったと言えます。
ソニーはもっと 『出口』のひとつとして、政治を意識してもよかった のかもしれないと私は思います。

 

長くなり過ぎました。脱線のように見えますが、メディアの話につながります。
任天堂についてと、まとめは後半で!
(つづく)

 

 

 

岩田崇/ iwata Takashiプロフィール
1973年名古屋で生まれる。が、箱庭的風土に疑問を感じて上京。早稲田大学卒、広告業界でマーケティングプランナーとして販促企画から企業のネット コミュニケーション戦略の策定・実施を手がける。仕事を通じて、政治分野へのマーケティングとコミュニケーションの応用が今後の日本社会に必要と考え、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科に入学。
修士研究では、政治学の曽根教授、行政改革の上山教授に学び、合意形成に繋がる議論の場がない日本政治の機能を補う仕組みとして、オンライン政策ファシリ テーター:『ポリネコ』を開発、特許化。また研究とは別の発明として、企業と社会のつながり視覚化する方法を開発し特許化。
フジテレビ『コンパス』、朝日新聞『オルタナティブニッポン』では、既存メディアとソーシャルメディアの組み合わせによるコンテンツを企画開発、新潟市では公共交通の再構築にも携わる。
現在は、メディア環境の変化を踏まえ、合意形成コミュニケーションメディアとしての『ポリネコ』の実用化、新しいニュース、討論番組の開発などに取り組む。
「Challengingな仕事、大好物です。」 twitter:iwatatakashi

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