あやぶろ/OLD

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20134/26

番組制作に『マネジメントデザイン』を!

・課題を解決する方法——————————————————-

 

課題解決の方法は、3つあります。

 

ひとつは、局内の番組制作体制そのものを変えることです。しかし、大企業であるテレビ局の内部体制を変えることは容易にできることではないでしょう。

 

もうひとつは、アニメ番組制作ですでに行われている製作委員会方式など、番組を大きなプロジェクトの一部と捉え、全体で目標設定(この場合、収益)を構築する方法です。深夜帯にアニメが数多く放送されていますが、あのような時間帯に放送できるのは、放送が主ではなくDVD/Bluerayをはじめパッケージ販売なども含めた目標設定を行うことができているからです。
この方法を、アニメ以外の番組に応用すればいいのですが、ドキュメンタリーなど作品性が高いものにその対象は限られるでしょう。

 

そしてもう一つの方法は、仲介役(ハブ)となる役割を担う立場を番組制作に関与させることです。
「番組制作チーム」「視聴者」「局(営業、編成)」「スポンサー」の間にそれぞれを繋ぐ「仲介役」を新たに置きます。
「仲介役」は、「局(営業、編成)」「スポンサー」に対しては、目標設定について合意を取り付け、「番組制作チーム」に対しては、戦略的視点を提示しつつ、目標設定に基づいた番組制作の舵取りのコンサルティングを行います。一種の参謀的な役割と言えるでしょう。番組プロデューサーによっては、この役割まで担えるケースもあるようですが、属人的な部分に負うところが大きく、飽くまで例外です。
「仲介役」が制度化されることによって、番組制作上の課題に対して構造的な部分から改善を包括的に行うことができます。
また、「視聴者」に対しては、番組を代表する顔として、番組が運営するソーシャルメディア上などで視聴者に向き合うことで、番組に視聴者センターへの電話よりも直接的に、視聴者の要望などを伝え、視聴者が番組を応援しやすい状況を整える事ができるようになるはずです。
この方法であれば、現状の番組制作の現場にも大きなショックを避けつつ導入が可能であり、応用可能な番組の種類も多岐にわたると思われます。

 

「仲介役」に求められるのは、目標を設定し関係各位と調整する能力、出演者や視聴者と意見交換できるコミュニケーション能力、予算デザインに関わる権限、技術にある程度明るいことです。
目標は番組によってさまざまであるはずです。フェイスブックページのユーザー数、ツイッターのフォロワー数、ネット上での注目度、企業によるキャンペーンに参加者数、認知度の向上、書籍の売上、そして視聴率が考えられますが、実際には、いくつかの目標を組み合わせたものになるかもしれません。
番組の内容や投下する予算によって、そこはデザインされるものになります。
こうした機能は、局内の職能、制作会社、放送作家にもない新しい機能と言え、この機能を制度化し、番組づくりの戦略性、精度を高めることが「マネジメントデザイン」となります。

 

 

・これからのテレビ番組制作のあり方———————————-

 

テレビの総視聴率が低下しつつ、若年層を中心にメディア接触がネットにシフトするなか、その影響力がかってのように絶大なものではなくなっているとしても、ネット上で話題となる出来事の起点となっているのは依然として、テレビが多いことは、体感として多くの方が肯定されると思います。また、ソーシャルメディアの普及によって人々の反応が、見えやすくなっていることも大きな変化と言えます。背景にはスマートフォンの普及があります。

 

こうした変化から、これからのテレビ番組を考えると、テレビ番組制作環境は「マネジメントデザイン」を導入し、さらに一歩、精緻なものとなる必要があると私は考えます。この”精緻”という表現からは、数字ばかりを追い自由な表現が難しくなるような印象を受けますが、実際は逆です。目標が曖昧なまま、曖昧な各自の思い込みで判断や規制を行うことがなくなり、番組のあり方が明確になることで、各自の思い込みによって判断や規制を行うことがなくなり、表現においても、仕組みの開発でも思い切ったことが行いやすい環境が実現します。

 

日本でのテレビ放送は、今年60周年を迎えていることもあり、テレビのあり方を考える番組がすでに複数の局で、放送されています。それらの内容は、作り手内部の問題点と改善を念頭に置いた話があまりないように思いました。
未来の可能性は、多くの場合、すでにある知見の組み合わせや、繋がっていない領域を繋げることから生まれます。
私は行政の仕事もしていますが、ある政令指定市における公共交通に関わる取り組みでは行政、事業者、市民それぞれの立場から見た「正解」が必ずしも街全体にとっては正解ではなく、それぞれの立場を橋渡しをする仕組みをつくることで、全体最適に向けた正解が見えてくるという事がありました。
同じようなことは、番組制作にも言えるのではないかと思います。

 

これからのテレビ番組のあり方は、「誰の」「何の」ための番組か起点に、目標を戦略的かつ客観的に設定し、その目標に基づいて「仲介役」などをマネジメントデザインを制度化した上で、番組及び番組に関わるコミュニケーションを、関係各位が連携しながら改善を積み重ねてゆくものになると考えます。
少なくとも、これからのテレビ番組が、より魅力的で話題となり、視聴者、ユーザーから求められるものとなっていくために、番組制作にマネジメントデザインを組み込みことは必要なことであると思います。

 

 

・(付記)テレビの力が発揮されるのは「問題解決」と「教育」が重なる領域——————

 

いまでもテレビについて話題になることの多くは、ドラマやバラエティが中心ですが、現在の日本は、社会の様々な課題が複雑化し容易に解決策を見つけることができない中にあり、だからこそ解決策を見つける方法を必要としています。日本全体の課題もあれば、地方単位での課題もあり、年代ごとの異なる課題もあります。
このような状況に、いままでのテレビの成功事例はあまり意味を持ちません。
テレビの黎明期において、NHKも民放も「教育」を意識した番組開発を行なっていたように、テレビには「教育」メディアとしての性質があります。ここで言う「教育」は、いわゆる学校教育のみならず、世論形成にもつながる情報提供としての広義の教育です。
これからテレビの力が改めて発揮されるのは、「問題解決」「教育」の要素が重なる領域になるはずです。
これについては稿を改めて、提言の機会をいただきたいと思います。

 

 

岩田崇/ iwata Takashiプロフィール
1973年名古屋で生まれる。が、箱庭的風土に疑問を感じて上京。早稲田大学大学卒、広告業界でマーケティングプランナーとして販促企画から企業のネットコミュニケーション戦略の策定・実施を手がける。仕事を通じて、政治分野へのマーケティングとコミュニケーションの応用が今後の日本社会に必要と考え、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科に入学。
修士研究では、政治学の曽根教授、行政改革の上山教授に学び、合意形成に繋がる議論の場がない日本政治の機能を補う仕組みとして、オンライン政策ファシリテーター:『ポリネコ』を開発、特許化。また研究とは別の発明として、企業と社会のつながり視覚化する方法を開発し特許化。
フジテレビ『コンパス』、朝日新聞『オルタナティブニッポン』では、既存メディアとソーシャルメディアの組み合わせによるコンテンツを企画開発、新潟市では公共交通の再構築にも携わる。
現在は、メディア環境の変化を踏まえ、合意形成コミュニケーションメディアとしての『ポリネコ』の実用化、新しいニュース、討論番組の開発などに取り組む。
「Challengingな仕事、大好物です。」 twitter:iwatatakashi

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