テレビの未来⑦:テレビ局はメディア・サービス企業へ進化する・後編
しかしテクノロジー革命によって、テレビを取巻く環境は、内側も外側もないすべてが一つのフィールドに投げ込まれるという混沌としたものになってしまった。コンテンツを流通させる手段は放送だけではなくなり、インターネットを通じて動画を含む様々なコンテンツが利用できるようになってしまった。動画を楽しむデバイスもテレビだけではなくなってしまった。
環境がこれだけ激変してしまった以上、これまでの既得権益を囲い込むという考え方だけでは、新たな環境に適応できず、時代から取り残されてしまう。企業として“明るい”未来を実現するために、今、発想の大転換が迫られているのだ。
テレビの未来は現在の延長線上にはない。テレビがあと数年だけ続けばいいのならともかく、この先、5年、10年と生き残ってより発展するためは、オープンプラットフォームによる共創の概念を取り入れなくてはならない。テレビの外の人を巻き込んで、思いがけない視点、予想外の発想、全く異なる思考を取り入れ活用し、これまでにないサービスや番組を創造していかなければならない。
テレビの未来は、徐々に狭くなっていく放送という壁の内側にあるのではなく、その壁を越えた外側にいる多くのプレーヤーを巻き込んで、新たな付加価値をいかに共創していくかにかかっているのだ。進化の競争に生き残るのは適応力のある人間と組織だけだ。
■■■
おわりに
テレビを取巻く環境がいよいよ混沌としてきたこの時代に、「テレビ局はどこに向かってゆけば良いのか」という大テーマを考察するというまたとない機会を得た。私一人の力は小さなものだが、幸いなことにスタートして3年程がたつメディア論ブログの「あやとりブログ」がある。ここでは多彩な論客が、様々な切り口でメディア、テレビを語り、互いに刺激を与えながら議論をレベルアップしている。このブログで交わされた議論は、恐らくテレビについて書かれた多くの出版物や他のブログなどと比べても、引けを取らない高度なもので、これをベースにしたからこそ、今回のエントリーを書くことができた。
あやとりブログの執筆者の皆様には大変感謝している。
今回の『テレビの未来』は、5年後をイメージしている。人によってはかなり大胆な提言と思われるだろうが、5年前と比べ現在の変わり様の激しさ、また変化の加速度を考えると、このシリーズの中味は極めて現実的だ。項目によっては大掛かりな作業をすぐさま実行しなければ手遅れになるものもある。行動を起こすのは今だ。
もちろんここに書いた選択肢ではなく、冒険や実験は他局にまかせ、成功例だけを模倣するという判断もある。しかし先進的な局に追いつく間に、視聴者、ユーザー、株主からは見捨てられ、二度と立ち上がれなくなるだろう。株式会社として自力での成長・発展を捨てるような経営判断が許されるだろうか。
これまでテレビが歩んできた過去の延長線上には、明るい未来は存在しないのは明らかだ。今回の『テレビの未来』シリーズを執筆する中で、テレビは、メディアとしてもビジネスとしても今すぐに、一気に進化することを求められているのを痛切に実感した。しかも残り時間はもうない。
なお、このシリーズを書く上で、以下の書物を参考にしている。
- 「2012年度民放連研究所客員研究員会報告書」中の「スマートテレビの動向」(中村伊知哉氏)
- [amazon_link id=”414088410X” target=”_blank” ]「レイヤー化する世界」(佐々木俊尚氏)[/amazon_link]
- [amazon_link id=”4797373113″ target=”_blank” ]「プラットフォームブランディング」(川上慎市郎氏、山口義宏氏)[/amazon_link]
- [amazon_link id=”4799310690″ target=”_blank” ]「明日のメディア」(志村一隆氏)[/amazon_link]
- [amazon_link id=”4822225275″ target=”_blank” ]「ユーザーファースト」(友澤大輔氏)[/amazon_link]
- [amazon_link id=”4492762124″ target=”_blank” ]「5年後、メディアは稼げるか」(佐々木紀彦氏)[/amazon_link]
- [amazon_link id=”4861008522″ target=”_blank” ]「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING.」(マーク・スティックドーン、ヤコブ・シュナイダー)[/amazon_link]
氏家夏彦プロフィール
株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビの明るい未来を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ番組・ワイドショー・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。
Facebook、Twitter(natsu30)
コメント
ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより
リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…
この記事へのコメントはありません。