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20138/28

マルチエンディング〜デジタル化で我々の手に戻った「物語」(志村一隆)

複製と複層

 

もう一つ、この「マルチエンディング」で思い起こしたのは、稲井さんが常々主張しておられる「エディターシップ」について。参照:(捨てる力と伝える力
制約がいい表現を生む。メタモフォースな制作に「プロ」の源泉がある。
水墨画をやってると、その気持ちとてもよくわかる。
でも「マルチエンディング」や「ソーシャル・クリエイティブ」を考えると、なんで白黒なの?空白を残すの?なぜ「捨てる」必要あるの?と敢えて問い直してみたくなる。
捨てる「必要」があったのは、時間や材料、お金に制約があったからで、その制約がなくなれば、捨てないテンコモリ制作ってのもアリでは?と考えてしまうのである。
いや、自分はミニマリズムが好きなのだけど、なんで「捨てる」ことがこんなに良しとされ、「余分なものを捨て研ぎ澄まされた感性」的なもてはやされ方をするんだろうか?と。
水墨画を何枚も描いてると、余分な線を捨て、絵柄がどんどんシンプルになる。描き直しが出来ないっていう制約のおかげかもしれない。
でも、こういうときもある。何枚か描くうちに、「うん。これでいい」というのが見えてくる。まさに、紙から浮き上がってくる瞬間。
そこで、じゃあもう一回描いてみようってことで、そこから何枚か描くのだが、そうすると、甲乙つけ難いものが出来上がる。
どちらがいいか、最終的に結論づけるのだが、選ばれなかったほうがいいって言う人もいるだろうな〜、なんてことも思うのである。これは、制作段階のエディティングではないけれど。。
それで、なぜ1作品を選ぶのかっていうと、展示のスペースがもったいないとか、作品の希少性とか、なんか作品の本来の良し悪しとは関係ない理由だったりする。
「マルチエンディング」は、書いて「捨てない」手法である。むしろ、少しでも多くの物語を用意しなければならない。
「結末を何通りも作る」そんな「表現」方式が、いま普及してないのは、材料や財力のせいなのか、それとも、人間が本来求める作品のカタチとはそういうものなのか?どっちもアリなのか。
2年前に前川センパイとベンヤミンの「アウラ」について議論した。写真=複製芸術に1点ものの「アウラ」はあるのか?という問題提起だった。
このときは、「複製」がポイントだった。
「マルチエンディング」は「複層」である。
もし、作品は一つだけという理由が物理的な制約だとしたら、「クラウド」「ソーシャル」でその制限が外される一連の「デジタル」化は、新たな「表現」形式が生まれる要因になるのではないか。
つまり、90年代以降の「デジタル」化が「表現」に与えた大きな影響は何かと問われれば、それは「表現の複層化」と言えないか。
100年後の人間は、エンディングが多層に重なる「物語」を当然のものとして楽しんでるかもしれない。
しかし、よく考えたら、神話やら昔話は、地方によって少しずつ違うし、話す人によっても違うだろう。別な話をくっつけちゃうこともある。それが長い年月かけてコナれたものになってるんだろう。
「マルチエンディング」「ソーシャル・クリエイティブ」って別段特別なものじゃないのかも。
なんか「物語」を書いてビジネスにするなんてことは昔はなかったわけだし。誰もが語り、誰もが聞いていたのだ。作家と受け手はそもそもフラットな関係だったんじゃないか。
それ考えると、ますます結論が一つの作品ってのは、商業的、効率的な理由なんじゃないかって思えてきた。

 

志村2

暑すぎてバス亭で寝る人@人形町

 

 

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