あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

201210/18

● 日本テレビが本気でメディア・イノベーションに乗り出した!(氏家夏彦)

日本テレビが16日に開いた「JoinTVカンファレンス」が、かなり衝撃的だった。「ソーシャルとテレビの明日を語る」というサブタイトルのこのカンファレンスに関する、あやとりブログ仲間の境さんや山脇さんの記事を読んでいて、先日、私の大学時代の友人がWeb上で発表した「いよいよ後がない日本の製造業、大企業」というポストを思い出した。そこには次の時代へどう進化していけばいいのかわからず行き詰まっているテレビ業界にとっても、非常に参考になる言葉がちりばめられている。

今回のエントリーは、皆さんのポストを紹介させていただきながら、テレビ局の将来や企業経営について考えてみる。

このカンファレンスでは、日本テレビがソーシャルメディアとどう取り組んでいくかを発表し、FacebookやTwitterなど代表的なソーシャルネットワークサービス企業の方々がテレビとの関わり方をプレゼンしたのだ。私は現場には行けなかったが、ネットの生中継を拝見した。
このカンファレンスについては“あやとりブログ”執筆者の境治さんが、自身のブログ『クリエイティブビジネス論』で「日本テレビという名のベンチャー企業〜JoinTVカンファレンスに行ってみた〜」というタイトルで詳しく書いている。
ネット中継ではイマイチ雰囲気がわからないので境さんのブログから引用させていただく。斜体の部分が引用です。

その冒頭で境さんは
「JoinTVがネット関連部署のゲリラ的実験ではなく、局として会社として本気で取り組むプロジェクトだとわかった」と、同じテレビに関わる他局の者にとって、思わず刮目するようなことを書いている。
そして会場の雰囲気について
「この空間のこの空気は、老舗テレビ局っぽくないぞ!ぜんぜん!どっちかというと、ネット系のベンチャー企業(ただし上場済みのある程度の規模の)みたいなんだわ、このにおいは!」
普段からオールドメディアなどと呼ばれているテレビ局にとっては、まことに羨ましい言い表し方をした上で、
「このイベントから、”企業が本気で取り組むイノベーション”というものを感じとった、ということだ。本気で会社を変えるなら、新部署をどすんとつくって、しかもそれは端っこに置かないで、中枢に近いところに置く。そして三年間ぐらいは成果を問わない。予算も過不足なくつけて使うことに四の五の言わない。日本テレビは編成局にメディアデザインセンターという部署を置き、ちゃんとイノベーションに取り組んでいるのだ。」

日テレはどうも次の時代の進化へ向け、大きく踏み出したようだ。もちろんTBSもフジテレビもテレ朝も、各番組ベースでは幾つかのソーシャルメディア連動などを実験的に行っているが、企業の経営判断として組織で動き出したのは日テレが初めてだ。

日テレのこのカンファレンスについてはTBSの山脇伸介さんも、FacebookのTBS関連グループ内(非公開)で、
「来る「ソーシャルメディア+スマートフォン」の時代を見据え果敢に取り組み、先行者利益を独り占めにしようという意欲の高い発表会であった。事実、SNS各社とバスキュール社を組織ぐるみで囲い込むという戦略は、会場でNHK担当者が「このままでは、竹槍とブルドーザーの戦いになりかねない」と危機感を露わにする程の衝撃であった。」(下線部は山脇氏の指摘)
と述べている。NHKは、今の日本のテレビ局の中で最もソーシャルメディアに積極的だとみられているが、そのNHKの方がこのような感想をされているのにむしろ驚き、日テレの企業としての本気さと、このままでは取り残されるという焦燥感をより強く感じた。

 

そして冒頭で紹介した私の友人、赤羽雄二氏のを思い出した訳だ。
赤羽氏は、私が大学時代に所属していたアメリカンフットボール部の同期(彼はキャプテン、私は練習をサボる不良部員だったが)だった。
彼が現代ビジネスというサイトに今月初めアップしたポスト、「いよいよ後がない日本の製造業、大企業」は「現代ビジネス」は、「日本がかなり危ない。」という書き出しで始まり、日本の製造業を中心とした大企業がいかに深刻な局面にあるのか、その原因、解決方法を、歯に衣着せぬ表現で書いている。厳しい表現での指摘は、彼の感じている危機感の強さの現れでもあり、私の心に響くものがあった。これを紹介させていただく。

赤羽氏は東大工学部を卒業、小松製作所に入社しスタンフォード大学に留学。その後、マッキンゼーに入社し1990年から10年半にわたり韓国企業、特に財閥の経営指導に携わるとともに、マッキンゼーソウルオフィスをゼロから立ち上げ120名強に成長させた。2000年にシリコンバレーのベンチャーキャピタルに移り、2年後独立、現在のブレークスルーパートナーズを共同創業し、日本発の世界的ベンチャーを1社でも多く生み出すことを使命として活躍中だ。

以下の斜体の引用の中で下線を引いた部分は、今のテレビ業界の問題としても共有できると私が思ったところだ。

赤羽氏は冒頭で、
「日本企業、特に製造業を中心とした大企業への危機感が非常に強くなった」「日本の危機がいよいよ迫っている」とした上で
「こういった大企業、つまり、かつて栄光に輝いていた企業の内部の方々と話すにつけ、それらの組織の自己改善力の乏しさ、経営力のなさ、組織効率の悪さに呆然とする」と事態の深刻さを強調する。

そして輝いていた日本の大企業が競争力を失った原因を分析している。
まず企画や事業計画について

長年の成功体験にあぐらをかいて、思い切った方向転換を躊躇した・・・」

と指摘している。
この辺りは、誕生して半世紀もの間、マスメディアの王者として発展してきたものの、この10年間の環境の激変に戸惑うばかりのテレビ業界に、まさに当てはまるのではないだろうか。

次にスピード感の欠如として
「関係者間の根回しを行い、社内稟議を上げ、差し戻しを受け、再度検討し、また稟議を上げ、やっと副社長に具申できたと思ったら、「考えておこう」と言われ、塩漬けにされる—。そういったことが日本の大企業では日常茶飯事ではないか」
と、サラリーマンなら誰しも一度は見聞きしたことがあるケースを明確に否定している。

そして経営者の本気度の問題として、今の経営者たちが
「多くの場合、サラリーマンとして、人生の大半を落ち度なく大過なく過ごしてきた結果、組織のトップまで生き残ることができた人材ばかりだ。
 組織の反対やノイズを押し切って構造改革、新事業立ち上げをやり遂げることのできる経営者は、今の日本の製造大企業において、数えるほどしかいないのではないか

テレビ業界は制度によって競合が制限され、圧倒的なリーチ力と存在感を持ち、そもそも構造改革や新事業立ち上げなど全く必要なかった。むしろ構造を変えないように腐心する事が経営の、というより業界としての重要なタスクだった。
ところが、ネットの発達で他のテレビ局以外に次々と競合が現れ、時間の奪い合いという視聴率競争とは別次元の競争が始まってしまった。

今のテレビ局の経営がこのような厳しい局面に相対するのは、生まれてこのかた全くの初体験なのだから、経営にこのような資質を求めても詮無いものではあるが、構造改革や新事業立ち上げに今、乗り出さないと生存競争を生き残れないのもまた確かだ。

赤羽氏はさらに
「組織の慣性が異質な事業を生み出す邪魔をする」例として
そんな利益率の低い事業をしてどうなるとか、お手並み拝見とか、新たなチャレンジに向けて頑張っている人の心を折る発言や行動
も問題だとしている。
確かにテレビ局のWeb系事業は、事業規模で二桁くらいテレビ本体よりも小さい。そんな小さい額の売上げのために大切な地上波放送のスポンサーを怒らせる訳にはいかない・・・という社内抵抗をどうかい潜るかがデジタル系部門の腕の見せ所という、情けない時代もほんの数年前まであったのは事実だ。

そして赤羽氏は「大企業の経営者の資質」について厳しく述べている。
「経営者の視点で、部下に徹底的に要求し、議論をふっかけ、最善手を打っているのかどうかを追及し続けることがトップの責任」
であるとし、日本的企業の習慣としてありがちな問題を紹介、

「日本では「うちの社長に関わらせたら大変だ、逆にだめになってしまう」という、「気のきいた」経営企画室長の気配りが、大企業社長を裸の王様に育ててきたのではないだろうか。しかし、社長が傷つかないように守られている会社は、たぶん永遠に変わらない。この時代、変わらないことが安全ではなく、変わらないことが大きなリスクなのだ。そこを社長たちはどこまで認識しているか。」と厳しく問いかけている。

ほんの数年前まで、テレビ業界は、まさに赤羽氏が言うように「変わらないことが安全」だった。
しかしインターネットが普及しソーシャルメディアが社会の構造に深くビルトインされようとしている今、テレビ「放送局」でいることはかつてと比べると大きなアドバンテージではなくなっている。継続する現象ではないかもしれないが、「テレビ局」でいることによってむしろユーザー(=視聴者)からはマイナスに見られるという、まさに想定外の現象も起きている(参考;山脇氏のポスト)

テレビは今、生き残りのために急激に進化する事が必要となっている。まさに、“変わらないことがリスク”なのだ。それを社長(経営陣たち)はどこまで認識しているのか。
赤羽氏が日本の製造業大企業に突きつけた厳しい問いは、そのままテレビ業界にあてはまる。

 赤羽氏は、以上のように幾つもの厳しい指摘をした上で、経営者の意識が変われば苦境に陥っている大企業でも再生できるとし、次のように書いている。

「企業の経営は、経営者に大きく依存する。経営者の意識が変わり、果敢に立ち上がって、決めるべきことを決め、取るべき責任を取り、官僚的な組織を壊し、旗を振るようになれば、実は大企業もかなりのスピードで変わる。並行して実施すべきことは多岐にわたり、大変ではあるが、結構変わるものだ。
変わり始めた時の日本企業は強い。一致団結した、屈強の戦士集団となる。」

 

今回の日テレが実施したカンファレンスは、日本テレビ放送網株式会社が赤羽氏の言う“変わり始めた日本企業”に、メタモルフォーゼした事の現れなのではないか。

さぁ、取り残された他の民放はどうする?民放よりずっと先行しているNHKの方ですら、「このままでは竹槍とブルドーザーの戦い」とショックを受けたこの事態にどう対処するのか、まさに経営の資質が問われている。

 

 

氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。最近はテレビ業界の外の人たちとの人脈が増えています。
フルマラソンでサブ4を続けるのが目標(今年は断念)。週末は江ノ島の海でセーリングしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る