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20122/28

[河尻式連立方程式を過激に読む・・・これって、変数ばっかじゃないか!] 前川英樹

河尻さんポストを読んでからずーっと唸っている。
唸っていても仕方がないから、どう唸っているかを書いてみよう。

質問A.:こういった映像コンテンツは、今月あやぶろで皆さんが色んなアングルから提示していた「新しいテレビジョン」の世界ではどうなってしまうんでしょう? リニアなものとソーシャルなものは完全分離される?

 Aの答えはこうだ。
リニアなものとソーシャルなものは完全分離されない」
「分離されない」からテレビジョンなのだ。分離れされてしまったら、テレビジョンではなくなるだろう。テレビジョンでない何物かが出現しても一向に構わないが、新しくてもなんでもテレビジョンである限り、リニアとソーシャル、ライブとドキュメント、リアルとサイバーが組み合わさって、寄せ鍋的あるいは玩具箱的時空を形成し、それ自体が<ライブ>として存在することで、そこにテレビ型プラットホーム(テレビ的ハブ化)の可能性があるだろう。
これが、河尻質問Aへの前川回答Aである。

さて、問題は質問Bである。
質問B.:今月の議論では確か、テレビは一度死んだことにしましょうという流れになってました。
では、ソーシャルテレビ(スマートテレビ)における実現ステップを、『「①メディア・思想論 × ②システム・インフラ(著作権等含む)論 × ③ビジネス・マーケティング論」の連立方程式の解として考えると、それを実現させるために、我々はどうすればいいのでしょう?

 答えよりも、この質問をどう理解するか、それに唸っている。
この方程式は全部変数で成立している。だから、公式を使って解くことは出来ない。したがって、一般的な解はない。だが、この方程式は、いまぼくたちが置かれているメディアあるいはネットワーク状況の読み方、あるいはどう向き合い方を考えるために、なかなか良く出来ていると思う。では、この連立方程式をどう考えるか。
ずるく答えれば、「人それぞれに答えが違うのだが、その違う答えを突き合わせる中からほんとの答えを見つけるべきだ」ということになるのだろうが、それでは河尻設問に向き合ったことにならない・・・などと呟きつつ、考え考えしているところなのだ。
とはいえ、それぞれがこの方程式をどう読むかというところからしか始まるまい。そうとなれば、読み方はこうだ。
「①⇒(②)⇒?」
つまり②までは何とかたどり着いても、多分③には行き着かない、というのが前川的解=非解なのである(例えば、地デジについてぼくのしたことは、というよりぼくが「地デジやるべし」といったのは、「①⇒②」という関係性にあって、③は考えないことで成立した)。
冗談ではなくて言うのだが、②についてそれなりの展望があり、③について提案する能力があったら、ぼくはここにいないかっただろう。
どこからこの方程式に入り込むか、それこそ人によって違うだろうが、大事なことは「得意技で勝負するしかない」ということだ。得意技とは、その技で勝負しているときが、一番面白いということであり、面白がらなければ説得力も影響力も生じないということなのである。だから、一般的・客観的解はないのだ。
次の河尻さんのフレーズはそれを意味しているといってよい。

<自分は「①×②×③の方程式」にトライするために必要なものは、マインド面から述べると、意外と「火事場のクソ度胸」かなという気がしています。現状、これを持ち合わせている人材は、テレビ界隈よりウェブ界隈に多い気もします。人材、大事ですね。>

そう、人材は大事なのだ。テレビ業界は人材の大事さを忘れてきた。いま、自分の仕事を面白がっている人間が、どれだけテレビにいるだろうか。そして、ほんとに面白がるためには①は絶対条件なのだ。②でも③でも面白いことは出来るだろうが、それがメディアやネットワークや、はたまたまクリエイティブなことに関わるということである以上、そこでの①の不在はありえない。つまり、①は「中身」の問題なのではなく、もっと“メタ”な、<場>への関わり方そのもののように、ぼくには思える。①だけがテレビ的であれソーシャル的であれ、自分の存在理由になりうるのではないか、理屈をこねるというのではなくて、まさしく<マインド>として。
だから、<ヌーヴェルを始めた雑誌「カイエ・ド・シネマ」のメンバーは、ゴダール、トリュフォーはじめ、皆クリティークだったわけで、「最近の映画はつまらん」とか言ってるうちに撮らざるをえなくなったわけでして……>ということが起こりうる・・・のではないだろうか。
それ故に、<それは合理的な選択だと僕は思いますし、いまは場はブログでよいわけです。>ということが説得的になる。
「あやブロ」に何が可能か!?

 河尻さんが<ハブ化>といってから1年余が経つ。その間に3.11があったことで、<ハブ化>のイメージがとても分かり易くなってきた。
河尻さんが最後に紹介している “deliver hope project”も、動機はともあれ、行為としては<ハブ化>につながるものではないだろうか・・・もっとも、この場合はテレビなんてほっといてもいいけど。

 ここまで書いてみて、過剰に①的だと思うが、かえって分かりやすくていいかもしれない。それが“せんぱい”の、それこそ存在理由なのだ。但し、河尻さんへのお小遣いは用意してないヨ。
さて、誰かから、②的や③的な、いやそこにもはまらない解が出てくるだろうか。

「二人のヌーベルバーグ」は見損なったままだ。どこかで上映してるだろうか。「マイ・バックページ」は川本三郎の本を読んだ。切なかった・・・。「ゴーストライター」、観たいな。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール

1964年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

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