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201310/23

「笑っていいとも!」終了に、テレビの可能性を考えた(氏家夏彦)

このサイトはタイトル名からして力が入っていない。今は知名度が上がって普通になってしまったが、最初にニコニコ動画と聞いた時には「その気の抜けたような名前はなんだ?」と思った人が多かっただろう。またスタート当時はサイトデザインもゆる〜く作られていて、あたかも「自分たちはテレビのようにちゃんとした完成度の高い肩肘張ったメディアではないんですよ」と主張するかのようだった。

 

ここでは数多くのコミュニティが誕生し、二次創作、三次創作も含めたユーザー・ジェネレイテドの膨大なコンテンツがならんでいる。テレビとは全く異なる面白さに満ちている。 私自身もニコニコ動画の初期の頃は、よく見ていた。一度見出すと、次々に関連づけられた動画が現れ止まらなくなる。気がつくと2時間くらい、すぐに経ってしまう。少なくとも、夕方のテレビの再放送枠を見るより、はるかに面白い。

 

ニコニコ動画では様々なサービスが次々生まれる。うまくいかなければすぐに引っ込める。
そう、1980年代のフジテレビの軽やかさと同じだ。
フジテレビは、TBSが作り上げた「テレビの物差し」を破壊した。
ニコニコ動画は、テレビが作り上げた「面白さの物差し」を破壊するのではなく、「もっと違う物差しもありますよ〜」と呼びかけている。ニコニコ動画だけではなく YouTubeや、モバゲーやグリーなど様々なサイトが新たな面白さを提示している。そしてユーザーとなった視聴者はこの面白さを支持している。
インターネットと新しいデバイスは、テレビ番組を飲み込みながら変化し成長を続けている。
このままいくと、フジテレビが起こした文化革命が、また起きるかもしれない、というより、その革命は現在進行中なのではないか。

 

 

 

さて、テレビはどうすればいいのか?
まずは身軽になってみたらどうだろう。
かつてのフジテレビのように、軽やかに新たな冒険を次々しかけていってはどうだろう。
視聴率獲得を目標とするのでなく、作り手が「自分が面白いと思うもの」を自分の感覚を信じて作ってみたらどうだろう。
経営者はそういう自由な環境作りに全力をあげてみたらどうだろう。
テレビの可能性を遊んでみたらどうだろう。
志村さんのいう「Playするテレビ」をもっともっと試してみたらどうだろう。
現場の20代、30代のテレビ人間は、デジタルネイティブだ。彼らの感覚、面白さに賭けてみてはどうだろう。
テレビ全盛期の1990年代でさえ、番組が当たる確率は3割もなかったはずだ。今は制作費も限られているし、昔はなかった様々な制約事項があるし、成功の確率は下がっている。つまり失敗は当然なのだ。
「半沢直樹」でもわかるように、冒険しなければ成功は生まれない。冒険すれば失敗は発生する。失敗を覚悟しなければヒットは生まれない。

 

 

「笑っていいとも!」打切りを決断したフジテレビさん、自分のことを棚に上げて言ってすみませんが、是非、かつての軽やかさと冒険を恐れぬ心を取戻して元気になってください。 テレビに陰りが見えてきている今、どの局だろうと元気になるのは大切なことです。
テレビにはまだまだ潜在的な可能性がたくさん秘められています。しかしその可能性は、ひとつの放送局だけでは引き出すことはできません。今は、コップの中でキー局同士いがみ合っている場合じゃなく、テレビそのものの活性化のために、テレビ界全体で新たな冒険に乗り出さねばならない時なのです。

 

 

(参照:あやとりブログ「テレビの未来」シリーズ )

 

 

氏家夏彦プロフィール
株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビの明るい未来を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ番組・ワイドショー・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。
Facebook、Twitter(natsu30)

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