あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

20139/26

「半沢直樹」を見終わって思うこと

半沢は内部統制を先取りしている

 

では、あの結末とどう折り合っていけばいいのだろう。これから先は個人的な意見なので、納得するかどうかはあなたの自由だ。

 

原作者の池井戸さんが銀行を勤めておられた時代には、内部統制システムを企業経営にビルトインする制度や考え方はまだなかっただろう。
しかし、いわゆるJ-SOX法が日本で整備導入されてから5~6年が経った。
内部統制の重要性や、実務に疎い企業幹部やサラリーマンがまだ圧倒的に多いのが実態であろうが、今の企業経営は、企業活動にリスクはつき物であり絶対にリスクフリーにならないと認めるところから出発している。

 

だから不正やエラーを早期に発見し、リスクを許容できるレベルにまで軽減してコントロールしていくという発想が企業活動にとっては極めて重要になる。
その意味で、池井戸さんが内部統制の仕組みがない時代の企業の物語を書いていく際に、半沢や近藤という登場人物に内部統制や不正検査の役目を担わせて、時代を先取りしたところが実に鋭い着眼点だと思う。

 

原作やドラマの中で半沢たちは、これでいくら儲かった、利益を上げた、というような話はしない。
彼らは少々荒っぽいやり口だが、不正が行われた兆候に気づき、怪しい対象者の言動の矛盾に気づく。証言を求めて走り、証憑を突合させ帳簿の偽造を発見し、証拠を固めて不正行為者を追い込んでいく。これこそ不正追及の王道であり、物語の本線だ。
だから取締役会の場面は、その本線を盛り上げるための、最後の、そして最高の演出効果を生みだしている。半沢と大和田のために特別に用意された「見せ場」なのである。

 

だから、実際の世界はどうたらこうたら、と考えるのは意味があることではあるが、そんなことを知っていなくても、ドラマ“半沢劇場”は本線のところでリアリティ性を十分にもちつつ、取締役会での歌舞伎のような劇的要素の濃い演出と演技によって、エンタメとして傑作に仕上がったのだ。
歌舞伎なら大向こうから、「よっ、堺屋!」「澤瀉屋(おもだかや)!」とかけ声がかかるところだ。

 

悪玉の不正を暴くクライマックスでちょっとやりすぎた感のある半沢は、次の物語である「ロスジェネの逆襲」に活躍の舞台を移さないと第二幕が開かないから、出向は物語の必然だろう。
そう考えていくと、熱心なファンであるあなたが感じたちょっとした不満は消えていき、元気玉をもらって再びワクワクしてこないだろうか?
続編が何とも待ち遠しいものである。

 

 

稲井英一郎(いない えいいちろう) プロフィール
TBS入社後、報道局の取材記者として様々な省庁・政党を担当。ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。その後はIR部門で投資家との交渉にあたったほか、グループ会社でインターネット系新規事業の立ち上げに奔走。
趣味は自転車・ギター・ヨット、浮世絵など日本文化研究。新しいメディア経営のあり方模索中。

 

 

半沢ロゴ シンプル

 

 

[amazon_image id=”4167728028″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]オレたちバブル入行組 (文春文庫)[/amazon_image]  [amazon_image id=”4167728044″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]オレたち花のバブル組 (文春文庫)[/amazon_image]   [amazon_image id=”4478020507″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]ロスジェネの逆襲[/amazon_image]

ページ:
1 2

3

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る