あやぶろ/OLD

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201310/31

テレビ視聴は個人化するのか

失われた「つながり」を求めて

 

もう一つの出来事に目を向けてみたい。

 

音楽の世界では、インターネットのオンライン配信を楽しむようになった人々が、手のひらに再生機を乗せてイヤーフォンやヘッドフォンで楽曲を聞くようになった。音楽視聴の「個人化」であり、CDの売上額が激減していった。
しかし、しばらくすると、コンサート会場やライブ演奏に人が足を運ぶようになった。
まるで、お茶の間や学校職場で希薄化した音楽に関するコミュニケーションを埋めるように、最近ではライブが盛況になってきている。そして2012年にCD生産数は下げ止まった。

 

人々は、ある程度まで「個人化」を楽しむが、疎外を恐れるがゆえに直接的なコミュニケーションに回帰する行動がでてきたと言えるのではないか。

稲井1(CD生産数量の推移:日本レコード協会ホームページより)

 

確かにテレビ視聴もある程度までは、「個人化」の潮流に押し流されていくだろう。
放送番組の進行に合わせてコンテンツ内容が同期する「マルチスクリーン」技術を使えば、スマホ上に表示されるCMも個人化していくかもしれない。
しかし私たちの家庭がいくら核家族化したといっても、家庭という個人に次ぐ社会の基本単位がなくならない限り、テレビの本質は基本的に「世帯財」であり続けるはずだ。

 

だからテレビ番組・広告の視聴スタイルがまったくの「個人化」、パーソナライズしていくというのは人間の本質からいって、大いなる幻想であるというべきだろう。
そして「世帯財」としてのテレビを支え続けるのが、時間軸に沿った受動視聴の心地よさであり、伝送の安定性であり、画像の高画質化および大画面化という一連の技術的方向性なのである。
これらの諸要素が、今谷さんのいう「テレビは習慣性が命」の裏づけとなる。
それを予見できる、もう一つのデータがある。

 

 

 

スマホの普及率から見えること

 

現在、日本のスマートフォン普及率は25~30%ぐらいだ。
Googleの調査では、2013年第一四半期における日本のスマホ普及率は25%だった。
日経BPが8月に行ったオンライン調査でも推定28.2%だった。
読売新聞が9月に行った調査でも、スマホを使っている人は全体の約30%だ。

 

読売の調査では、スマホを使う人のうち1/3は通話のみか、通話以外の用途に30分未満しか使わない人だった。30分未満の使用ならSNSや動画視聴、オンラインゲームはおそらくやらない。逆に言えばスマホをSNS・動画視聴・オンラインゲームなどに使う人は全体の20%程度しかいないことになる。
このうち1時間近くかかるテレビドラマなどの動画を視聴する人は、多くても数分の一だろう。現状、せいぜい全体の5%前後ではないのか。

 

~これだけスマホが普及しているのだから、違法アプリも含めてみんなスマホでテレビ番組視聴を気軽にやるようになるだろう~

 

こうした見方が流布しているが、実際、視聴スタイルの「個人化」を受容する人たちは、現時点では市場の多数派になっていないのである。
かりに将来スマホ普及率が7割を超えるようになっても、テレビ視聴の「個人化」に突き進む人はマジョリティにはならないだろう。
メディアでコンテンツや番組(作品)を楽しむ本質は人間の社会的行為であり、機器や通信回線のスペックはあくまで、その従属物だ。
それが空想世界の3Dや4K映像のファンタジーゲームであっても、コンテンツ内容が人間社会を構成する営みに根ざしたものであることに変わりはない。

 

ましてや、テレビでは画面の中で、絶えず外部世界とのつながりが映し出されている。
コンテンツや番組、広告と接触するときに「個人化」という一点に収斂していくことは、スマホの普及率が更に上がる未来においても、おそらくないだろう。
人間が人間である限り。

 

 

 

稲井英一郎(いない えいいちろう) プロフィール
TBS入社後、報道局の取材記者として様々な省庁・政党を担当。ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。その後はIR部門で投資家との交渉にあたったほか、グループ会社でインターネット系新規事業の立ち上げに奔走。
趣味は自転車・ギター・ヨット、浮世絵など日本文化研究。新しいメディア経営のあり方模索中。

 

 

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