あやぶろ/OLD

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201310/31

テレビ視聴は個人化するのか

世帯財から個人財に

 

ちょっと時間が経ってしまったが、志村さんの提示した「視点のズレ」の中で、「ウチとソト」という冒頭のテーゼが面白かった。

 

昔は映像作品を観るのに「映画館」しかなかったが、それが「街頭テレビ」になり、やがて家庭のお茶の間に「テレビ」が持ち込まれた過程が「外から内」のイノベーション。
その流れが一巡したあとに、ウォークマンやDS、スマホなどのデバイスが開発され、家庭から屋外視聴用に持ち出されていった過程が「内から外」のイノベーション。
ロケーションに焦点をあてれば、志村さんの言うとおりで、面白い変化となる。

 

しかし、切り取る視点を「誰の用途に供する財か」に焦点をあてれば、これらの変化は次のようになるだろう。

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映画館も街頭テレビも、不特定多数の人が見ようと思えば、見ることができる公共空間におかれたメディアの「公共財」だ。
それが家庭に持ち込まれれば、世帯全員が共有する「世帯財」になる。
そして、ウォーマンやスマホは屋外に持ち出すよりも、むしろ、家庭のお茶の間から所有者の「個室」に持ち込まれ、「個人財」として使用されることが多い。
ティーンエイジャーは、親や兄姉がチャンネル支配する空間から、自分の「巣」の中にスマホを持ち込み、ワンセグやオンライン動画/音楽の視聴を気兼ねなく楽しむことを覚え始めている。

 

このメディアの「個人財」化の流れが、IT系や広告マーケティング業界の個人向けターゲティング論隆盛をもたらしている。または、オンラインにおけるビデオ・オン・デマンド(VOD)、つまり、時を選ばぬ「映像の切り売りビジネス」が近い将来、動画ビジネスを席捲するだろうという期待を高めてしまう。
一種のブームだろう。
「個人財」によって、番組もテレビCMもその他のコンテンツもみんな「個人化」して、視聴者(消費者)がターゲットとして捕捉されていくことが時代のキーワードであり、未来への道標のように持て囃されるようになりつつある。

 

 

 

疎外からの脱却

 

個人化=個人向け仕様にすること
英語で言うPersonalizationは、オックスフォード現代英英辞典によれば
“To design or change A so that it is suitable for the needs of a particular person”
である。
しかし、世の中は当然、一つの原理だけで動いていかない。
人間は社会的動物であり、社会との関わりなしに存在することは難しい。人間のすべての行動様式が「個人化」していけば社会が崩壊してしまう。

 

ユングやフロイトと並んで心理学の発展に貢献した「J.A.アドラー」という精神医学者は、「劣等感」という概念を初めて提唱した思想家だ。
彼の見方によれば、人間の目的は「疎外からの脱却」だという。
アドラーが基本的なところで正しいとすれば、世の中の社会的相互依存関係が薄れて「個人化」に突き進んでいくことは、「疎外からの脱却」に逆行することになる。
それは人間の存在定義を否定するゆえに恐らく実現不可能なことだ。

 

思い出してみたい。
IT技術の進展で映像・音楽メディアが「世帯財」から「個人財」化したときに、同時に何が起きたのか。

 

まず、社会とのつながりを求めるSNSなどが急速に普及していった。
直接的な対面コミュニケーションが希薄になればなるほど、それを補うように仮想空間でバーチャルなつながりを求める一部の人々のコミュニティが形成されていった。
これは「疎外からの脱却」のための自己防衛行動と見ることもできる。
しかし希薄化する人間関係を補うといっても、バーチャル空間は砂上の楼閣のように不安定で壊れやすい。依存しすぎた場合は、排除や中傷、炎上という「負の報酬」を受けることもある。だから、どこかで自己抑制がかかる。

 

 

 

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