テレビはやり直し…制作者も、スポンサーも
先日、西田宗千佳さんと対談しました。西田さんのメルマガ「Random Analysis」の記事にするためのものです。
西田宗千佳さんはITジャーナリストで、カバーする領域は広くテレビについてもよく題材にされています。「スマートテレビ」と題した新書も出しているので、あやとりブログの読者ならご存知の方は多いでしょう。
ソーシャルテレビについて喋ってくれと言うので、西田さんに導かれるままに思うところをそのままだらだらと話して、あっという間に2時間近く経っていました。面白い人と話すのは、面白いものです。
今月後半の回に掲載されるそうなので、皆さんぜひ読んでみてください。このリンクのページで購読できます。話があちこち飛びつつ、これからテレビどうなるかねみたいな話になった時、そもそもテレビのビジネス構造ってイビツなのかなと、おかしなビジネスモデルで長らくやって来てしまったんじゃないかと、いう話がでました。
テレビ局の人がいちばん頑張っているのは番組づくりですよね。テレビマンを若者が目指す時9割方は番組を作りたくて入るんじゃないでしょうか。ところが不思議なことに、番組を流している時間そのものは、お金にはならないのです。お金になるのは番組の途中にあるCMの時間です。あるいは番組と番組の間にあるCMの時間です。
よーく考えたら、すごく奇妙じゃないでしょうか。食パンで言うと耳の部分がお金になるようなものです。ビールで言えば泡の部分、プリンで言うならカラメルのところ。“本体”は売り物じゃないんです。飾りとかおまけとかにあたる部分がお金になる。
それはそういう仕組みの事業なのだから、そこをどうこう言ってもねえ。多くの人はそう言うでしょう。でも、どうなんでしょう。そろそろそこをどうこう言った方がいいんじゃないでしょうか。
番組の部分と広告の部分は明確に分ける。それがテレビのルールです。そこが一緒くたになってはいけない。なんかそれが今やもう、息苦しいことになってないでしょうか。
一方、テレビ黎明期の話を聞くと、昔はテレビ局とスポンサーが一緒になって議論して意見ぶつけ合って番組ができていった、らしいです。そもそも昔は、一社提供の番組がたくさんあった。そっちの方が普通だった。
『東芝日曜劇場』でしたし、『ロッテ歌のアルバム』でしたし、『ポーラテレビ小説』でした。『日立ふしぎ発見』と『キユーピー3分クッキング』なんかは今も続いてますが。ロッテは歌のアルバムを通じてお口の恋人になっていったし、ポーラはテレビ小説を通じて奥様方の心に居場所をつくった。その頃のスポンサーにとってテレビ番組は、一緒に育つパートナーみたいなものだったんじゃないでしょうか。テレビとスポンサーは今よりずっと手に手をとっていたんだろうなと推察します。
それが、役割分担をどんどんはっきりさせてしまった。スポンサーはCM枠で言いたいことを言うことだけを重視して視聴率が下がると「をいをい、なにやってるのかね」と言う立場。テレビ局はスポンサーにとやかく言われずに自分たちのやりたいようにやる。いつの間にか手に手をとっていたその手を、お互いにふりほどいてしまった。
もう一度、テレビ番組とは何でそれにスポンサードするとはどういうことなのか、お互いに考えた方がいいんじゃないでしょうか。テレビ放送とは何なのか、再定義するところからやり直した方がいいのだとぼくは思います。
『たまたま』という番組があります。テレビ埼玉で不定期に放送する番組で、これまで2回放送されました。読売テレビの西田二郎さんと北海道テレビの藤村辰寿さんが出演します。これまでの2回は二人が出てきて喋るだけでした。「予算ゼロ」なのだそうで、編集できないのでめちゃくちゃ切れが悪いところで突然終了します。テロップを入れられないのでガラスの上に紙に書いた文字を貼ってテロップの代わりにしています。それぞれ『ダウンタウンDX』と『水曜どうでしょう』というメジャーな番組を作っているお二人が、ものすごくマイナーなことをやっているわけです。それが面白く、笑えて、刺激的です。
2回目の放送の最後で「スポンサー募集」と書いた紙をガラスに貼って見せました。ここで言うスポンサーは提供枠でCMを流すスポンサーではありません。番組に精神的に協賛してくれる“精神協賛“スポンサーを募るのだそうです。なんだそりゃ?
ここではスポンサーは複数募集するので、さっきの一社提供とはちがいますが、でも気持ちは似ています。『東芝日曜劇場』『ポーラテレビ小説』と同じ意味でのスポンサーを募っているわけです。番組とスポンサーの関係を再定義しようとする試みですね。原点回帰でもあるのかもしれません。
果たしてスポンサーになったらどんないいことがあるのか。そしてこういうやり方が他の番組でも流用できるひとつのモデルになれるのか。さらに放送法やこれまでのビジネス慣習のハードルを越えていけるのか。まったくわかりませんし、おそらくお二人はうまくいかなきゃそれでもいいぜ、と思っているでしょう。でも面白い試みじゃないですか?テレビをやり直す大実験です。
この『たまたま』について皆さんも西田さんに聞いてみたくなってきたでしょ?だったら6月5日にいい催しがあります。ソーシャルテレビ推進会議・一周年オープンセミナーです。このリンクの申し込みページで内容を見てください。3部構成で、第3部で西田さんがゲストで来てくれて、『たまたま』の話もしてくれます。もうひとりのゲストが交渉中とあるのも気になりますね。誰でしょう?さらに第1部、第2部もこりゃまた面白そうです。
というわけで、ソーシャルテレビ推進会議の一周年を記念して開催するオープンセミナー、ぜひご参加ください。
付け加えると、例えばこの『たまたま』の試みは、“出る杭“みたいな実験です。この国は、杭が出てると、打とうとする人たちがやいのやいのと出てきます。とくにオールドメディア界は強いなあ、その傾向。でもこのオープンセミナーでぼくはテレビ界に呼びかけたいです。みんな杭出してこうぜ。それぞれ勝手に出してこうぜ。業界ルールとか横並びとか言わずに思い思いに杭を出していって、どれかがうまくいったら、それに乗っかればいいじゃん。そして必要ならルールを書き換えればいいじゃん。それが進歩じゃん。イノベーションじゃん。杭を出そう!そんな気持ちになってもらう催しにしたいと思っています。
という、要するにイベントの宣伝のための原稿でした。(テヘペロ)
境 治 プロフィール
フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、なぜか映像製作会社ロボット経営企画室長となり、いまは広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
ツイッターアカウント:@sakaiosamu
メールアドレス:sakaiosamu62@gmail.com
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