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20128/20

8・20【ソーシャル×五輪=コスモポリタン-4年後のリオデジャネイロ五輪を考えてみる- 】志村一隆

テクノロジーやソーシャルを組み合わせることで、人々はコスモポリタンとナショナリストな部分、その二面性をより手軽に意識するようになるだろう

選手がメディアに

前回ポストで紹介したウサイン・ボルト選手のツイッターフォロワー数は、閉会式時には160万だった。米国バスケットボール選手のルブロン・ジェイムズ選手は、580万。ロンドン五輪中に、ボルト選手は100万件、ルブロン・ジェイムズ選手は30万件増えている。
そして、開会式と同様に閉会式の様子も、色々な選手が画像をツイッター経由でアップしてる。たとえば、カナダの女子サッカー選手はスパイス・ガールズの姿を、ツイッターにアップしていた。
こうしたソーシャルメディア活動が、テレビ中継から独立した時間性を獲得することによって、メディアとなる現象については、前回述べた。

それより、次回4年後(いや2年後も冬季五輪があるけれど)、このソーシャルな動きがどうなるのか考えてみよう。タイトルの「×」は、河尻さんの2011年10月8日ポストからインスパイアされた。

 

会場のモバイル通信環境

まず、リアルな活動をネットにあげるという意味でのソーシャル活動を可能としているデバイスから考えてみる。
いま、ケータイを買う人の40%はスマートフォンを選んで買っていく。このままいくと、4年後には、世界中で10億人以上がスマホを使っているだろう。
ロンドン五輪のメーン会場は、収容8万人の20%がその場でネットにアクセスするという想定で通信インフラが整えられていたという。4年後のリオデジャネイロ五輪では、その割合は40%になるのかな。2倍だ。ソーシャルメディアの情報量も2倍になるんだろうか。

 

五輪のソーシャル活動の配信権

情報量が増えれば、それがビジネスに結びつくだろう。たとえば、大会期間中の選手のソーシャル発信の配信権を独占できる代わりに、インフラ整備代を負担する企業が現れるかもしれない。
配信権を独占できる企業は、選手のソーシャル活動のメディアを作り、自社宣伝をする。メディアを活発化するためには、選手のソーシャル活動を促進する必要があるから、通信環境を向上させるインセンティブが働く。
選手に最新のスマホを配布する企業(サムスンとか)や、最新のアプリを配布するベンチャー企業がいてもよい。
IOCにとっては、放送権以外の新たなメディア収益源となる。ソーシャルメディア業界にとっても、ビジネスモデルの開発になるのではないだろうか。

 

Chromeの翻訳機能

ただ、200以上の国から来てる人が自国語でソーシャル活動しても、情報の受け手が理解できる言語には限りがある。そんなときは、グーグルのChromeブラウザが活躍する。いや、違うのも出てくると思うけれど。
今回のロンドン五輪では、Chromeが便利だった。どんな言語も日本語に訳してくれる。新体操のカバエワ選手のサイトも日本語で読めるし、サッカー日韓戦後の「独島」問題も、韓国語サイトで何が言われているのか、なんとなくわかってしまう。
もちろん、いまは変な訳も多いが、4年後にはもっと精度があがっているだろう。
スポーツを見て感動する。言葉は要らないのだろうが、選手がソーシャル活動を活発化すれば、それを読みたいニーズも高まる。自国の選手を応援するだけでなく、「この人すげぇ」と思えば、その人のつぶやきを読みたくなる。そして、そこには、テクノロジーが役立つ領域がある。
そんなことを考えれば、グーグル(や、他のIT企業)がオリンピックのスポンサーになってもよい。今回、ツイッターやフェイスブックをしていた選手は、北米、西欧の人が多かった。今後、アフリカや南米、インドなど新興国市場を狙うのであれば、こうしたIT企業が五輪にスポンサーシップをする意味も充分あるだろう。

 

ソーシャル時代のオリンピックの意味

小学校の運動会には、クラス対抗リレー以外に、町内対抗リレーがあった。年齢違う人と集まるのが結構好きだった。いまでも同じ町内で神輿を担ぐと、血湧き肉踊る。

情報がネットに載るほど、オリンピック(=スポーツ)は、国境をまたぎ世界中の多様な文化を展示する役割を拡大させる。
そして、テクノロジーやソーシャルを組み合わせることで、人々はコスモポリタンとナショナリストな部分、その二面性をより手軽に意識できるようになるだろう。
それがソーシャル時代に果たすオリンピックが社会に果たす役割なのではないか。
五輪出場のために違う国籍を取ったり、米国育ちなのに母国の代表として出場したり、選手は既にコスモポリタン化している。高校の野球留学と同じだ。
見る側はどうだろう。色々な国の選手のソーシャル情報に大量に触れると、コスモポリタンな感覚が増える。それでも、大多数はリアルな連帯感(ナショナリスト的感覚)を楽しむのだろうが。やっぱり同じ町内で神輿を担ぐと、血湧き肉踊る。
しかし、それでも、リアルな国籍にこだわりつつ、新たなコスモポリタン感覚でプレイを見る人が増えていくに違いない。
五輪は、国別という仕組みを残すことで、コスモポリタン化しているプロリーグと差別化している。それは、我々がリアルに持つ地元意識と人間誰もが同じなんだというコスモポリタン的な感覚、双方を意識させてくれるようで、とても面白い。

 

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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