●ドラマの魅力を倍返しする「平衡破却」(稲井英一郎)
助六のように啖呵をきる
そこまで理解していただければ、痛快な大人気ドラマの秘密の一端が分かるような気がしないだろうか?
いったいどこまでこの男は卑怯なのかという支店長によって罠に嵌められた半沢直樹は、五億円の不良融資が焦げついた責任を押しつけられ、第一話で早くも万事休すとなる。
しかし、もうだめだと思われた、本店融資部からの事情聴取において半沢は、冷静沈着な仮面を脱ぎ捨てて融資部の面々と記録係に、大声で啖呵を切る。
“さっきから都合のいいことばかり書いてんじゃねえぞ、キロク!
今から言うことを書きとめておけぇ!”
ドラマの終盤で毎回とびだす決めゼリフ、「やられたらやり返す。倍返しだ!」も啖呵だ。
まるで歌舞伎十八番に登場する「助六」(すけろく)や、ヒロインである遊女揚巻(あげまき)が相手に向かって啖呵を切るようであり、これぞまさに「平衡破却」の見せ場である。
助六は、江戸時代を通じ、もっとも「いき」を体現した理想像として描かれることが多い。男伊達で親孝行で女にもてる。財力・権力には悪態をつく啖呵をきる。
だから日本人に大受けする面白いドラマ、映画の主人公はどこか助六のように「いき」なところを持った人物であることが多い。
中央が助六、左端が揚巻
歌川国貞画「助六所縁江戸桜」(ウィキペディアより)
半沢だけではない。
「あまちゃん」は、母親である天野春子や祖母の夏ばっぱも、通常の枠からはみ出した人物として描写されていて、それぞれ二元的対立を内に抱える。
そうした登場人物たちの振る舞いには、常態を軽く崩す「平衡破却」が随所にあり、揚巻のように女伊達に啖呵をきることもある、とても「いき」な人たちなのだ。
この平衡破却の要素を、ドラマの物語の芯に滑りこませた脚本家のクドカンさんや八津弘幸さん(半沢直樹の脚本家)らはたいした手練れだ。もちろん、半沢直樹の原作者、池井戸潤さんも。
そして、視覚に訴える表現様式のメディアとしては最適なテレビドラマで、現代における「いき」を見せてくれる各局の制作スタッフたちが、これから、どれだけの「破却」で主人公に啖呵を切らせ、視聴者をきりきり舞いさせるのか。
今クールドラマは見所が多くて本当に楽しみだ。
稲井英一郎(いない えいいちろう) プロフィール
1982年TBS入社。報道局の社会部および政治部で取材記者として様々な省庁・政党を担当、ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。
2003年からIR部門で投資家との交渉にあたったほか赤坂サカスの不動産事業やグループ会社のインターネット系新規事業の立ち上げに関わる。
趣味は自転車・ギター・ヨット(1級船舶免許所有)、浮世絵など日本文化研究。
新しいメディア・コンテンツ産業のあり方模索中。
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