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201110/14

長崎くんちで考えたこと - 山脇伸介

 毎年10月7〜9日は、「長崎くんち」の日である。長崎の諏訪神社から神様が10月7日に波止場に下りてきて(お下り)、9日にお帰りになる(お上り)。その間、江戸時代から残る49の「踊り町」の内、毎年7町がその町伝統の踊り(出し物)を奉納して神様をなぐさめる。つまり同じ出し物は、7年に1度しか見ることはできない。

今年は、日程が週末&連休に当たったこと。そして、「踊り町」の中でも、最も勇壮な出し物として知られる樺島町(かばしままち)の「太鼓山」=通称「コッコデショ」が7年ぶりに登場するとあって、長崎くんちは大変な賑わいとなった。

諏訪神社には小泉純一郎元首相も姿を見せ、大喝采を浴びていた(どーでもいいけど、この人の情報感知能力は本当にタダモノではない)。
生まれも育ちも樺島町で、叔父2人が「コッコデショ」の総指揮を務めたという相方の気合の入りようも尋常ではない。
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(写真:コッコデショ@長崎公会堂、山脇撮影)

 「コッコデショ」は1799年頃、江戸幕府が堺の「だんじり祭」から導入したのが最初といわれる。隠れキリシタン対策もあったというが、今ではオリジナルの堺の祭はなくなってしまい、長崎で7年に1度(かつては、3年に1度ということもあったらしいが)披露される。

 動画が載せられれば一目瞭然なのだが、1トン近い神輿の上には小学生の男子が4人乗っていて、それを担いで「飛ばせ(走れ)」「回せ(回れ)」とダイナミックに動き回る。
そしてクライマックスは、「コッコデショ(ここでしよう!)」と決めて、4人の小学生ごと神輿を空中に放り投げ、バシッと受けとめるのである。長崎くんちの華である。これで、長崎の町中を練り歩くのだ。

http://bit.ly/q3vpvC

(動画:ユーチューブ、山脇撮影)

ところで、かつては樺島町出身者で占められていたという担ぎ手も、今ではインターネットで募集している。年配の人に聞くと
「樺島町出身者でないのは残念」
というが、よくよく聞いてみると昔もクチコミで樺島町以外の人たちも応募していたらしい。
ましてや、昔ながらの商売を営んでいた旧家が次々に店をたたみ、サラリーマン世帯が主流となっている現在、町内の連帯感も希薄になってしまっているはずだ。

ネットで調べてみると、今年の「コッコデショ」のブログも出てきた。

http://ameblo.jp/taikoyama/

6月からの練習の様子が一目で見ることができる。そこには、等身大の青年たちの奮闘振りが描かれている。かつての「コッコデショ」はもっと謹厳なものだったというが、今回は掛け声の前に「皆さんご一緒に!」の声もかかる。「神事」も、今やみんなで楽しむものになったということなのだろうか。
200年を超える「コッコデショ」を後世に伝えていくことは大変なことだ。インターネットを使って多くの人に参加してもらい、親しんでもらうことは必要だし賢明な選択だろう。
  
本にも書いたのだが、インターネットの普及した世の中では、多くのものが「一般化」されていく。多くの人が参加できるのはいいが、その独自性というか深みは逆に薄まっていくように思う。
その一方で、本当に足を運ばないと見ることのできない「美しい景色」や、味わうことのできない「田舎のレストラン」といった「ハイタッチ」なものはよりその「深さ」「貴重さ」を増していくという二極化が進んでいる気がする。

果たして、どっちがハッピーなのだろう?にわか「コッコデショ」追っかけをしながら、そんなことを考えた。

山脇伸介(やまわきしんすけ)
1991年TBS入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook 世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)

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