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20116/14

「ガラパゴスかはたまたクールジャパンか-木原さん、矢野さんのあやを取りながら、弁当について考えた-」ー前川英樹

ギャラクシー賞贈賞式は木原君と一緒だった。今年のギャラクシー賞はどのジャンルよりCM部門が面白かった。番組よりCMの方が時代の切りとり方が類型化していない。時間制限がきつい分だけ、喩えて言えば、短歌俳句のような短い定型詩が情景を鋭く切り取るのに似ているのかもしれない。
ソフトバンクの白戸家・総選挙篇の迫力に負けて大賞を逃したが、九州新幹線全通CMも、東京ガスのお弁当CMもメッセージ性という点では勝っていたように思う。木原君に同感だ。九州新幹線とトラファルガー広場のヘイジュード大合唱をWebで見比べてみたが、矢野さんの言うように、表現の細かさでは新幹線が圧倒的だ。こういうところは日本的芸の優れたところだ。
それは、東京ガスのCMが取り上げた弁当というものにまさに代表されていて、たかだか15cm×20cm程度の箱に日常的な食材を詰め合わせることで“美”だけでなく“情”までも表現してしまう、これを芸といわずして何を芸というのか。だから、「寝坊してゴメン」が活きてくる。沢庵を卵焼きに見立ててしまう落語「長屋の花見」的諧謔も、弁当文化というものがあって初めて成立するのだろう。東京ガスのお弁当CMにはこうした底流を感じる。
日本では、弁当という携帯型簡易食が何時からこんな風になったのだろうか。割と手前で考えれば、サラリーマンの誕生と弁当の関係が、都市型日常性としての弁当のを考えるポイントだろう。そういえば、私の父の世代だけど、「腰弁」という言葉があったっけ。
欧米文化において弁当がどういう位置を与えられているか良く知らないが、一昨年旧満州を旅行したときに、日本が中国にセールスするものはまだまだある、という話題を同行者と話した(メディア・ノートNo.131)。ウォシュレットはもちろんだが、ホテル、レストランのサービス(10年前に比べたら、凄く良くなっているが)、公共施設のバリアフリー技術、宅配便システム、などなど。その一つが駅弁だった。日本が海外に売りに出せるものといえば、アニメとかゲームとかが代表例でクールジャパンなど呼ばれているようだが、弁当という文化にして商品そして駅弁というシステム、さらには街の弁当ビジネスや介護サービスとしての弁当のシステムは、世界に相当誇れるもののように思える。

突然だが、「ナショナリズムは国民の凝集力を高めるために、想像上のナラティブ(物語性)を装う。忘却されていた歴史が発見・想起され、特定階層の文化が国民文化として称揚される。」という文章が目に飛び込んできた。スピヴァクの「ナショナリズムと想像力」についての中島岳志氏の書評の一節である(6.12「朝日新聞」)。弁当にも「日の丸弁当」(梅干し一個)とか「爆弾三勇士」(目指し三匹)とか、国家の物語と無縁でいられない時代があった。しかし、弁当そのものは「特定階層の文化」ではない。特定の階層に取りこまれない日本的文化=芸は、大森や東大阪の工場が代表的だが、それだけとは限らない。いま、わたしたちは弁当文化において無名の人々の“芸”を活かせる時代にいる。

弁当からナショナリズムを考える!?あるいは、日本の弁当はガラパゴス的現象か!?そして、弁当もクールジャパンであるか!?

弁当文化は奥が深い。そして、それを取り込むCMもまた奥が深いのだ。
ね、須田さん。

                  □

ところで、今月古希を迎える。いまどき70歳なんて全然「稀」ではないが、これまで過ぎてきた20、30、40、50、60といういわゆる節目に比べると「そうか…70かァ・・・」という思いは強い。何故だろう、やっぱり年をとったということだろうか。シルバーとかシニアとか高齢者とか、何でもいいけど、その年代に初心者として足を踏み入れることになる。心して過ごしたいものだ。
と思っていたら、雨のゴルフ場の斜面で足を滑らせて転倒。腰に手のひら大の無惨な内出血の痕をつくってしまった。まことに、心したいものである。

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