あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

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201210/30

10・30【オールドメディアのイノベーションで大事な5つのポイント】境 治

先日、ある関西キー局の社内研修に呼んでいただき、思うところをお話ししました。ぼくなんかの話を、思いの外皆さん熱心に聞いていただき光栄でした。改革を担う新部門の方々との懇談会もあり、いま何かをはじめようという熱気が伝わってきました。

一方、自分のブログで【日本テレビというベンチャー企業】のタイトルで同局のJoinTVカンファレンスについて書き、その同じイベントについて氏家さんがここあやブロで【日本テレビが本気でメディア・イノベーションに乗り出した!】と力の入った記事を書いておられました。

そんな流れに乗る形で、先の研修に呼ばれて新たに考えたことも含め、この記事を書いています。タイトルは、ネットにありがちな「○○○○なXのほにゃらら」の形式にしてみました。この、タイトルに数を入れるのは、何なんですかね?数を入れるとアクセスが増えるよ、という公式があるんでしょうか?なんとなく面白いので、もじってみました。

ということで、オールドメディアがイノベーションを推進する際に、気をつけるべきポイントをまとめてみます。これを書いていくと、ほとんど日本テレビのメディアデザインセンターのことじゃないか、と、どうしてもなってしまいます。“日本テレビはベンチャー企業みたいでいいぞ!”と、褒め過ぎちゃってあとでちょっと恥ずかしかったのですが、うーん、また恥ずかしくなっちゃうかなあと思いつつ、他の会社のいいところはどんどん真似しましょう!ってことで恥ずかしげもなく書き進めます。

ちなみに、テレビ局ではなくオールドメディアとしたのは、新聞社でも出版社でも、オールドメディアと言える業態なら当てはまるんじゃないかと、いうことです。

1:責任者自らが新しいことを試してみる
JoinTVカンファレンスで印象的だったことのひとつが、担当役員の方のお話。あるドラマを”tuneTV”を使いながら観ていたら、というくだりがありました。TwitterではなくtuneTVを使いながら、と言ったのですね。tuneTVとはテレビを観ながら使うためのTwitterアプリです。そんな固有名詞が自然に話の中に出てきたのは、つまり生活の中で普通に使っている証しだと思います。
ぼくがいままで見てきたいろんな会社のトップでも、面白い会社だなあというところは、トップ自身が新しいこと大好きでした。逆に面白みを感じない会社はトップが新しいことに興味ないことが多いと思います。
いまで言えば、メディア企業はソーシャルメディアに興味持たないわけにはいかないのではないでしょうか。使う前から敬遠していないで、どれどれ、これってどんなもんなの?と少しでもいじってみてほしいもの。それを社長なり、部門の長なりがやるのとやらないのとでは空気がえらくちがってきます。よし!おれたちもトップと一緒になって新しいことやるぞ!そういう雰囲気づくりがまず大事です。

2:三年間は利益を求めない(予算はつける)
新しい取り組みは簡単に利益を出せないでしょう。当たり前ですよね。簡単に利益を出す方法が見つかるのなら、何の問題もないわけで。テレビでいうと、放送に伴う広告費が莫大で、それと比べちゃうと例えばネットで取り組んで得られる利益は鼻くそ(失礼!)みたいなものです。だから、あの新部門は三年間は利益出さなくていいから。そうはっきりさせておく必要があります。メインの事業をやっている部門からすると、あいつら、おれたちが稼いだお金で遊んでやがる。そう言いたくなるもの。そんなこと言いっこなしだよ、という前提ではじめないといけません。ほぼ必ず、そういう声は出てくるし、利益が出せないとそういう声にはぐうの音も出せないですからね。利益出さなくていい、と会社として認めないといけない。
あと、三年我慢するはずが、一年間赤字が続くと不安になったりします。やっぱり少しでも黒字にしてくれよな、とか言い出したりする。そうすると、目先のちょっとだけ利益出せることに走っちゃって、本来とちがうことにどんどんなっていく。そんなこともよくある。
我慢です!三年間我慢しつづける。

3:トライアル部門を中枢に置く
日本テレビの話にまたなっちゃうんですが、メディアデザインセンターは編成局の中にあるそうです。これが画期的だと思った大きなポイントでした。
いまやテレビ局にはほぼすべてデジタル部門があります。でもなんだか、はじっこなんですね。はじっこで、変な人たちがやってる感じ。あるいは、それなりの規模で運営しているところがあっても、“編成”とは別。つまり、あくまで“放送外収入”のためであり、放送とは別のことで新たな収益をつくりましょう、という姿勢。
もちろんそれもありですが、いわゆるコアコンピタンスを軸に考えると、放送の価値を高める、放送の価値を新たにつくる、べきなのです。そのためには、中枢と“別”に置かない方がいい。本業の新たな価値づけこそがイノベーションなのではないかと。まったく別の新事業なら、テレビ局じゃなくてもできるわけですからね。テレビ局こそができる新たな事業とは、テレビそのものの構造改革のはずなんです。
だから、傍流扱いをせず、中枢に置く。テレビ局でいうと編成とか、制作とか、そういうセクションにできるだけ近い位置に新部門を置くべきでしょう。でなければいっそ、社長直属もありだと思います。

4:中途入社組をそれなりの立場で加える
ぼくはフリーが長かったのでその経験から言いますと。メディア関係に限らず同じ会社にずっといる人たちって、驚くほど“共通化”されています。外から見るとびっくりするような企業文化や習慣、考え方を何の問題も感じずに持ち続けていたりします。えー?!どうしてそんな面倒くさいやり方するんですか?ということを、プロパーな人たち同士だと、もう慣れてるから面倒じゃないし、やり方変える方が面倒くさい、と言いがちです。客観的に見れば奇妙だったり手間がかかったりすることを、何十年も日々やっているとその不合理が見えなくなるのです。
いままでやってきたことを継続するならそれでいいのでしょう。でも何らかイノベーションを考えるのなら、新しいことを起こしていくなら、“共通化”は考え方を偏らせていることになります。
新しい“血”を入れた方がいい。それは新しい“知”になるはずです。
“それなりの立場で”というのも重要で、よそからの人をぺーぺー扱いで加えてもプロパー組に負けちゃいます。テレビってもっとこういうことじゃダメなんですか?と異論を言っても、君はテレビのことわかってないよねー、とあっさり無視されてしまうでしょう。それなりの発言権を持たせてあげて外からの人材を加えることがポイントだと思います。

5:自分が面白いと思うことを優先する
結局、ここがいちばん大事だと思います。新部門や、イノベーションを任されると、何がお金になるんでしょう、と考えがちです。それは、正解を見つけよう見つけようとしてしまうことです。でも正解が最初からわかっていれば、イノベーションなんか簡単ですよね。
何がお金になるかを“先に”考えない方がいいと思います。それよりも、自分にとって面白いことを優先させた方がいい。へー!こんな面白いもんがあるんだ!それを“先に”置いた方がいい。その次に、じゃあこれは何かになるのかなあ、放送と結びつけたらどんな可能性があるんだろう、という順番で考える。
面白ければそれが即新事業になるわけでもないでしょう。でも面白くなければ何にもならない。その面白さは、自分にとってでいいし、そうあるべきです。自分はちっとも面白くはないけど、これが伸びてると聞いたので、なんてことで取り組んでもダメだと思います。自分自身が面白いと感じていること。そこには何かがあるはずなのです。そこを大事にするべきです。

と、いろいろ挙げてみましたが、くどいですけど最後の“面白がる”がいちばん大事だと思います。だって、テレビ業界に入った人は、テレビに関わりたいという前に、何か面白いことやりたくて入ったんですよね。ほんとうは、テレビはどうでもいいんですよ。何が面白いかが大事で、面白がってる気持ちが大事なのだと思います。面白がっていられれば、面白がれる対象があれば、そこには何かがある。価値が生まれる。そういうものだと思いますから。ほら、そこにも、面白いこと、転がってるじゃありませんか・・・。

 

境 治 プロフィール
フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、なぜか映像製作会社ロボット経営企画室長となり、いまは広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
ツイッターアカウント:@sakaiosamu
メールアドレス:sakaiosamu62@gmail.com

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