あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

●「大炎上TV」と志村さんへの反論(氏家夏彦)

「大炎上TV」

先週金曜の深夜、TBSで「大炎上TV」が放送された。

「見て楽しい!やって楽しい!“超アグレッシブ”な視聴者参加型番組が登場!!」と謳っているように、ただ見るだけの番組ではなく、スマホのアプリやTwitterなどで“参加”して楽しむ番組なので、私もスマートフォンとノートPCにデスクトップPCというほぼ万全の体制で臨んだ。どんな番組だったかは、山脇さんのポスト境さんのブログ・クリエイティブビジネス論の記事を参考してください。

実際の私の視聴は、番組からの質問(Yes or No)にスマホで答えたり、スタンプを押したり、ノートPCを使ってTwitterで呟いたり、デスクトップPCで同時にライブ配信されていたニコニコ生放送の番組を見たりと、実に慌ただしいものとなった。ここまでどっぷりとはまり込む視聴者はあまりいなかったとは思うが、自分がどんな事を感じていたのか、Twitterでの自分の呟きを抜き出してみる。

*  TBS大炎上TV すごく乱暴な番組だけど、新しい可能性を予感する。問題提起の仕方次第では、世の中に影響を与える仕組みが生まれつつあるのではないかな。

*  TBS大炎上TV さっきからテレビとデスクトップPCとノートPCとスマホを使い分けながら、テレビとフェイスブックとツイッターとニコ生を駆使して楽しんでいるのは、凄い!面白い!でも疲れるw

*  TBS大炎上TV スタジオのサブ(副調整室)の大混乱ぶりが目に浮かぶ。でも面白いから頑張れ!作り手側があたふたすればそれが番組の緊張感になってホンモノらしさがにじみ出てくる(※1)

*  TBS大炎上TV 視聴者(ユーザー)からのレスが賛成・反対しかないのは、もったいない。一人一人のツイートを反映させればいいのだけれど、番組構成上なかなか難しい部分もあり。

マスメディアとソーシャルメディアをうまく組み合わせるのは思ったより大変だということがわかったこともこの番組の一つの大きな成果。今のところ津田さんがここにいる意味がない。(※2)でも次に反映させればいいさ。失敗がなければ大成功は生まれない(※3)し、この番組は決して失敗じゃない。

*  TBS大炎上TV、 山脇 伸介さんをはじめ、関係者のみなさん、大変お疲れさまでした。とても乱暴で混乱していたところがよかったです!皮肉じゃなくて、これくらい勢いのあることを無理やり実行しないと、テレビの可能性はみつかりません(※4)。とにかく整然としたテレビじゃなく、本音や作り手側のあわてぶりをさらけ出すことが、今必要です。地上波テレビが半世紀もの間つちかってきた完成度の高さでなく、中の人の存在を感じさせる素の番組が、次のテレビへの可能性につながる(※5)と思います。次も期待してます。

 

あのドタバタの中でも、我ながら(笑)いくつかちゃんとポイントを押さえていると思う。

まず下線の(*2)
マスメディアとソーシャルメディアの特性の違いは、意外に手強かった。
この番組は、テレビのマスへのリーチとネット(ソーシャル)の双方向性とを本気で合体させようとしていた。山脇さんのポストにもあるように視聴者参加型歌番組「MAKE TV」(3/4 OA、河尻さんポスト参照)の経験も参考にして、“自分が番組に参加している感”を高める工夫としてスタンプを使っていた。しかもTwitter登録している人は自分のIDもスタンプと一緒に表示される心遣いを見せている。
しかし実際にやってみると、あまりのスタンプの数の多さで、自分のIDなどとても見分けられない。
となるとスマホを使った参加の方法は、番組からの質問、例えば「テレビに可能性を感じるか?」に対してYesかNoで答える方法だ。しかしこれは遊びでやるならOKだが、世論調査としてはもちろん参考程度にしか役に立たない。統計データとして必須のサンプルの属性が不明であり偏っていると想像されるだからだ。
そのためか、「自民党の安倍総裁を支持するか?」とか「脱原発を支持するか?」などの時事的な質問は意図的に避けていた。もし実際にやっていたら、少数派となった方々から強烈な抗議がきただろう。この辺りが公共の電波を使っているテレビ局にとって辛いところだ。
ちなみに、テレビに可能性を感じると答えたのは43%と少数派だった。しかしこの番組を見ていた人はネットを愛用している人がほとんどで、しかも深夜という時間帯を考えれば、テレビも捨てたもんじゃない、という結果だろう。
他の参加方法はTwitterやFacebookとなる。この番組では津田大介さんがTwitterのハッシュタグ「#炎上TV」に目を通して選んだツイートを紹介する役回りだったが、ツイート数が多すぎたせいか、番組の進行が早すぎたせいか、残念ながらほとんど活躍の場はなかった。
テレビの持つ圧倒的な到達力(リーチ力)と、個々のコミュニケーションの積算によるソーシャルメディアとを、どうやれば上手く融合させることができるのか、その難しさを改めて確認できた。同時に、次への手応えも感じられた番組だった。

次に下線の(*1)と(*5)
今回の番組は未経験のソーシャル連動を前提とし、なおかつ編集できない生放送だったことが逆に功を奏した。作り手側の混乱ぶりが、番組の雰囲気として視聴者に対してホンモノらしさとして伝わった。
長い間テレビ番組は完成度の高さを常に追求してきた。ところが今は、これがマイナスになっている。そのきっかけはソーシャルメディアの発達よる。ソーシャルメディアの素のままのコミュニケーションの面白さを体験してしまうと、テレビの完成度の高さが嘘っぽく感じられてしまう。
視聴者=ユーザーとの距離が開かないようにするため、またユーザーに心を許してもらうため、わざと突っ込みを入れやすくし、突っ込まれたら紋切り型でなく人間的な言葉で返しコミュニケーションを成立させる、こうした中の人を感じさせる事が必要だ。
これはネットサービスでいうβ版の発想だ。未完成な状態でサービス(番組)を提供し、ユーザー(視聴者)からのリアクションをもらうことで、番組が成立する、言わば、ソーシャルコンテンツとして育てるという発想だ。

次は下線(*3)と(*4)
今のテレビ界は、冒険ができないという大きな悩みを抱えている。
元来、テレビの世界では打率10割なんて有り得ない。新番組5本のうち1本が当たれば成功だとすら言われていた。しかし今は失敗が許されない、許す余裕がテレビ局になくなっている。テレビを作る人間は「ユニークな新しい番組を冒険して作って大当たりさせたい!」と思っている。ところが、失敗はダメと言われているので冒険ができない、すると当たる番組は出てこない。
成功するためには、失敗は必要なのだ。
今回の「大炎上TV」の視聴率は2.2%だった。深夜番組としては合格点だろう。しかしこの番組の価値は、視聴率では測りたくない。先に書いたように問題点は確かにあったが、リスク覚悟の上、冒険して放送したことに価値がある。少なくとも私が知っているネット上の著名人、メディアに詳しくFacebookやTwitter上で影響力のある方々の多くが、この番組を見ていた。その人たちが自身のブログやソーシャルメディアでコメントする事に価値がある。2.2%などでは測れない価値があることを、もうそろそろテレビも考え始めていいのではないだろうか。

 

実は今回述べた論点は、先月、ウジトモコさんのデザインマーケティングカフェで話した内容と重なる部分が多い。

 

 志村さんへの反論

先日のウジさんのポストの冒頭で紹介されたが、デザインマーケティングカフェのクロストークで、志村さんは私に「影響力のあるテレビは、それでもソーシャルとかあえてやる必要はあるのか?」と質問した。
志村さんから「テレビはソーシャル連動なんてしなくてもいいのではないか」という意見を聞いたのは、これが初めてではなかったが「アレッ?どうしてそんなこと言うんだろう?」という違和感を感じたのは覚えている。

志村さんは、今回の番組でも明らかになったテレビとソーシャルを融合しようとした時の問題点というか限界を見通していてこのような質問をしたのだろうか。先にも述べたように、確かにマスのコミュニケーションと、ソーシャルのコミュニケーションを融合させるのには限界がある。
しかし工夫次第でもっと進化させて、もっと面白いものが作れそうな気もする。

志村さんの質問に対する私の答えは、ウジさんのポストに紹介されている「何局か潰れちゃってそれでもいいくらいならそれでもいいのかもしれないよね。でも、そんなのはいやだからさ(キリッ)」以外に、「ソーシャルメディアは面白い。そんな面白い事をテレビがやらない手はないだろう。」という答えもあったと記憶している。

今、テレビが作らなければならないのは「視聴率を獲れる番組」でなく、「面白い番組」だ。テレビは本来、その時代時代の最も面白いもの、生き生きとしたもの、時代の最前線(フロントライン)を追求して来たはずだ。
今の時代に面白いのが、TwitterやFacebook、Pinterest、Lineならば、それをいじらないでどうする!テレビが「ただの現在にしかすぎない」のなら、ソーシャルメディアと一緒に何かを引き起こすことこそ、「現在」なのは当然だろう。

 

今回の番組を志村さんはどう見たのだろうか?(もしかすると海外にいて、見ていないかもしれないけれど…)

 

 

 

氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。最近はテレビ業界の外の人たちとの人脈が増えてます。
フルマラソンでサブ4を続けるのが目標で す(今年は断念)。週末は海でセーリングしてます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る