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20138/28

マルチエンディング〜デジタル化で我々の手に戻った「物語」(志村一隆)

志村1

夏〜。人形町から日本橋方向を眺める

 

デジタル時代も弘法大師はリスペクトされるだろう

 

研究所のオタク後輩クニ中村が「この前話してたような動きがフジテレビで始まるみたいっすね」と興奮してる。
彼が紹介してくれたのは、フジテレビとYouTubeのコラボ「セブンティーンキラー」というドラマ。なにが新しいかというと、エンディングが18個も用意されている。
YouTubeでこのドラマを見てるときに、画面上に表示される箇所をクリックすると、そこからそれぞれ違うエンディングの動画が見られるらしい。こういう仕掛けを「マルチエンディング」と呼ぶ。
クニ曰く「ゲームはすでにマルチエンディングなものが増えてるんスよ」


この前、マックで奴と話したのは、ゲーミフィケーションの手法を取り入れ、シナリオをゲームや映像にマルチ展開する話だった。クリエイターは脚本を書くのではなく、「場」を作る構想力が大事なんだ的なことをブッていた。(参照:JBPressに書いた記事
「マルチエンディング」をもっとオープンにすれば、作者の「公式エンディング」の外に「勝手エンディング」の輪が丸く広がるかもしれない。(「ソーシャル・クリエイティブ」と呼ぼう。参照:丸と線
風立ちぬ」もそうだったら、面白いのに。。。
しかし、この「マルチエンディング」という手法、作家と受け手の関係性がフラットになってしまってることに気づく。
「風立ちぬ」で受け手は「作品を見て感想を書く」ことしか許されない。それは、「表現」の支持体(メディア)の限界もあるが、作家へのリスペクトが自然にそうさせるのだろう。受け手ではとてもマネできない「技」「感性」を見せられて感じる「スゴっ」っていう気持ち。
たとえば、ブルース・リーのこの動画。ヌンチャクで卓球って。。。絶対ムリっす。そういえば、こんなのもあった。ロナウジーニョがゴールポストとサッカーしてる動画。これもムリ。タイガー・ウッズのコレも。
そんなクリエイター(全部アスリートですが。。。)たちのスゴ技を見たときの「畏敬感」が、作品に踏み入ることを自然に留まらせるのだろう。
この「畏敬感」、アナログな人間技で無ければ、抱かないようである。「道具」がスゴいじゃダメなのだ。
「弘法筆を選ばず」じゃないとリスペクトの対象にならない。
この「スゴっ」「自分じゃムリ」ってくらいの「技」はとても人気ある。
アートの世界で最近とても細かく描き込んだ絵が人気あるのもそこにあるんじゃないか。「ここまで時間かけて、描けないよ〜」っていう「スゴっ」だ。
自分も実際、見入ってしまうけれど、反面、時間あれば誰でも出来るんじゃないの?って思ってしまう。それより、一筆描いたのになんか細かく描いたように見える技のほうがスゴいんでは。。とか。
しかし、一般的には一筆でグイっと書いたものは、「ただ、筆をパーっと動かしただけでしょ」的に見られがちだ。あんな太い筆あれば、誰でもできるゼ的な。
弘法大師が筆を選んで書いてるよ。みたいな。
実際、自分の水墨画のYouTubeチャンネルに「I like your brush」とコメントを貰うことがある。そのココロは、「君が絵を上手く描けるのは「技」じゃなくて「道具」がいいからだ」ってところ。(自分も同じ「筆」を持ってたら、同じに描けるゼっていう意味)
この「スゴっ」っていう評価基準はとても表面的だ。一般的な反応である。
それはともかく、「テレビ」も同じことを言われそうな部分があるんじゃないか。「同じ機材使えたら、同じ映像撮れるし」みたいに思われてたら。。。ホントは違うのに、そう見られちゃってたら、それ自体マズい。
なにしろスマートフォンで撮影も編集もできる。誰もが映像を撮る時代だ。
マンガでは、ドラえもんの最終回にこんなのある。絵を描く「技」のハードルはだいぶ前に下がっている。歌は「初音ミク」で人間不要になった。
そして、今度は映像分野の番である。
誰もが表現(もしくは記録)できる「道具」が手元にある。それが、表現者と受け手の関係をフラットにしてしまっている。

 

 

 

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