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20134/26

番組制作に『マネジメントデザイン』を!

・世界で最も先進的だった番組の企画と制作から得たもの————-

 

2012年4月末から2013年3月末までの約1年間、BSにて放送されていたソーシャルメディア対応型の議論番組の開発に携わっていた岩田崇((株)ハンマーバード代表)と申します。
マーケティングプランナーでしたが、仕事として商品の売上やブランドイメージを上げるだけのマーケティングに飽きたらず、社会を変える仕事を確立したく、大学院に入り直しまして、合意形成のあり方を研究、研究成果を特許取得し、その成果を応用する形で、フェイスブック、ツイッター、ニコ生(ネット放送)、ウェブサイト、時にはFMラジオと同時放送というコラボレーションを行う番組の制作に携わることになりました。

 

ひとつのテーマを生放送で1時間半、放送は土曜日でしたが、月曜日の夜にテーマを告知し、フェイスブックページ上でユーザー(視聴者とは呼ばず、番組参加者という意味を込めてこう呼称しています。)から意見をいただきつつ、100名を超えるオピニオンリーダーに設問を送り、毎週30名前後の方から意見をいただき、それを集約しつつスタジオで議論を行うという形式は、世界に類例がなく、アメリカから東大に留学している研究員からもアメリカにも例はなく、世界で最も先進的というお墨付きをもらい、また、さまざまな企業のフェイスブックをはじめソーシャルメディアの専門家からもフェイスブックページ上で議論が行われている番組は稀有な事例と評価されるユニークな番組でした。

 

企画から携わり、思い入れも人一倍持っていましたが、事実として、番組は終了しました。そして、なによりも経営者、研究者という客観的視点で見ますと、番組づくりの仕組みに於いては少なからず改良する余地があるとも思っていました。

 

経営戦略や、商品開発なども手がけてきたビジネスマンの経験を踏まえつつ、この番組制作の現場で得た知見を、業界のベテランの方々にお話した所、業界に慣れていないからこその新鮮な視点と評価していただきました。
そこで改めて、この場を借りて、お話したいと思います。

 

 

・番組を成功させるために足らなかったもの—————————————–

 

それは『マネジメントデザイン』です。
構成要素は、2つあります。
ひとつはKPI(Key Performance Index:目標設定)であり、もうひとつは、KPIを達成するために各スタッフ、各部署などステークホルダーが連携するという仕組みです。

 

誤解のないように先に述べますと、私の携わっていた番組の制作現場はさまざまな工夫を試み、次の展開も考えていたほど制作チームとして能動的でありました。ここで述べたいのは、制作現場という前線がパフォーマンスを発揮するためには、後方支援
体制が必要不可欠であるにも関わらず、後方支援体制も含めた”包括的な”番組づくりが、制度化、仕組み化されていないのではないかということです。

 

テレビ番組の目標設定としては、視聴率が真っ先に浮かびます。しかし、この視聴率については、すべての番組にとって絶対的なKPIになるとは限りません。BS放送では、月に一度の調査がありますが、地上波のような形では数値は得られません。また、視聴率そのものも各調査では、毎年視聴率全体が低下傾向にあり、また録画やネット視聴などに視聴率の調査手法が対応していないこと、調査手法の改善が技術的に可能であっても法規制などによって実現していないことは周知のとおりです。
このように不完全で指標であるにも関わらず、番組にとって視聴率に取って変わり得るKPIは、現状のところほとんどありません。
つまり、極めて曖昧なものを目標にしつつ、また、目標が曖昧な状態で、番組を制作し続けなければならないのが番組制作の現場です。

 

もうひとつ、番組に限らず物事をつくり動かす上で、重要なのは、各スタッフ、各部署の連携です。番組の場合は、制作チームはもとより、編成、営業、広報の連携、そして、スポンサーも視聴者も含まれると私は考えます。
ところが、目標設定が行われていないと、この連携も具体的に機能しません。そのため、現場が試行錯誤を積み重ねながらも戦略的な意義についてはよくわからないまま、頑張るという状態になります。
これは、新規事業はもちろん、経営や広告分野でもあまり見られない状況です。

 

 

・番組は、4つの思惑から成り立っている——————————————-

 

テレビ番組は「視聴者」と「番組」という2つの関係性から捉えられますが、実際は4つの立場とそれぞれの思惑があります。「番組制作チーム」「視聴者」「局(営業、編成)」「スポンサー」の4つの関係性から、番組は成立しています。そして、その思惑はそれぞれ違います。

 

「番組制作チーム」は、目前の放送準備を終われながらも、その放送内容を用意された戦力内でベストにする方法を考えています。一方で、その先の事を考えることはとても難しい環境です。
「視聴者」は、興味がなかったら見ませんが、少しでも興味を持った視聴者は、番組に対して、期待をします。番組の種類によって、その期待の中身はまちまちですが、私が関わっていた討論番組の場合は、社会の問題解決につながるようなカタルシスを求めているように感じました。
「局(営業、編成)」は、スポンサーからの反応、視聴者をはじめ局内外からなんとなく聞こえてくる番組の評判、そして何よりも自分達の価値観から見て番組を評価します。
「スポンサー」は、視聴率はもちろん、出稿した内容がどの程度、視聴者にリーチしているかを意識していますが、広告出稿の効果測定について仮説検証のサイクルを運営して企業は、まだ極めて少ないのが現状です。

 

このように4つの思惑はバラバラで、ひとつの目標を共有し繋がっている状態ではありません。
番組制作の現場が、職人技や勘で番組をつくり、半ば運で、番組の成否が決まる傾向が高いと言えます。また、その成否は局が決めるものであり、視聴者、スポンサーの評価と同じというわけではありません。

 

このようにテレビ番組の多くは、多くの労力や予算が投じているにも関わらず、目標設定が明確に設定しづらく、曖昧になりやすい状況にあり、戦略的な成功が生まれにくい環境下で制作、放送されています。
これは、マスメディアの雄であるテレビのこれからのあり方を考える上で、大きな課題であると思います。(次のページへ続く)

 

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