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20127/2

7・2せんぱい日記【<古希+1>になった、「棺一基 大道寺将司全句集」の重さを受け止めかねている、反原発デモのこと】前川英樹

 

 

6/16(土)
誕生日・・・古希+1。
時々、自分は老人になったのだ、と思うことがある。

明日のことなど考えたことがなかった。
今日という日の足し算でしかなかった。
気がつけば、残された今日という日は、もうそう多くはない。
明日のこととして考えようか・・・それとも、もうそんなことに意味はないのか。

午後、放送人の会・幹事会
ついでに、Timber Land 青山店で、自分でメモリアルショッピング。
夜、NHK土曜ドラマ「永遠の泉」、幾層もの時間がキチンと演出されている。良いドラマだった。

6/18(月)
四谷メディカルキューブで術後の診察。問題なしとのこと。
16時半:総務省で情報通信審議会情報政策部会「地上デジタル放送推進に関する検討委員会」2年ぶりだ。
2010年にアナログ終了についての中間答申をまとめて以来。通算57回目。これで最終回となる。行政の委員会メンバーになることももうないだろう。
終了後、主査の村井純さんと挨拶。「放送のことをホントに知らなかったので、前川さんの教示が有難かった」といわれる。2年前の取りまとめ挨拶でもそう言われた。インターネットの父に教えたのだから、まイイか。

「革命いまだ成らず」上下(譚璐美 新潮社)。孫文を中心にした辛亥革命前後の日中の人物群像が描かれていて、物語として面白かった。あの混沌の中から、別の歴史もありえたのであって(もちろん、明治維新だったそうなのだが)、そうだとすると、今日中関係はどんなことになっていたのだろうか。

 6/19(火)
「棺一基 大道寺将司全句集」(太田出版)。放送人の会の幹事会でちょっと話題になったのだが、日曜の朝日の読書欄に田中優子の書評が載っていた。Amazonで取り寄せ。

 「棺一基四顧茫々と霞みけり」

容易に批評を許さないものがここにある。

東アジア反日武装戦線・狼という集団があった(他に蠍。大地の牙ってあったかな?)。近代日本がアジアで犯した行為を断罪するというのが行動理念だったはずだ。数多あった新左翼組織とは異なるポジションにいたように思えた。大道寺はそのメンバーで、三菱重工爆破事件で死刑確定。その前に天皇お召列車爆破を計画したが未遂。
連合赤軍とオウムの比較から時代を読みとろうとする人たちがいたが、この東アジア反日武装戦線というグループは、そういうアプローチからは見えない何かがあったのではないだろうか。ぼくにとって、そこを分かり切らない(分かろうとすることを放棄した)ままに、いまこうして突然俳句として眼の前に登場した。これについて語るのには、少し時間がいる。田中優子の評を載せておこう。

夜、風雨激し。

6/20(水)
風強し 蒸し暑い
台風の後の夕景が凄いほどきれいだ。

 

「棺一基 大道寺将司全句集」を読みながら、思ったのは、
春三月縊り残され花に舞う
という句だった(前にも桜の季節で何度か紹介した)。
赤旗事件で収監中だった大杉栄が、大逆事件で幸徳秋水が処刑されたことを知り、出獄して詠んだ句だという。なんとも壮絶で、これほどの激しい花見はないだろう。
大道寺の句にも大逆事件が登場する。

ロープシンの「蒼ざめた馬」「黒馬をみたり」、ザビンコフ「テロリスト群像」を本棚から下ろしてみようかなとフト思う。作家ロープシンの本名がザビンコフで帝政ロシア時代のテロリスト。青い馬は死をもたらし、黒い馬は飢餓をもたらすものとして、ヨハネの黙示録に登場する。
ついでのついでに、フレッド・ジンネマンの映画に「日曜日には鼠を殺せ」という傑作がある。渋すぎてヒットしなかった。スペイン人民戦線で敗北してフランスに逃れたゲリラのリーダーが、母親の危篤の知らせを罠と知りつつ戻って殺される話で、原題は“BEHOLD A PALE HORCE”(蒼ざめた馬を見よ)。「日曜日には鼠を殺せ」(Killing A Mouse on Sunday)というのは、原作小説(プレスバーガー)の小説のタイトル。邦画タイトルを原作のものにしたのは、黙示録では客が来ないということだろう。妙な復讐劇めいたタイトルにしないだけでも良かった。グレゴリー・ペッグ、アンソニー・クイン、オマー・シャリフ(手元にDVDがあるけど、観たい人いるかなァ・・・)。

6/21(木)
午前中診療所。
夕刻、吉祥寺。担当のマッサージさんが独立して吉祥寺で開業。
出かける。

6/22(金)
昨夜久しぶりに遅かった。
終日眠い。

6/23(土)
民放研出版企画掲載の原稿(学者研究者9人分、現在原稿提出7人)のサマリーを作成。去年の秋から自分の担当分も含め結構苦労していたので、ちょっとホッとしている。8月頃出版。

6/25(月)
BS映画「紀ノ川」。
こういう一族の話は割と好きだ。トオマス・マン「ブッテンブローク一家」、北杜夫「楡家の人々」、少し違うけどパール・バック「大地」など。自覚した時には既にほとんど解体していた自分の一族のことが、どこかで気になるのだろうか。育ちも大事だか、氏というのも結構いろいろある。「紀ノ川」で、最後に残っていた家財をすべて売ってしまうという行動にちょっと衝撃を受ける。「こんなものがあるから、それをあてにして跡取りがだめになる」ということ。

6/26(火)
Walkingコースの変更。大手ディベロッパーが開発した地域なので、少し人工的だが悪くない散歩道が途中にある。

6/27(水)
明日、TBSの株主総会だということを、忘れていた・・・どうしよう、行こうか、行くまいか。インターネットによる議決権行使という手もあるし。

6/28(木)
結局、株主総会に出かける。
「女性取締役が何故いないのか」、「社外取締役は全て取引関係者ではないか。独立した社外取締役がいるべきだ」、「株価上昇につながる情報が市場に出ていないのは何故か」等、まっとうな質問だ。マニュアル通りの答えでは無愛想過ぎる。「見識」の見せ所なのに。

6/29(金)
民放連から「テレビは何を伝えてきたか」(植村鞆音・大山勝美・澤田隆治/ちくま文庫)が届く。月刊民放連載時にぱらぱら読んでいた。改めて読んでみよう。


反原発デモ。主催者側は20万人とも言っているとのこと。これだけの市民が集まるのは、60年安保の時の「声なき声の会」か、その後のベ平連のデモ以来だろう。安保の時は5月19日から6月18日までの一ヶ月だけの盛り上がりだった。
多分このデモは、反原発の意思表示に加えて心情的には政治の混迷空洞化への異議申し立てがあり、それが一方で橋下的現象に、そしてもう一方がこの街頭行動として現象している…のではないか。「デモがあるということはいいことだ」と言っていたのは柄谷行人だった。
日本にも「アラブの春」が来たという見方もあるという。
現場では、あまりに大勢が集まったので「混乱を恐れて」解散指示が出たという情報があったが、そうなのだろうか。若し「アラブの春」を期待するのであれば、「混乱を恐れずに」行動しようとなったときだろう。そのとき、市民・大衆が政治の前面に登場することになる。身体的とはそういうことだ。
ところで、主催者って・・・?誰が「指示」したの?「どういう判断」で?指導者はいるの?指導者がいないとすれば、そのことの良さと限界。

 6/30(土)
午後、あやブロ蕎麦屋会。阿部君、稲井君と赤坂砂場。
とりとめのない午後の酒というのは楽しい。

以下は、翌日書いたことだけど、6月の記録としておこう。
「棺一基」を読み終わってから色々思うことがあるのだが、なかなか落ち着かない。
確かに監獄の中であることを迫られる句。
「春光や房壁にある罅(ヒビ)二本」
「絞縄(コウジョウ)の今朝(コンチョウ)堅き梅雨じめり」
(誰か死刑囚の刑の執行のあった日)
ほとんどは、独房に届く微かな季節の変化を、研ぎ澄まされた想像力で詠んだ句と思われる。
「初蛍異界の闇を深くせり」
「散り敷きて一輪残る紅椿」
わが身のこと、自分の為したことを詠む。
「身のなかの修羅育ちゐる冬の暮」
「わが胸にくい深々と風光る」
思想の持続を確かめている。
「君が代を齧(ガシ)り尽くせよ夜盗虫」
「底冷えや国家の貌(カオ)の顕わるる」
そして<3.11>は監獄にも来た。
「風評といふ差別負ふ胡瓜食ふ」
「水底の屍照らすや夏の月」

三菱重工ビル爆破の遺族や被害者が、犯人が句集を出すと聞いたら心穏やかではないだろう。生きていることそのものを許せないと思うかもしれない。であればこそ、刑罰は復讐ではない。
そして、それでも生きていることに向き合うことの切実さやひたむきさ、その昇華は人を打つものがある。
そう思うのは、大道寺の犯罪から生れるものなのか。例えば、オウムの中からそのような生き方が示されたら、それも同じように受け取られるべきか・・・そうなのだろう・・・。
田中優子が書いているように、辺見庸の序文・跋分もこちらを打つものがある。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964 年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

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    • Hideki Maekawa
    • 2012年 7月 02日

    6月後半は、結構重たかった。「棺一基 大道寺将司全句集」もそ​うだし、反原発デモのこともそうだ。<古希+1>になったせいば​かりではない。「六月は真紅の薔薇」という素敵なタイトルの小説​があったが、そういう気分ではなかった。
    新しい本はもう買うまい、読んでない本や再読したい本で十分だと​思いつつ、買ってしまうのだ

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