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20143/20

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点③後半

2014年の論点-3(後半)メディアにとっての『出口』の重要性

 

 

任天堂の行き詰まりは「出口」のなさ
次に任天堂のパースペクティブを見てみようと思いましたが、任天堂には社訓を始めとして、礎となるような文章がありません。検索で、「任天堂 社訓」と入れると上位には、”ウチには“カイゼン”という考え方がありません。新しいモノしかつくらないからです。また、社是、社訓、社歌の類もありません。”という社員の声を紹介した昨年のネットニュースの記事引用サイトが表示されます。

 

任天堂では、いきなりプロトタイピングから入ることで自然発生的なソフト開発を行っているという話も聞いたことがあり、固定的なルールに縛られない経営方針があるとも言われます。実際に、花札や光線銃以外に、ブロック玩具やラブホテルの経営に進出したこともあり、パースペクティブは持たない代わりに、その時々の社会環境を捉える属人的な発想力がイノベーションを生み出してきました。
テレビゲームの初期にあった圧倒的な面白さは、テレビ画面でも液晶画面でも、普通に考えれば操作できなかった画面の向こう側を操作できることにありました。自衛隊の確か戦車の運転シミュレーターを山科社長が視察したことが、ファミリーコンピュータの開発に大きな影響を与えたと読んだことがありますが、70年代、80年代に於いて画面操作という体験は未来を感じさせるに十分な『出口』でした。
それがPCの普及によって、年賀状の作成でも画面の向こうを操作するようになってしまい、画面の中を動かせる!という原初的な価値が暴落してしまいました。
いま、ひとりのユーザーとしてゲームを見ると、ゲームをやっても現実に何の影響も与えられない。むしろ虚しくなると感じてしまいます。
21世紀の現在、普通に考えれば操作できないものがどこにあるかを再考察することが任天堂という会社が顧客に提供する新しい『出口』なのかも知れません。

 

 

パースペクティブと「出口」は一体がいい
ソニーのパースペクティブと任天堂の柔軟な経営方針から見えてくることは、パースペクティブがいくら立派でも、商品がいくら優れていても『出口』がなければどうも行き詰まってしまうということです。
「日本という社会がどうなればいいか」というパースペクティブとその『出口』をひとつの方程式や循環構造のように持っていないと、どちらかが卓越していても外部環境の変化に翻弄されてしまうと私は考えます。

 

岩田

 

つまり、パースペクティブをもとに、『出口』があり、その結果から、パースペクティブが更新され、さらに『出口』も更新される循環構造です。
文庫本の末尾によくある刊行の辞も、読んでみますと日本の未来を憂い、読者にいろいろ託す起草者の想いが伝わってくる名文が多いのですが、『出口』を紙の書籍の出版販売としてしまっている所に、自ら限界を自つくってしまったのではないかと思うのです。
加えて、言及しておきたいのですが、ほとんどの企業にとって、パースペクティブと『出口』よりも、儲かり続けることが重要です。
そして、ソニーのように”設立の目的”が立派な企業はそんなに多くないし、すべての企業が任天堂のように商品が優れているわけではありません。
ただし、重要なのは、メディアビジネスというものの敷居が技術革新によって、下がっていること、サービスとメディアの間も陸続きになり境界線が溶けつつあるなか、どんな企業でもメディアを事業とする可能性があるということです。
結局どんな企業も社会のインフラにでもならない限り栄枯盛衰の波に翻弄されるわけで、その新陳代謝で社会が発展するのですが、メディアビジネスに携わる企業、携わろうとする企業が、パースペクティブも『出口』も考えずに儲かり続けることを重視する社会は、メディアへの信頼度に反比例して、軍隊や宗教への信頼度が高いというパターンもあり、おそらく居心地が悪いと思います。
そして、日本におけるメディアの一種の行き詰まり感と、最近の日本やアメリカでニュースになることが多い新しいメディアを模索する動きは、このパースペクティブと『出口』の有無を見ると、一時的に舞い上がったとしてもただの金儲け事業で終わるのか、次世代のメディアとなり得るか見分けられるのではないかと思います。

 

日本が誇ったmixiにも、新しいメディアになる可能性が一時的にありましたが、パースペクティブと『出口』の両方が欠如していたため広告媒体のひとつになっています。
これからのメディア事業は、いままでの日本を代表する一流企業をモデルにはできないし、しないほうがいいでしょう。

 

もはや、テレビ、ネット、新聞、雑誌、ラジオという媒体の垣根は送り手の都合でしかありません。だからこそ、『出口』の想定が甘いと、これからのメディアとして機能しません。

 

『出口』の想定には日本社会が置かれている状況を分析し把握することが必要です。広告費やPV、視聴率といった既存の軸では、これからのメディアは見えて来ません。
次回は、『出口』のあり方から、事業デザインに求められる機能を考えてます。
(つづく)

 

 

 

岩田崇/ iwata Takashiプロフィール
1973年名古屋で生まれる。が、箱庭的風土に疑問を感じて上京。早稲田大学卒、広告業界でマーケティングプランナーとして販促企画から企業のネット コミュニケーション戦略の策定・実施を手がける。仕事を通じて、政治分野へのマーケティングとコミュニケーションの応用が今後の日本社会に必要と考え、慶 應義塾大学大学院 政策・メディア研究科に入学。
修士研究では、政治学の曽根教授、行政改革の上山教授に学び、合意形成に繋がる議論の場がない日本政治の機能を補う仕組みとして、オンライン政策ファシリ テーター:『ポリネコ』を開発、特許化。また研究とは別の発明として、企業と社会のつながり視覚化する方法を開発し特許化。
フジテレビ『コンパス』、朝日新聞『オルタナティブニッポン』では、既存メディアとソーシャルメディアの組み合わせによるコンテンツを企画開発、新潟市では公共交通の再構築にも携わる。
現在は、メディア環境の変化を踏まえ、合意形成コミュニケーションメディアとしての『ポリネコ』の実用化、新しいニュース、討論番組の開発などに取り組む。
「Challengingな仕事、大好物です。」 twitter:iwatatakashi

 

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