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20147/11

ブラジルの惨劇を納得させてくれた記事、ありがとう

早起きが苦手なのに根性で起きだして半分寝たままのボーッとした頭で見ていたワールドカップ準決勝、ブラジルvsドイツ。試合開始後まもなくドイツの得点で「これでブラジルも燃えて逆転かな」と思っていたら、あれよあれよ言う間のブラジルの失点、23分から29分のわずか6分間に4連続失点。眠気が吹き飛んだ。結局ブラジルは7点をとられ、歴史的な敗退を喫した。

実況アナウンサーの「完全に、完膚なきまでブラジルを叩き潰す6点目」とか、「悲劇を通り越して惨劇ともいえるここまでの動き」という言葉が耳に残った。
ブラジル選手の虚ろな眼差しと、ドイツ選手の戸惑ったような困ったような表情が印象的だった。

いったい何が起きたんだ?
見ているこちらもブラジル選手同様、茫然としてしまった。私はサッカーのファンではないが、何かとんでもないことが起きたのはわかる。しかし、なぜこうなったのかまるでわからない。
その日、Facebookにこう書き込んだ。『ドイツ7:ブラジル1、誰かしっかり分析記事を書いて、納得させてほしい。』。
そう、とにかく納得させてほしかった。王者ブラジルが、攻撃の中心と守備の中心を欠いたとはいえ、あそこまで崩壊してしまうとは。
組織というものをいつも意識せざるを得ない立場の人間としては恐ろしさを感じたし、誰かにちゃんと説明してもらって何が起きたのか、どうしてこうなったのかを少しでも理解したかった。

ところがネットに流れるどの記事を読んでも、全くわからない。わかったようなことを書いている記事はあるものの、無理矢理ステレオタイプに落とし込んで、ために書いたような記事ばかりだった。

しかし翌日になってこんな記事が書かれているのをFacebookで発見した。
『歴史的敗戦をセレソンはどう語ったか。茫然、無言、饒舌…それぞれの傷。』というタイトルだ。
http://number.bunshun.jp/articles/-/821225

『何かすごいものを見てしまった、誰もがそんな表情を浮かべている。あたりはどよめきに包まれていた。』という書き出し、そして『ブラジル人はなかなか現れない。待ち続ける記者は、なぜこんなことになったのか理解できないと、様々な論を交わしていた。』という一文で、私のような素人だけでなく、専門の記者たちも同じような唖然とした感覚でいることがわかった。

その後は、試合後のミックスゾーンで各選手が語った言葉が並んでいる。

『人生でこんなことは経験したことがない……。うん、初めてだ。言葉すらない。いったい何が悪かったのか、それすら分からないんだ。試合前の雰囲気はいつもと同じだったんだけど……。信じられないことって、本当に起こるものなんだな』

『人生で最悪の試合をしてしまった。この敗戦は、僕らの生涯にずっとついてまわるだろう』

『失点のあと、なぜかチームはバランスを失って……。あの8分間。あれがすべてだ。7失点で負けるってのは、普通じゃない』

『キャリアの中でこんなことは経験したことがない。説明できないんだ。なぜこうなったのか、できれば説明したいんだけれど……。』

何が起きたのか、選手も記者もわからないくらいの、とんでもないことが起きた、だから私のような素人がわかろうとしたってそれは無理だ、わからないままただ受け止めるしかない、それを一番わからせてくれた記事だった。誰かに納得させてほしいと思っていた気持ちが、「誰もわからないんだ」ということが理解できて、ようやく納得できた。

こんな理解できないようなとんでもないことが起きたとき、メディアは何を伝えればいいのか、わからないことを認め伝える勇気、わからないことをわかりやすく伝える技術、いろいろ考えさせられた記事だった。

この記事はNumber Webに掲載されている。さすがNumberだ。
書いたのは豊福晋さん
プロフィールには「1979年福岡生まれ。1990年代初頭にサッカーにのめり込み、’01年のミラノ留学をきっかけに欧州へ。中村俊輔、中田英寿らを取材しながらイタリア、スコットランド、スペインと移り住む。現在はバルセロナを拠点に、欧州各地を回り取材。国をまたぐ引っ越しに嫌気がさしてきたこともあり、しばらく腰を落ち着けたいが、仏語習得という目標もあるため葛藤中。」と書かれている。もしかするとサッカー界では著名な記者さんかもしれないが、申し訳ないことに今まで私は存じ上げなかった。

今回のブラジルの惨劇に関する記事の中では、私にとってはナンバー1の記事だ。どう受け止めればいいのかわからないもやもやを、釈然とさせてくれたすばらしい記事だと思う。豊福さん、ありがとうございます。

 

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表を経て2014年6月現職
テレビ局系関連企業2社の社長
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

 

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