あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

20132/8

視聴者はユーザーになる。テレビはフリーミアムをめざそう。

年明け以来、あやとりブログは怒濤の進撃をつづけ、皆さんのエントリーが日々更新されるのに圧倒されてタジタジとなっています。中でも、主宰たる氏家さんのかなり具体的なビジネス面での提言はその裏に強い思いをビンビンに感じました。直近の【視聴者は「視聴者」でなく「ユーザー」になった】は非常にインパクトがあります。ソーシャルテレビの勉強会を去年から開催してきて、今年は“ビジネスモデルを提言する”ことをテーマに掲げようと思っていたのですが、氏家さんのこの考え方はその重要な土台になる気がしました。視聴者がユーザーになった。そう考えることで、ビジネスモデル構築の糸口が見えてくるのではないでしょうか。ここでは、テレビを見る人びとをユーザーと捉えることで何が見えてくるか、考えを進めてみたいと思います。うん、これこそ、あやとりですね。

視聴者とはまさしく番組を視聴する人です。ある番組の視聴者とは、その番組が放送されている時にテレビ画面を通してその番組を観ている人ですよね。いまはもちろん、放送時間後に録画で観る人も含むべきでしょう。ただとにかく、その関係は番組を観ている間だけのものであり、番組が終わると関係は途切れてしまう。視聴者を視聴者と捉えると、当然そうなってしまいます。

ソーシャルメディアが登場して、そこが変わりつつある気がします。ぼくはドラマが好きで、ライブで観ながらFacebookやTwitterでつぶやきます。じーんと感動したりすると、終わってからもソーシャルメディア上で感想を語りあいたくなります。実際、そういう人は多いようです。テレビ局のハッシュタグのついたツイートを収集すると、次の番組がはじまっても、前の番組についてつぶやいている人がかなりいます。深く感動した時ほどその傾向は強いようです。番組が終わったあとも、人びとは番組を軸につながっているのです。視聴時間が終わっても、その番組の視聴者は視聴者として活動しています。

あるいは、最近Facebookページを運営するテレビ番組が増えてきました。テレビ番組のFacebookページの中でもっともファン数が多いのはテレビ東京のニュース番組「ワールドビジネスサテライト(WBS)」です。2月5日時点で16万人を越えています。月金ベルト23時の放送ですが、一日数回投稿されています。すると投稿に何百もの「いいね!」がつき、コメントも何十もつきます。つまり、放送時間外にも人びとはWBSと接触するわけです。投稿は当日夜の番組の予告といえば予告です。でも、Facebookページでの投稿もコンテンツだと言えます。WBSというコンテンツは今や、いつでもコンタクト可能です。コメントを書込むとレスポンスをくれたりもする、インタラクティブな関係でさえある。

日中にFacebookページを通じて接触する人はWBSの“視聴者”なのでしょうか。その時彼は“視聴”しているわけではありません。氏家さんの言う“ユーザー”の方が当てはまります。しっくりきます。ソーシャルメディアの登場が、番組と視聴者の関係を変えようとしているのです。視聴者がユーザーになっているのです。

話は変わって、フリーミアムという言葉がありますよね。「フリー」の著者クリス・アンダーソンが紹介して広まった概念。WEBサービスなどで最初は無料だけど、もっと便利な機能は有料で提供する。サービスを使い込んでいる人は、さらに便利になるならお金を払うことにも納得するでしょう。最初はフリーだけど、使ってるとプレミアムを払う、だからフリーミアムというわけです。EvernoteやDropBoxなどのクラウドサービスはその代表例です。

フリーミアムの典型として、日本ではソーシャルゲームがあります。ケータイ上で、無料でゲームがプレイでき、やってるうちにどうしても攻略したくなって釣りゲームの釣りざおを1000円で買ってしまう。最近はカードゲームが流行り、レアカードを手に入れるために何度もお金を払ってしまう人も多いとか。

こうしたケータイゲームが大量のテレビCMを使うのは皆さんお気づきの通りです。いまやGREEやDeNAはテレビ局の大スポンサー。ゲームに限らずこのところ、名前を知られていないサービスや企業が急にCMを打つケースが多いです。LINEもユーザーを増やしたのはテレビCMの出稿が大きいでしょう。なんでも、ネット上のサービスが100万人以上の会員を獲得するにはテレビCMがもっとも効率がいいのだそうです。ポータルサイトでどかんとバナーを買うより、最新のソーシャルメディアを駆使するより、リーチを稼いで大勢の人びとを集めるには、テレビというメディアがいちばんだと。

フリーミアムのサービスの本体、お金を稼ぐ場所は、ネットです。でもそこに人を呼び込み集める、サービスの入口はテレビが最高だというわけです。そこには非常に重要なことがモヤモヤ漂っていないでしょうか。

テレビ番組と人びとの関係を、視聴者でとらえると、テレビ番組が本体で、放送中だけで終わる関係です。でもユーザーと考えると、テレビ番組はソーシャルゲーム同様、入口なのかもしれません。本体はネット上にあって、そこで何らかいい気持ちになってもらう、楽しんでもらうのか、便利と思うのか、何らかの形で納得のいくサービスを提供したら、有料でもいいと思うかもしれない。

これにはすでに先行事例があります。「ヌメロン」という番組をフジテレビで夜中に放送しています。数字を使ったけっこう頭を使うゲームでタレントたちが対戦する番組です。それと同じゲームをスマホやタブレットでプレイできるのです。そこにどういう戦略があるのか、ぼくは知りません。いまのところゲームのヌメロンは無料ですが、有料メニューもつくるのでしょうか。

なにもゲームだけの話でもないと思います。テレビで人を集めて、ネットでサービスを展開する。その構造にはいろんな可能性があるでしょう。視聴者ではなくユーザーと捉えることで、まったく新しいビジネスモデルが見えてくるのではないでしょうか。

視聴者をユーザーと捉えると、テレビは“集客装置”になる。これを入口にネットに呼び込んでできることを構想する。もちろんそこには、番組と広告の区別の問題とか、テレビ局が背負わされている公器としての役割とか、考えないといけないことがたくさんあります。でも、何かが見えてきそうです。半ば知的ゲームのように、でも半ばはメディアの未来を託して真剣に、考えてみる時ではないでしょうか。このテーマはもう少し考えて、また書こうと思います。

 

 

境 治 プロフィール
フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、なぜか映像製作会社ロボット経営企画室長となり、いまは広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
ツイッターアカウント:@sakaiosamu
メールアドレス:sakaiosamu62@gmail.com

[amazon_image id=”4799310356″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]テレビは生き残れるのか (ディスカヴァー携書)[/amazon_image]

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る