あやぶろ/OLD

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201011/16

「“NHKはなくても良い”と民放は言えるか」-前川英樹

 「あやブロ」は、あやとりブログなのだから、誰かがあやを取ってくれないと先に進まないのだが、最初からそう上手く行くわけではない。それなりの仕掛けが必要なのだ。というわけで、ちょっと「一人あや取り」的にいろんな手を出してみて、あやを取りやすくしてみたい。前回に続いてチョットした餌撒きである。

 NHK受信料のあり方に関する新聞記事が出ている。一つは、共同通信配信の「焦点特集『NHK受信料制度見直し』 公共放送の将来像提示へ/視聴者の負担変わる可能性/通信と放送の融合に対応」(原記者)であり、もう一つは11月9日の朝日新聞朝刊「ネット配信に悩む公共放送」(丸山記者)である。どちらも、インターネット時代によるメディア環境の急激な変化のなかで、受信料がこのままでは限界であり、NHKとして新しい経営構造を考えたいと紹介しているが、海外の事例などを踏まえつつ、公共放送と視聴者との関係など多くの課題があるとしている。

 こうした記事を読みつつ思ったことがある。
 どれくらいの期間民放連の仕事に関わってきただろうか。多分20年くらいだろう。その間、何につけ放送局の数だけ意見があって(もちろん、それは悪いことではないのだが)つねに最大公約数でしかまとまらない業界が、ことNHKとなるとそれが何んであれ「反対!」となってしまうのが、(申し訳ないけど)おかしかった。私自身、NHKとは色んな局面で結構厳しい向き合いもしてきたが、NHKの「先導的役割」に拮抗するには、こちらも相応のスタンス示しつつNHKと共同・連携しなければいけないと思ったことがある。ところが、それを民放側に持ち帰ると「NHKと組む必要なんかない」といわれて往生したことがあった。もちろん、NHKは民放のことなど考えず、自分の都合だけ考えているのであるから、手放しで組むわけにはいかないのだが、それにしてもう少し何とかならないものかと思ったものだった(こうした状況は地デジ対応の中で少し変化して来たように思うが)。今回記事として伝えられている受信料体系見直し問題も、NHKの肥大化につながるものは認めがたい、ということになるだろう。
 いうまでもなく、こうした主張は「民放とNHKは放送という車の両輪」であり、財源の棲み分けによる共存共栄を意図するところから出てくる。そうであればこそ「民業圧迫」は認めがたいということになる。だが、いまの「ネットの時代」にこの論理は有効か。
 そもそも民間放送の存在理由とは何かといえば、「NHKがなくても国民は不利益を被らない」つまり「NHKはなくても良い、そのための民間放送なのだ」と言い切るところにあったのではないか。NHKは「民放がなくても構わない」とは言えない。それは言論の多様性に反するからだ。まずそのことをハッキリしておこう。
 その上で、例えばドキュメンタリーの分野でNHKが示している並々ならぬ力量をどう考えるか。そこで民放が何をしてきたか、あるいは何をしてこなかったかというレビューが必要なのである。これだけネット上に情報があふれている時代だから、視聴者に「NHKの一つはあっても良いが、民放のチャンネルは減らしても良いンジャナイ」などと言われかねないのであって、それ故にこそ、広告主、広告業界、テレビ・ラジオ業界がネット時代のマーケティングを共同でおこない、「NHKとの財源の棲み分け」を超えた経営構造を生み出さなければならないのだ。その一方で、テレビ(ラジオ)が形成する言論空間がネット時代にどうあるべきか、それを番組として示すことが、民間放送として肝要なのである。そのためには、ニュースやドキュメンタリーだけではなく、バラエティーも、スポーツもジャーナリズムであるという経営理念が不可欠だ。NHKによる「民業圧迫」に異を唱えるとするならば、そのためにネット時代の民放の将来展望を本気で考えるべきだ。エッ、考えてるって?そうかなァ…。
 ここのところは「最大公約数」というわけにはいかないと思われる。

*. NHKに関するコメント、民放ローカル局のドキュメンタリー制作、などについては「メディアノート」No138.「< 孤独な視聴者>・< 龍馬伝>・< 地方局制作>」(2010.1.15.参照 ココをクリック)

*.民放大会や民放を取り巻く状況については、「メディアノート」No134.「テレビの< 進化>とテレビの< 危機>-民放大会・パネルディスカッションがディスカスしなかったこと-」(2009.11.15.ココをクリック)、また、「地方の時代映像祭」やデジタルネイティブにおけるテレビについての調査などを通してテレビを考えたことについては、同じくNo135.「テレビの立ち位置」(2009.12.1.ココをクリック)を夫々参照。

TBSメディア総合研究所”せんぱい” 前川英樹

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール
1964年TBS入社 < アラコキ(古希)>です。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳のある日突然メディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジというポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。キーワードは”蹴手繰り(ケダグリ)でも出足払いでもいいからNHKに勝とう!”。誰もやってないことが色々出来て面白かった。でも、気がつけばテレビはネットの大波の中でバタバタ。さて、どうしますかね。当面の目標、シーズンに30日スキーを滑ること。

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