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201310/1

『半沢直樹』×『あまちゃん』で、次世代コンテンツを考える

なんという大袈裟な言い方だと私も思いますが、今世紀最高の視聴率を得た『半沢直樹』の最終回から約1週間が経ちました。また、これまでの視聴者に加えて、ネットユーザーにも浸透したと評価される『あまちゃん』も数日前に最終回を迎えました。
社会現象となったと言ってもいいこの2つのドラマから、これからのドラマではなく、コンテンツを考えようと思います。

 

『半沢直樹』は、父の仇討ちという目的を、多少の悪事をしても遂行するピカレスク・ロマンの要素と、銀行という経済社会の中心に位置と思われている仕事環境で、相対する敵のスケールが段階を追って大きくなり権力の中心に向かっていくビルグンドゥス・ロマンのように見える要素が特徴でした。
(余談ですが、原作と異なる主人公の父親の自殺は、物語として正解だと思います。)

 

『あまちゃん』は、80年代を体験したことがある人ならどこかに過去の自分を思い出せる仕掛けをあまた盛り込みながら、物語が数年前の3・11-東日本大震災が不可避である構造によって、全世代に、この話のなかに自分がいてもおかしくないと思わせる要素が特徴でした。

 

「あるいはそうであったかもしれない、”自分”の別の可能性を現実のように感じられること」は、現実の中で多少なりとも不条理に妥協している人にとって、気晴らしや、場合によっては救いのように捉えられるはずです。

 

半沢直樹の実家が銀行の貸し剥がしにあうのは、設定からバブル景気まっただ中である1986年から1988年でした。また、宮藤官九郎の脚本には、80年代のモチーフがアイドル文化や実際の登場人物による形で直接的にもメタ的にも繰り返されます。
そういう意味で、あの80年代を、父の仇討ち、東日本大震災という仕掛けによって総括する疑似体験構造を両者とも備えているのです。さらに通底するのは、ドラマというフィルターを通じて2010年代の現実に向き合う気分を味わえるコンテンツであるということです。

 

この2つの大ヒット作の次に、来るべきコンテンツは、「現実」に向き合うものだと私は考えます。どういう角度で向き合うかのさじ加減にはいろいろな可能性がありますが。
もう、恋愛ものなんて発情期の青少年は減少するし、老いらくの恋は、傍目から見てなかなか綺麗に見えないので、ジャンルとして残ってもかつてのようなヒットはしないでしょう。同様に、ドラマのためのドラマも可処分時間が多い層には届きますが、今回のようなヒットにはならないと思います。

 

具体例を考えてみました。
現在も続く、福島原発事故に真正面に向き合っている日本社会をドラマ化。能年さんが政治家になって(あまちゃんは現在22歳という設定なので、被選挙権が得られる25歳という制限によって、これまで政治に強くコミットできなかったという設定も生きます。)電力行政を紐解きながら、あのとき、こうすればよかったのに、いまでも、こうすればいいのにということを散りばめたコンテンツを地域ごとの関心の温度差も浮き彫りしつつ設計します。電力会社への金融を担当する役は堺雅人さんが演じれば、脳内で自動的に2つの物語が繋がるでしょう。ドラマというフォーマットに無理に入れ込まなくてもいいでしょう。
内容がハードだからこそ、大袈裟な演出も楽しめるはずです。
日本には、原発事故と同じように先送りにされて、過去の総括ができていない故に、不安の種でもあるテーマは、数多くあります。

 

現実に向きあう回路を備えたドラマとして、『ふぞろいの林檎たち』、『女王の教室』などが私の中では、思い浮かびましたが、『ふぞろいの林檎たち』の登場人物は現実に対して抗えない切なさがありました。『女王の教室』の主人公は、多くの犠牲を払って、現実になんとか対抗していました。これらと較べると『半沢直樹』の主人公は、とてもパワフルになっています。頭取を敵にした先には、(原作とは異なりますが、)銀行という枠を越え、社会権力そのものに対抗する革命家の道すら見えてきます。この点、『あまちゃん』の主人公はまだ守られており、今後に期待という位置です。
社会の力と個人の力の変化がドラマの中にも見えているようです。この社会と個人の力関係の変化は、ソーシャルメディアの出現など、メディア環境そのものの変化と呼応しているはずです。つまり、リメイク作品が難しい状況であり、正解はチャレンジしなければ見えてこない状況なのだと思います。
今回ヒットした2つのドラマは、私が現場で居たわけではないので伝聞でしかありませんが、作り手が視聴率やこれまでの成功の尺度よりも、チャレンジすることを重視している点も共通していたようです。

 

次世代のコンテンツは、さじ加減はどうあれ、
1:視聴者、番組ユーザーを現実に向き合わせる回路を持つこと。
2:既存の成功の尺度ではない何かに、チャレンジする意識を作り手が持つこと。

 

であると私は考えます。
もともと、これからのニュース番組、討論番組のデザインを考えていたのですが、2つの大ヒットドラマにドラマだけではなく、コンテンツ全般にとってのヒントがあるとがしたので文章にしました。次回は、メディア環境が変化するなかでの、これからのテレビ番組のつくり方について、プレゼンテーションできればと思います。

 

 

 

岩田崇/ iwata Takashiプロフィール
1973年名古屋で生まれる。が、箱庭的風土に疑問を感じて上京。早稲田大学大学卒、広告業界でマーケティングプランナーとして販促企画から企業のネットコミュニケーション戦略の策定・実施を手がける。仕事を通じて、政治分野へのマーケティングとコミュニケーションの応用が今後の日本社会に必要と考え、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科に入学。
修士研究では、政治学の曽根教授、行政改革の上山教授に学び、合意形成に繋がる議論の場がない日本政治の機能を補う仕組みとして、オンライン政策ファシリテーター:『ポリネコ』を開発、特許化。また研究とは別の発明として、企業と社会のつながり視覚化する方法を開発し特許化。
フジテレビ『コンパス』、朝日新聞『オルタナティブニッポン』では、既存メディアとソーシャルメディアの組み合わせによるコンテンツを企画開発、新潟市では公共交通の再構築にも携わる。
現在は、メディア環境の変化を踏まえ、合意形成コミュニケーションメディアとしての『ポリネコ』の実用化、新しいニュース、討論番組の開発などに取り組む。
「Challengingな仕事、大好物です。」 twitter:iwatatakashi

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