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20139/4

テレビの未来⑦:テレビ局はメディア・サービス企業へ進化する・後編

 

■テレビしか知らない人には、未来のテレビは作れない

 

人的リソースでも、これまでとは異なる人材が必要になる。テレビがサービスとなる時代では、テレビ番組のことしかわからないという人には、未来のテレビは作れない。未来のテレビを作るには、いくつものサービスを融合させ構築するサービスデザインが不可欠になる。
こうしたサービスデザインプロジェクトは戦略的かつ革新的な取り組みであり、様々な経歴を持ち、異なる専門分野をよく知ったバラエティーに富む人材でチームを作り、既成概念や固定観念にとらわれずに協力し合わなければならない。

 

その人材は、ドラマやバラエティー、スポーツ、情報、報道といった特定領域の深い専門性を持ちながら、さらにインターネットやデバイス、ソーシャルメディア、国内だけでなく米国のコンテンツ流通事情など複数領域の幅広い知識も兼ね備えている必要がある。組織としてそのような人材をどうやって確保していくのかが重要な課題だ。中で育てるのか、外部からリクルートするのか、外部の組織と組むのか、どのようなやり方でチームを編成するのか急いで検討する必要がある。

 

 

またビジネスの進め方についても、インターネット企業のやり方が参考になる。今のテレビ局は、「すぐにもうからないことはやらない」とか、「黒字になるのが見えることしかやらない」という考え方に固執する傾向がある。
しかしインターネット企業では、金儲けよりもまず、多くのユーザーに利用してもらうことを重視する。新たに開発したサービスに多くのユーザーを集め、それができてからマネタイズの方法を考えるというのがネット企業のやり方だ。
今の地上波テレビというビジネスモデルは、大変効率よく大きな売上を生み出せる。その規模と効率と比べれば、どんなインターネット・サービスも、スタート当初は見劣りがする。しかしマネタイズやビジネスモデルが最初から見えないからといって、新たなサービスを生み出さなければ、テレビは徐々に衰退する運命をたどるのは明らかだ。とりあえずは利益を考えず、多くのユーザーに楽しんでもらえるサービスを開発する実験を次々行うことが肝要だ。

 

各テレビ局は、テレビとソーシャルメディアの連動、つまりソーシャルテレビの実験的試みを様々行うようになっているが、未だに決定的なマネタイズの手段は見つかっていない。だからといって実験を止めてしまえば、その局はテレビの進化の競争から脱落することになる。実験は「儲かるかどうか」で価値を測るものではない。研究開発だと心得るべきだ。
テレビ局はメディアの王者という成功体験にとらわれず、挑戦者としての戦略を実践しなければならない。未知の分野に乗り出して行かなければならないチャレンジャー企業が研究開発費をケチったら、その企業の末路は見えている。

 

 

■オープンプラットフォームによる共創の思想

 

先のメタデータ・プラットフォームの項(『テレビの未来⑤』)で、「大切なのはオープンにすることによるテレビビジネス全体を活性化だ、多くの外部プレーヤーに参加してもらい、テレビだけでは想像もつかない新たな楽しみ方、遊び方、ビジネスモデルの開発を促す。こうしたオープンプラットフォームにの考え方こそ、衰弱しつつあるテレビメディア再生のカギとなる」と述べた。

 

ソフトウェアやIT業界の世界的ビジネストレンドは、自らのプラットフォーム・サービスを他の企業も使えるようにAPIを公開し、多くの外部プレーヤーに参加してもらい新たな付加価値を生み出す共創によって、共に儲け共に成長することでサービスを爆発的に普及させるというものだ。
AppleやTwitter、Facebook、Yahoo!などネット系の大企業はAPIを公開し、できるだけ多くの事業者とユーザーを集め共存共栄する方法を選び、成功している。

 

これからのテレビも、テレビ局だけが利益を得るクローズドなものではなく、多くの外部プレーヤーが参加できる環境を作り、参加したプレーヤーがテレビというサービスに新たな付加価値を勝手に付け加え、共に利益を享受するというオープンプラットフォームの考え方を導入しなければ、成長することはできない。

 

テレビが持つ圧倒的な集客力を、外部にも利用させるというこの新たなオープンプラットフォームの発想は、誕生以来60年間続けてきたテレビ局経営の思想とは正反対だ。テレビ局は放送免許という制約はあるものの、競合がわずか数社に限定されるという非常に恵まれた環境の中で、テレビ広告という極めて効率的で完成度の高いビジネスモデルによって大きな利益を享受してきた。
このビジネスモデルを少しでも毀損する状況をいかに排除していくかが、テレビ局の経営者の重要な責務だったし、既得権益を囲い込んで守るというのが、正しい経営判断だった。

 

 

 

 

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