あやぶろ/OLD

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201212/4

12・4【テレビをつくることは、テレビをこわすことなんだ】境 治

少し前の話になっちゃいますが、11月22日にイベントをやりました。ここでも時々ふれたと思いますが、ぼくはソーシャルテレビ推進会議というクローズドな勉強会を運営してまして、4月からはじめて半年経ったので、誰でものぞいてもらえるオープンなセミナーを開催したのです。その様子は、Ustream配信したものがアーカイブ化されているのでよかったらご覧ください。自分で言うのもなんですが、かなり充実しています。ここでも時々書いている山脇さんも「大炎上生テレビ」のプロデューサーとして出演してくれています。山脇さんのエンタテイナーぶりを楽しむだけでも観る価値があります。自虐ギャグなんでTBSの諸先輩方は怒らないでくださいね。

その第3部は、ぼくがモデレーター役で山脇さんと、NHKの河瀬大作さんというプロデューサーもお呼びしてのパネルディスカッションでした。河瀬さんは「探検バクモン」を担当しています。他にも「プロフェッショナル〜仕事の流儀」「仕事ハッケン伝」など、あやブロの読者なら気に入りそうな番組を作ってきています。でも22日は「おやすみ日本」のプロデューサーとして出演してもらいました。
「大炎上生テレビ」はこのあやブロでも何度か登場しているのでご存知と思いますが、「おやすみ日本」については少し説明しておきます。最初は今年の1月9日の深夜に放送されました。宮藤官九郎さんが司会役で、スタジオにベッドが置かれている中、みんなで眠くなろう、という趣旨です。眠くなったらリモコンの青いボタンを押します。この番組では「眠いいね!ボタン」と呼ばれます。「眠いいね!ボタン」を押すと、テレビから「眠いいね!」という声が聞こえます。そしてスタジオに置いてあるカウンターの数が増えていきます。このカウンターがいくつかになったら番組はおしまいね、と宣言されます。いくつでおしまいにするかは、あらかじめ決まってはいません。番組が進む中で様子を見て「じゃあ30万眠いいね!で終わりにしよう」と決まっていくのです。
なんていい加減な番組でしょう!素敵です!素敵なくらい、いい加減です。ゆるすぎです。

そんな「おやすみ日本」の河瀬さんと、90分盛り上がりっぱなしの「大炎上生テレビ」の山脇さん。血圧の低ーい番組と、高血圧で血管切れそうな番組。いずれもソーシャルメディアを活用しています。好対照の2つの番組の制作者に来てもらえ、楽しいディスカッションになりました。「大炎上生テレビ」は企画そのものがソーシャル活用を目的としています。あるセミナーで山脇さんがバスキュールさんと出会って、彼らのノウハウを生かして番組をやってみよう!と思い立ったそうです。

では、河瀬さんはどういう発想で「おやすみ日本」を企画したのか。ソーシャル活用が最初にあったわけではないそうです。テレビの文法を壊していくようなことができないか、というのが議論の出発点だったと。若いディレクターが「ソーシャル深夜便」という企画を持ってきた。「ラジオ深夜便」というのが昔ありました。そんな匂いのテレビ番組をソーシャル使って、ということでしょう。深夜ねえ。眠くなったら番組終了、ってのできないか。終了時間を決めずに番組やってみたいと編成に言ってみたらなんと「いいじゃない!」と言ってもらえたそうです。そこから「眠い」をカウントしよう。それは「眠いいね!」ボタンだ!などと考えていったそうです。
そうやってお二人の話を聞いていくと、血圧はちがうけど根っこは同じだとわかってきました。テレビの文法を壊す。そこに新しい番組づくりが見いだせないか。突破口があるんじゃないか。そしてテレビの文法を壊す重要な武器のひとつがソーシャルなのだと、そういうことのようです。「おやすみ日本」のタネは「ラジオ深夜便」だったと書きましたが、「大炎上生テレビ」を議論する中でも“ラジオみたいにやりたいね”という意見が出てきたそうです。そこも似ているし、不思議です。テレビの文法を壊そうと考えていくとラジオが出てくる。昔の深夜ラジオには、メディアの枠を壊す勢いが、あったということでしょうか。メディアとしての“自由区“だった、という記憶なのでしょう。壊そうとする時に、自由で解放された象徴として浮上するのだと思います。

パネルディスカッションでお二人の話を司会進行しながら、あれー?こういう話、最近別の人から聞いたなあ、とデジャビュ的なものがよぎりました。終わってから考えてみたら、ああそうか!と気づきました。ぼくは最近、頼まれ仕事でインタビューをしています。まだ詳しくは言えないのだと思うので簡単に言うと、テレビの歴史をつくってきた先輩たちへのインタビューです。たくさんの方々に聞くので、数名で手分けしていて、ぼくは90年代にテレビの最高潮の時代をつくった方々を担当しました。
その先輩たちのお話と、山脇さん河瀬さんの“テレビの文法を壊す”ことは、すごく近い話だと気づいたのでした。それぞれが、それぞれなりに、テレビの既存のコードに挑んできたのです。いままでこういう風に作るのが常識だったのを、こう変えていった。上の世代がやってきた手法を一度忘れてこうやってみた。そんな挑戦が非常にうまくいって大ヒット番組が生まれたり、何年も続く長寿番組に育ったりしたのです。
テレビは、これまでも、何度も何度も壊されてきたのです。壊されて新たに創造されて、また壊される。そうやってメディアとして突き進んできたのでしょう。もちろん、どのジャンルでも、映画でも小説でも音楽でも、同様に壊しては生まれ生まれては壊しを繰り返してきたのだと思います。

もうひとつ、先輩たちのお話の中には共通点がありました。みなさんそれぞれ、テレビはライブ、だとか、テレビには運動神経が必要、だとか、つまりテレビは常に動いている生き物でなくてはならない、というようなことをおっしゃるのです。
山脇さん河瀬さんがテレビの自由を獲得しようとした時、生放送の番組に、視聴者との双方向性をリアルタイムで生かした。そのことと、先輩たちのライブだ運動神経だとの発言は似ていると思ったのです。テレビは生き生きと、ぴちぴちとしていなくてはならない。そういうことではないでしょうか。

なるほどね、昔と同じように今もテレビが破壊的創造を続けてきたんだね、いい話だね、テレビ離れとか言われてるけど、今後も大丈夫だね!・・・と安心している場合ではないですね。昔と今とでは状況が違う。
昔は、先輩たちが挑戦すればするほどテレビはビジネスとしても成長できた。でも今はちょっと違う。いやまったく違う。今の山脇さんや河瀬さんの挑戦は、成長するためではなく、どうやって生き残るかなのでしょう。そこは決定的にちがうと言えばちがうのだと思います。
残念なことにテレビが生活の中で占める割合はどうあがいても少しずつ減っている。それに合わせてテレビに流れてくる広告費も減っていく。その流れにはあらがえないようです。
だからテレビは今、自らのビジネスモデルも新たに創造しないといけない。ここで書いている話の流れにのっかると、ビジネスモデルも一度壊さないといけないのかもしれません。ビジネスモデルを壊すのは大げさかもしれませんが、見直す必要があるのはまちがいないでしょう。
テレビのビジネスモデルとは、ようするに視聴率という指標をもとに広告枠を売る、というものです。実にシンプルでわかりやすい。シンプルだからこそこうして成長できたのでしょうけど、シンプルだからこそ視聴率に陰りが出るととたんに巨額のお金が指の隙間から滑り落ちていきます。

これを見直すというのは、シンプルに考えれば2点です。ひとつは、視聴率だけでいいの?もうひとつは、広告枠ってどうなの?考えていけばきっと、何らかの仮説は立てられると思います。仮説ができれば、それに沿っていくつもの試行錯誤をするのです。
そうやって、ビジネス面でもつくりだすことと、こわすことと、これからやってみればいい。そう信じて、今までとは違う夜明けの空を想像しながら、トライ&エラーをやっていく。こわしてつくって、つくってはこわす。その繰り返しが未来を生み出していくのですから。

 

境 治 プロフィール
フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、なぜか映像製作会社ロボット経営企画室長となり、いまは広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
ツイッターアカウント:@sakaiosamu
メールアドレス:sakaiosamu62@gmail.com

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