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201110/27

ソーシャルパワーはTV視聴のカタリスト? - 稲井英一郎

あやブロで話題になっていたので、映画「モテキ」を前川さん同様に、何の予備知識も持たずに観てしまった。

「観てしまった」というのは、本編が始まってすぐ「直截的」なセリフがぽんぽん飛び出し始める展開に、「えっ!この手の内容だったの?」と少したじろいだからだ。中年おやじ風な観客は私だけだったので周囲の眼がすこし気になったが、ジタバタしても始まらないし、何よりお金がもったいないので最後まで「モテキ」流の歌と踊り、会話を存分に観賞することにした。

この稿で映画「モテキ」(注1)に触れるのは、文化的考察をするためではありません(そんな知識もないが・・・)。映画によってナタリーという固有名詞が脳みそにしっかり叩き込まれたためだ。

「あれれ~?ナタリーってどこかで視たか聴いた気が・・・?」
映画を観終わったあと、少し時間が経ってから頭の端っこに沈んでいた記憶が、浮上してきた。そうだ。「USTREAMで観たばかりの名前だ・・・」と

10月14日(金)の午後8時のこと。
USTREAM上では、BONNIE PINKの「ほろよい Presents宅フェス♪スペシャルライブ」の生配信で大いに盛り上がっていた。
一見してサントリー自身が新商品チューハイ「ほろよい」の宣伝を、ネットを使って仕掛けるため実行したイベントのように見えるのだが、プロモートを担当したのは「ナタリーTV」だ。それを思い出したのだ。
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「ナタリー」というポップカルチャー(というよりサブカルチャー?)のニュースサイトが実在することは、お恥ずかしい話、まったく知らなかった。しかし映画の中だけの存在と勝手に誤解していた「ナタリー」が実はリアルな存在として身近に登場し、そのリアル「ナタリー」がサントリーの意向を受けてUSTREAMを効果的に活用していた、ということを知ったのだ。

ナタリーは番組配信の事前告知を前日までに十分にしたうえに、当日配信前からツィッターやフェイスブックやらのSNSを効果的に活用した集客を心がけた。その結果ライブが始まるとアクセスはぐんぐん増えたようで、終盤では2000人を超える人が同時視聴し、配信中にのべ15000人以上が宅フェスを観賞したのだ。武道館における満員の観客にも匹敵するか、それ以上の集客力である。コストまで比較考慮すると、はるかに勝る抜群のコスパだろう。
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そう、USTREAMの強みは、画面横にある「ソーシャル・ストリーム」と呼ぶSNSとの強い連携を果たす投稿欄なくして語れない。

たとえば私たちが運営するUSTREAM STUDIO+ Akasaka plusで10月から始めたレギュラー配信番組「みわちゃんねる 突撃!永田町」では、初回ゲストとして、菅内閣不信任決議案に民主党ながら賛成に回って話題となった松木けんこう衆議院議員にご登場いただいた。一般ユーザーの関心を引きにくい政治ネタながら、さらに初回にもかかわらず、およそ40分間の配信中に常時80~100人の方が視聴し、番組終盤での合計視聴者は十数倍に膨れ上がって1600人以上に上ったのだった。

これは事前の告知に加えて、おそらく松木事務所が手際よく後援会組織に配信予定を周知されたからだと思うが、それにしても、ストリーミングが増えるとソーシャル・ストリームの投稿増加と相まって視聴者数がぐんぐん増えていくというパターンは、ナタリーTVの宅フェスと同じ構図である。

USTREAMのストリーミングにおいては事前のティザーなどによる告知に加えて、配信予定時刻より30分ほど前から、何らかの音声、映像、文字情報を流し始め、「おっ、何だか面白そうなことが始まりそう!?」と関心をもたせることが重要かつ鍵となる。
ティザーとは意図的に断片的な情報しか流さずにユーザーをじらす(tease)一種の覆面広告といえる手法だが、そのティザーに有効なのがSNS。

USTREAMが提携しているSNSはtwitter、facebook、myspace、mixiなどだが、元々SNSは外部接続性が高い。その機能を活用して配信前にSNSに「間もなく××です!」などと番組の一部内容も交えて事前投稿し、配信URLを入れて流す情報は一種のティザーとなる。
それがSNSのなかで形成されている人間関係、しかも似た価値観や趣味を共有しているグループのネットワークに沿って拡散されていく。ツィッターならフォロワーに、フェイスブックなら友達、さらに友達の友達に情報が伝播され、時に大きな集客力の束となって鮭の遡上のように、ソーシャル・ストリームに戻ってくる。

ストリーミングが始まっても一層の効果が期待できる。番組を観ていた視聴者がタイムリーな感想などをソーシャルに書き込めば、それが別の新たな関心を喚起する。こんな好循環が起こればリアルタイムのイベントにおいては「番組終了時が集客のピークになる」(USTREAM Asia)というから、むしろ番組が始まってからが勝負ともいえる。ソーラーパワーならぬ、ソーシャルパワーである。

このソーシャルパワーを追い風として使いこなせば、ネットの生放送は従来型のテレビ番組にとっても、潜在的視聴者を獲得するカタリスト(触媒)となりうる。
権利許諾が比較的とりやすい制作の裏話や楽屋ネタ、演出意図、メイキング映像などを一部入れた動画をつくり、USTREAM配信そのものを地上波へのティザーとして活用する。これによってテレビに冷ややかな視線を向けがちだったネット居住圏の人々のもとへ、それまで共有されにくかった番組の魅力をストリーミングする(流し込む)ことができるかも知れない。

そして、私たちが運営するUSTREAMスタジオには+というプラス記号がつけられている。これは、USTREAM Asia公認のもとで商品の宣伝や販促など商用利用ができるビジネス上のステータスを意味しているのだが、それはすなわち従来型メディアにとって、新しい顧客を発見して獲得するカタリストにもなる可能性も意味しているのである。

(注1)「モテキ」には映画のほか、久保ミツロウ氏原作の漫画にCGによる動きと声優のセリフ、BGMをつけたBEETV版ムービングコミック「モテキ」(c久保ミツロウ/講談社/BeeTV)もあります。これって実は「制作 東通」なんです。

稲井英一郎(いない えいいちろう)
1982年TBS入社。報道局の社会部および政治部で取材記者として様々な省庁・政党を担当、ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。
2003年からIR部門で国内外の株主・投資ファンド・アナリスト担当
2008年から赤坂サカスの不動産事業担当
2010年より東通に業務出向。
趣味は自転車・ギター・ヨット(1級船舶免許所有)、浮世絵など日本文化研究。
新しいメディア・コンテンツ産業のあり方模索中。

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